香水のボトル形状は商標登録できますか?

香水のボトル形状は商標登録できますか?

──「立体商標」と「意匠」の使い分けをやさしく解説

香水ブランドを育てていると、こんな気持ちになる場面があると思います。

  • このボトルの形、世界観そのものだから真似されたくない
  • ボトルのデザインって、“形そのもの”を商標登録できないの?
  • 商標と意匠、どっちで守る話なんだろう?

結論から言うと──

香水のボトル形状も「立体商標」として商標登録することは制度上可能ですが、形だけで登録を狙うのはかなりハードルが高めです。
その一方で、

  • ボトル形状+文字やロゴが一体化した立体商標 は、自他商品識別機能が認められやすく、登録されるケースが多くなります。
    さらに、
  • 名前やロゴ → 商標
  • ボトルの形や見た目全体 → 意匠(デザイン)登録
    という役割分担で考えるのが、実務的にはいちばん現実的です。

この記事では、香水ボトルの「形」をどうやって法律で守るかを、

  • 立体商標で守れる場合
  • 文字・図形を含めると登録しやすくなる理由
  • 守りにくい場合
  • 意匠登録との使い分け

という観点で整理していきます。


まず結論:香水ボトルの形も立体商標の対象にはなる

商標法では、商標を

自他の商品・役務を識別するための標識(=自他商品・役務識別標識)

と定義しています。

そして商標のタイプのひとつとして、

  • 文字商標
  • 図形商標
  • 結合商標(文字+図形)

に加えて、

立体商標(形からなる商標)

という制度があります。

この「立体商標」として、香水のボトル形状を登録すること自体は制度上は可能です。

ただし、そのままでは登録されにくいパターンと、登録の可能性が比較的高いパターンがあります。


パターン①:形だけの立体商標は、ハードル高め

登録されやすいイメージ

形だけで立体商標が認められるのは、次のようなケースです。

  • 一目で「あのブランドだ」と分かるような、人型・トルソー型ボトル
  • 他社にはほぼ存在しない、非常に特徴的な輪郭・シルエット
  • キャップとボトルを含めた構成が、強烈な個性として知られている

このように、

デザインであることを超えて、「形そのものがブランドの記号になっている」

と評価されると、立体商標として登録される可能性が出てきます。

「使用による識別力」で登録に至るケース

もともとはそれほど奇抜な形ではなくても、

  • 長年にわたる継続使用
  • 全国的な大量販売
  • 広告などで形が繰り返し露出
  • 「この形を見れば、あのブランド」と一般の需要者に認識されている

といった事情があれば、

商標法第3条第2項(使用による識別力の獲得)

によって、立体商標として登録が認められることもあります。

ただしこれは、

  • すでにかなり有名なブランド
  • ロングセラーの香水

などが中心で、

立ち上げ直後のブランドが、いきなり狙うルートではない

と考えておいた方が現実的です。

登録が難しい典型例

逆に、次のようなボトル形状は、立体商標としては厳しくなります。

  • シンプルな円柱・四角柱・楕円形ボトルなど「ありふれた容器」
  • 握りやすさ・安定性など、機能上当然の形状
  • ロゴや文字がないと、どこのブランドか分からない形

これらは、商標法第3条第1項第3号の

「商品(包装)の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみ」

と判断されやすく、自他商品識別機能がない=登録NGという扱いになりがちです。


パターン②:文字や図形を含む「立体+ロゴ」は、登録の可能性が高い

ここで、重要な実務ポイントがひとつあります。

ボトル形状そのものだけでは識別力が弱くても、ボトル+文字・ロゴ・図形が一体になった立体商標は、自他商品識別機能が認められやすい

つまり、

  • 形だけ → ただの容器と見なされてNG
  • 形+ロゴ・ブランド名 → 「立体+図形(文字)商標」として登録される

というパターンが多く見られます。

なぜロゴや文字があると登録されやすいのか?

理由はシンプルで、

  • ボトルの形だけだと「どこの商品か」分かりにくい
  • しかし、形と一体化したロゴやブランド名があれば、
    → それ自体が強い 自他商品識別標識 になる

からです。

例えば、

  • 特徴的なボトル+ブランドロゴがレリーフ状に刻印されている
  • ボトルの形は比較的シンプルだが、正面に印象的な図形ロゴが組み込まれている
  • 容器に図形ロゴやブランド名等が印刷されている

といった構成であれば、

三次元形状+二次元の文字/図形が一体となった「立体商標(結合商標)」

として、識別力ありと判断されるケースが多くなります。

実務的にどう活かすか?

