お店やサロン、スクールを運営していると、
「商標登録したあとに店名を変えたくなった」
という相談をよく受けます。
たとえば──
- 「ブランディングの見直しで新しい名前に変えたい」
- 「似た名前の店が出てきたので差別化したい」
- 「事業拡大に合わせて屋号を刷新したい」
このような場合、登録済み商標をどう扱えばよいのでしょうか?
この記事では、商標登録後に店名を変更した場合の法的な扱いと、注意すべき実務ポイントを解説します。
目次
結論:登録済み商標はそのままでは「新しい店名」を保護しない
商標登録は、「登録された名称・デザイン」に対して効力が生じます。
そのため、登録後に店名を変更しても、新しい名前は自動的には保護されません。
つまり──
登録してある「旧店名」は引き続き保護されますが、
変更後の「新店名」は別の商標として新たに出願する必要があります。
商標登録後に店名を変更した場合の対応パターン
| 状況 | 登録済み商標の扱い | 対応策 |
|---|---|---|
| 完全に別の名前に変更した | 登録済み商標は使わなくなるため、「不使用取消」のリスクが生じる | 新しい店名で商標を再出願する |
| デザインや一部のみ変更した | 登録商標と「同一」とはいえず、新デザインは保護されない可能性 | 新デザインでも出願しておくと安全 |
| 登録名をサブブランドとして一部で継続使用 | 使用実績を維持できれば、旧商標の権利は継続 | 旧・新どちらも商標として並行登録(出願)が理想 |
「不使用取消審判」に注意
商標は登録して終わりではなく、継続的に使用していることが前提です。
商標法第50条では、次のように定められています。
「正当な理由なく3年以上日本国内で使用していない登録商標」は、
他人からの請求により登録が取り消される。
つまり、店名を変更して旧商標をまったく使わなくなった場合、
3年以上経過すると「不使用取消審判」で登録を失う可能性があります。
新しい店名に変えるときの実務的ステップ
- 新店名の商標調査を行う
→ 「J-PlatPat」で同じ・似た名称が登録されていないか確認。 - 新しい店名で出願を行う
→ 旧商標とは別に出願。デザイン変更ならロゴ商標としても検討。 - 旧商標も一定期間は維持する
→ ブランド移行期間中は旧店名を部分的に使用し、権利を保持。 - 完全移行後に旧商標の更新・放棄を判断
→ 使用しないなら更新せず自然消滅させてもよい。
部分的な変更(ロゴ・デザイン・表記差し替え)の注意点
ロゴの色や字体、表記を変えた程度でも、登録商標と実際の使用形態が異なると判断されることがあります。
実際に「登録商標の使用」と認められず、登録が取り消された例(取消2022-300904):
- 登録商標:「SPLENDOR」
- 実際の使用:「SPLENDOR-SAP」
このように文字や構成が変わると、「登録商標の使用」と認められない可能性があります。
したがって、変更後のロゴ・文字表記も出願しておくのが安全です。
※参考記事:「使われていない商標を取り消す!不使用取消審判の手順を弁理士が解説」
https://samuraitz.com/weblog/trademark/5290/
※参考記事:「商標を使っていないと危ない?不使用取消審判の仕組みと防衛策」
https://samuraitz.com/weblog/trademark/4614/
よくある誤解と正しい理解
| 誤解 | 正しい理解 |
|---|---|
| 店名を変えても登録済み商標が自動的に守ってくれる | 商標の効力は登録名に限定される。新しい店名は別途出願が必要 |
| 旧商標を使っていなくても問題ない | 3年使わないと「不使用取消」で登録が失われるおそれ |
| 登録商標を少し変えたら同じ扱いになる | 一部変更でも別商標扱い。再出願が必要 |
| 新しい商標を出したら古い商標はすぐに放棄してよい | ブランド移行期間中は旧商標も保持しておく方が安全 |
専門家に相談するメリット
弁理士に相談すれば、次のようなサポートを受けられます。
- 新旧ブランドの併用期間における商標リスク分析
- 新名称の商標調査・出願手続き
- 不使用取消を避けるための使用管理アドバイス
- ロゴ・文字商標の出願方針設計
まとめ
商標登録後に店名を変更した場合──
- 登録済み商標の効力は「旧店名」にしか及ばない
- 「新しい店名」を保護したいなら、新たに商標出願が必要
- 旧商標を使わないまま3年以上経つと「不使用取消」のリスク
- ロゴやデザインを変える場合も、新規出願を検討すべき
商標は「使い続けてこそ守られる権利」です。
店名を変更する際は、旧商標の管理と新商標の出願をセットで進めることが、ブランドを守る最善策です。

