商標の外国出願における優先権主張とは?弁理士が要件・手続きを解説

商標の外国出願における優先権主張とは?弁理士が要件・手続きを解説

日本で商標を出願した日を「基準時」として、その日を起点に他国でも同じ権利範囲を有利に確保できる――それがパリ条約の優先権制度です。

国内出願から6ヶ月以内にパリ条約同盟国へ出願すれば、第2国出願はその優先期間内に行われた他人の出願や使用によって不利な取り扱いを受けません

ここでは要件、手続き、実務上の注意点を整理します。


優先権主張の概要

パリ条約4条の6ヶ月ルール

  • 日本にした基礎出願日から6ヶ月以内にパリ条約加盟国へ出願すると、その外国出願は「日本の出願日」に遡って出願したものと見なされる
  • 同一商標・同一出願人(又はその承継人)・同一又は範囲内の商品・役務が条件

どこで使える?

  • 個別(各国)出願:米国・中国・韓国など、ほぼすべての主要国が対象
  • マドプロ国際出願:MM2フォームの優先権欄に基礎情報を記載

優先権主張の要件

1. 同一出願人または承継人

  • 基礎出願人と外国出願人が同一であること
  • ただし承継人(出願人から権利を適法に承継した者)も優先権を主張可能
    • 例:事業譲渡・合併・譲渡契約により商標出願権を承継した法人
    • 承継を証明する書類(譲渡証書、合併証明書など)を国やWIPOに提出する場合がある

2. 同一の商標

  • マーク(ロゴ・色彩含む)が基礎出願と完全同一
  • 標準文字と同一書体の範囲は認められるが、デザイン修正・配色変更は不可

3. 同一または範囲内の商品・役務

  • 外国出願は基礎より広い指定を不可
  • 追加区分が必要なら、優先権を主張しない区分として同時出願も可

4. 6ヶ月以内の出願

  • 基礎とした日本の出願日から6ヶ月を1日でも過ぎると優先権主張は不可
  • 休日延長は各国法の扱いに依存:翌営業日でも可or不可など要確認。

手続きの流れ

  1. 日本で基礎出願(例:2025年1月15日)
  2. 外国出願の準備
    • 出願書類」+日本国特許庁(JPO)から「優先権証明書(Priority Document)」取得
    • 各国へ提出(またはWIPO経由でアップロード可)
  3. 外国出願提出(2025年7月15日まで)
    • 優先権書類の提出期限:後の出願日から3ヶ月以内(国により異なる)
  4. 各国で審査
    • 優先権の成立を確認後、第一国(日本)にした出願時点を基準に審査
    • 優先権が認められると、上記の例で言えば2025年1月15日から7月15日までの間に、出願した国で類似の商標が出願されたとしても、それを理由に拒絶されません。

費用の目安

項目概算費用
優先権証明書(JPO)オンライン請求:1,100円/通
窓口・郵送請求:1,400円/通
弁理士手続手数料1〜3万円(国・件数で変動)

実務での注意ポイント

① スケジュール逆算

  • 書類の翻訳・電子データ化に2〜4週間見込む
  • 国ごとに追加書類が必要なケースあり

② 商品・役務は現地分類に最適化

  • NICE分類と各国ローカル規則の差異に注意。
  • 範囲内だが記載方法が異なる場合、現地代理人と調整必須。

③ 基礎出願の内容変更は要注意

  • 日本側で後日補正すると、外国で「同一性なし」と判断されることも。
  • 優先権主張を計画している場合、基礎出願を安易に補正しない

まとめ

  • 優先権主張は基礎とする日本の出願日から6ヶ月以内に外国へ出願し、先願利益を確保する制度。
  • 要件は 同一出願人(又はその承継人)・同一商標・同一/範囲内の商品役務
  • スケジュール管理と書類整備が鍵となるため、早めに弁理士と相談し、国別手続きの差異を確認しておきましょう。