「ボトル形状そのものの登録は難しそう…」という場合でも、

  • ブランドロゴ
  • ブランド名(文字)
  • 図形のアイコン

をボトル正面にきちんと配置し、

その全体を「立体商標」として出願する

という選択肢があります。

さらに、

  • ロゴ単体図形商標・結合商標として出願
  • ボトル形状意匠として出願

というように、

文字商標+図形商標+立体商標+意匠

を組み合わせると、模倣対策としてかなり強固なパッケージを作ることができます。


ボトルの「形」を守るなら、商標だけでなく「意匠」もセットで考える

ここまで読むと、

「うちのボトル、形だけで立体商標を狙うのは難しそうだけど、ロゴ込みならチャンスがありそう。でも、デザインそのものも守りたい…」

という感覚になっているかもしれません。

そこで出てくるのが、意匠(デザイン)登録との使い分けです。

商標(立体+文字・図形)と意匠のざっくり比較

項目商標(立体商標含む)意匠登録
見ているポイントその形やロゴに自他商品識別機能があるか(=ブランドの「記号」になっているか)形状・模様・色彩など、見た目のデザイン自体の新しさ・創作性
主な対象ボトル+ロゴ・ブランド名、図形マークなどボトル、キャップ、容器、外箱などの外観
主な役割「どこのブランドの商品か」を示す似た外観のコピー品・模倣品を排除する
香水ボトルの場合形+ロゴなどで「ブランドの記号」として登録を狙う新規なボトル・パッケージデザイン全体を保護するのに向く

実務では、

  • ブランド名・シリーズ名・ロゴ → 文字/図形/立体商標で保護
  • ボトル+キャップの見た目全体 → 意匠登録で保護

という組み合わせが、もっとも現実的かつ強力です。

※実際に登録されている立体商標の例


「ブルガリプールオム」の香水瓶の形状
登録第5238777ブルガリ ソシエタ ペル アチオニ

「ジバンシイ ダリア ディヴァン オーデパルファム」の香水瓶の形状
登録第5785693エルヴェーエムアッシュ フレグランス ブランズ

「アランドロン サムライ47」の香水瓶の形状
国際登録0794140Parfums Samouraï SA

「ジャンポール・ゴルチエ」の香水瓶の形状
国際登録0600167ANTONIO PUIG SA

※実際に登録されている意匠の例


「ブルガリ マン」の香水瓶の形状
登録第1425749ブルガリ エス.ピー.エー.

「フォーエヴァー アンド エヴァー ディオール」の香水瓶の形状
登録第1390175
パルファン クリスチャン ディオール

「ヴァン クリーフ&アーペル フェアリー」の香水瓶の形状
登録第1358243ヴァン クリーフ エ アーペル エス アー

「Marc Jacobs Daisy Dream」の香水瓶の形状
登録第1523248マーク ジェイコブズ トレードマークス エル エル シー

実務でのおすすめステップ

香水ブランドのボトル形状を守りたい場合、
「とりあえず立体商標!」ではなく、次の順番で整理するのがおすすめです。

1. 守りたい要素を書き出して仕分けする

まずは紙に、守りたいものをすべて書き出してみましょう。

  • ブランド名(ハウスマーク)
  • 香水ブランドのシリーズ名
  • ロゴマーク(文字+図形)
  • ボトルのシルエット
  • キャップの形
  • ラベルや装飾の配置
  • 外箱のデザイン

そのうえで、

  • 「どこのブランドか」を示すもの商標向き(文字・図形・立体+ロゴ)
  • 見た目のデザインそのもの意匠向き

と考えると、かなり整理しやすくなります。

2. ブランド名・ロゴは優先的に商標出願

香水のビジネスは、

香りや処方は真似されやすく、最終的に差別化の核になるのは「名前」と「ロゴ」

という側面が強い分野です。

そのため、優先順位としては、

  1. 企業ブランド名(ハウスマーク)
  2. 香水ブランドのシリーズ名
  3. ロゴマーク(図形商標/結合商標)

あたりを最初にしっかり商標で押さえることをおすすめします。

3. ボトル形状は「意匠」+「立体+ロゴ商標」を検討

ボトルやキャップの形にこだわりがある場合は、

  1. 新しいデザインとしての 意匠登録 を検討
  2. ボトル+ロゴ・ブランド名の構成を、立体商標(立体+文字・図形)として出願するか検討

という二本立てで考えると、守れる範囲がグッと広がります。


まとめ:香水のボトルは「名前」と「形」と「ロゴ」で戦略的に守る

最後にポイントを整理します。

  • 香水ボトルの形は、立体商標として商標登録すること自体は可能
  • ただし「形だけ」の立体商標は、
  • かなり特徴的で
  • 形だけでブランドが分かるレベル
    でなければ、登録のハードルは高い
  • 一方で、
    ボトル形状+文字やロゴ・図形が一体化した立体商標は、自他商品識別機能が認められやすく、登録されるケースが多い
  • さらに、
  • ブランド名・ロゴ → 商標(文字・図形・立体+ロゴ)
  • ボトルやキャップの形・外観全体 → 意匠登録
    という役割分担で守るのが、実務的には最も現実的で、かつ強力

香水の世界観をつくっているのは、香りだけではありません。
ボトルの形、ガラスの厚み、キャップの重さ、ラベルの配置、名前やロゴ──その全部がブランドです。

  • まずは 「名前」と「ロゴ」 を商標でしっかり押さえる
  • 次に、「形」や「見た目」 を意匠+立体商標(ロゴ込み)で守る

そんな二段構えで考えると、
無理なく、でも着実に、香水ブランドを「形」と「名前」から守っていくことができます。