登録商標を生成AI に「学習」させても大丈夫?

登録商標を生成AI に「学習」させても大丈夫?

生成AIの利用が活発になっている昨今、自社商品やサービスの名前やロゴマークの作成にあたって、生成AIを使って他社の登録商標のデータを学習させたいと考える人もいるかと思います。

この点、令和7年6月13日に実施された特許庁の産業構造審議会の商標制度小委員会で、他人の商標をAIに学習させる行為について見解が発表されました。

結論としては、登録商標をAIに学習させることは商標権の効力が及ぶ行為に該当しない、つまり学習させただけでは権利侵害とはならないということです。

今回は、この点を噛み砕いて解説いたします。


1. 商標権が守ろうとしているのは「表示のしかた」

  • 商標権お客さんが商品やサービスを見分けるための目じるし(ネーミング・ロゴ)を保護するものです。
  • したがって法律が規制するのは、マークを外部向けに表示するときだけです。
    • 外部向けとは、商品パッケージ、ウェブ広告、看板、取引書類…など、お客さまや取引相手の目に触れる場面です。

ポイント 自分のパソコンの中だけでマークを読み込んでいても、
外部に「見せて」いなければ商標の使い方には当たりません


2. AIの学習は「内部の下ごしらえ」にすぎない

  • AIモデルを作るときは、大量の文字や画像データを内部で読み込んで(学習して)重み付けを計算します。
  • この時点では
    1. マークを商品やサービスの目じるしとして出していない
    2. 消費者も取引先もそのマークを見られない
      ため、商標法が定める「使用」行為に該当しません
  • 産業構造審議会の資料(令和7年6月13日)でも、「生成AI技術の発達を踏まえた商標制度上の整理」 が検討課題に挙がっていますが、学習段階を「商標権の効力が及ぶ」対象とする案は提示されていません
    ※議事次第・配布資料一覧
    https://www.jpo.go.jp/resources/shingikai/sangyo-kouzou/shousai/shohyo_shoi/t_mark_paper12new.html?utm_source=chatgpt.com

3. では、どこからがアウトになり得る?

フェーズ商標権が及ぶ?理由
① 学習(トレーニング)…コンピュータがデータを読み込むだけいいえ「表示」ではない
② 生成結果をチェック…社内検討用にプリントアウト原則いいえ社外に出ていない
③ 生成した商標を使用…商標をパッケージに印刷して販売したり、HPに掲載したりするはい(登録商標と同一・類似なら商標権侵害に該当)マークを目じるしとして使用

結論外部に向けてマークを使うところから商標権が効き始める――ここを境目と覚えておくと簡単です。


4. 学習段階で気をつけたい“本当の”リスク

  1. 著作権や利用許諾
    • 画像・フォントのライセンス条件に注意。
  2. 著名商標を大量に学習させると…
    • モデルが似たロゴを吐き出しやすくなり、後で使うときに侵害リスクが高まります。
  3. 出力チェックを怠ると拒絶や差止め
    • 出願前にJ-PlatPatなどで先行商標検索を必ず実施しましょう。

5. まとめ

  • 学習だけなら商標権侵害にはならない ――― これが現在の商標法の考え方です。
  • ただし 生成された名前・ロゴを実際に使うとき は、従来と同じく
    1. 先に似た商標がないか
    2. 品質・用途を説明するだけの言葉でないか
      等をチェックする必要があります。
  • 不安があれば 商標専門弁理士 に相談し、クリアランス調査 → 出願手続 → 使用監視まで一括サポートを受けると安心です。

覚え方ワンポイント

  • 学習=料理前の食材準備 → 商標権の効力はかからない
  • 提供=レストランで盛りつけて提供 → 商標権の出番

これで「AI が登録商標を学んでも大丈夫?」という疑問はクリアです。安心して AI を活用しつつ、実際のネーミングやロゴの使用段階で権利チェックを忘れないようにしましょう。