商標出願の過程で、指定商品や指定役務の内容を修正したくなることは少なくありません。
しかし、一度有効な補正書を提出してしまうと、その補正を取り下げたり、元に戻すことはできません。
「やっぱり前の記載の方が良かった」と後から気づいても、法律上は元に戻す手段がないため、補正は慎重に行う必要があります。
補正の2つの方法
出願時の「指定商品又は指定役務」や「商品及び役務の区分」を補正する方法には、大きく分けて次の2種類があります。
- 全文補正
「指定商品又は指定役務並びに商品及び役務の区分」全体を単位として補正する方法です。
出願時に記載した全ての指定商品・役務を、補正後の全文に置き換えます。
この場合、削除や追加ではなく、「全文を置き換える」という扱いになります。 - 部分補正
商品・役務が属する区分(第○類)ごとに補正する方法です。
ある区分だけを対象にして、その区分内の指定商品・役務を補正します。
他の区分には影響を与えません。
例えば、出願時の指定商品の内容が下記の場合で考えてみましょう。

このうち、第25類の指定商品「ベルト」のみを削除したい場合、全文補正する際は、下記のように手続補正書に記載します。

→【補正の内容】の項目には、【指定商品又は指定役務並びに商品及び役務の区分】と記載されていて、権利化したい指定商品・役務、区分が全て記載されています。
すなわち、もし【第18類】を補正せずに残したい場合に、全文補正で【第18類】と「リュックサック」の記載を忘れてしまうと、【第18類】の区分ごと削除されてしまうので注意が必要です。
一方、部分補正する際は、下記のように手続補正書に記載します。

→【補正の内容】の項目に着目してください。部分補正には【第25類】、つまり補正したい区分のみが記載されています。この場合【第18類】は何も手が加わっておらず、そのまま残っています。
したがって、もし複数区分を出願して、一部の区分の指定商品・役務のみを補正したい場合は、部分補正で対応した方がミスも起こりにくいのでおすすめです。
ここで補正の仕方を間違えてしまうと、下記の不都合が生じる点にご注意ください。
有効な補正後は取り下げ不可
商標法上、有効に成立した補正書については、提出後に取り下げる手続は認められていません。
そのため、補正を誤ると以下のような問題が起きる可能性があります。
- 必要な指定商品・役務を削除してしまい、将来の事業展開に支障が出る
- 本来保護すべき区分を削ってしまい、他社の出願に先を越される
- 補正後の範囲では商標の使用計画に合わなくなってしまう
実務上の注意点
- 補正は事業計画と将来性を踏まえて判断する
今は不要でも将来必要になる商品・役務を安易に削除しない。 - 全文補正の場合は特に注意
全ての指定商品・役務を再記載するため、書き漏らしや誤記があれば、そのまま確定してしまう。 - 部分補正は影響範囲を理解して行う
対象区分外には影響がないが、逆に他区分に同様の誤りが残る可能性もある。
まとめ
指定商品・指定役務の補正は、全文補正・部分補正いずれの場合でも、一度有効に行ってしまえば取り消すことはできません。
補正内容を決定する前に、事業内容や将来の展開、競合状況を踏まえて慎重に判断しましょう。
当事務所では、補正の必要性判断から補正書作成、今後の商標戦略までトータルでサポートしています。
「この補正で本当に大丈夫か不安…」という場合は、ぜひご相談ください。