はじめに
今回取り上げるのは、こちらのニュース。
・「「毎日が地獄です」別府土産Tシャツ 地元企業が類似商品販売の東京の会社提訴「泣き寝入りが多い…」大分」(TOSテレビ大分)
https://news.ntv.co.jp/category/society/tof1190d7b5ad6469bbc48875f6ecf1bf3
「毎日が地獄です」——別府温泉の土産として知られるこのフレーズ入りTシャツを巡り、大分県別府市の企業「ユーモア」が、東京の企業「GMOペパボ」を相手取り、販売差し止めや損害賠償を求めて提訴したというニュースが話題になっています。
背景にあるのは、「毎日が地獄です」という言葉の商標登録と、その権利行使をめぐる判断の難しさです。本記事では、判定制度や裁判との関係、中小企業が商標を活用する際の注意点などを整理します。
登録商標「毎日が地獄です」
この言葉は、土産物製造を手がける「ユーモア」の関係者?の個人名義で2021年に商標登録されたもの(登録第6439272号)で、別府の観光地・海地獄などでTシャツ等として販売されてきました(同名称で5件商標登録されており、最初は「日本酒」について2010年に登録されています)。
別府では結構有名らしく、ふるさと納税の返礼品にもなっているんですね。
しかし、同様のTシャツがインターネットショップでも無断で販売されるようになり、ユーモアは見つけ次第、販売停止を求めていたとのことです。対応に応じなかったケースとして、今回GMOペパボ(オリジナルグッズ作成サイト「SUZURI」の運営元)が訴訟の対象となりました。
以前の「判定請求」の結果:「商標権の効力に属しない」
ただし、この「毎日が地獄です」に似た言葉をTシャツに使う行為が商標権の侵害に該当するかは、過去にも争点となっていました。
実は、以前に「毎日が地獄」という文字の使用行為について、商標「毎日が地獄です」の効力の範囲に属するのか、特許庁に「判定請求」がなされたことがあります。
その結果、少なくとも「毎日が地獄」の文字をTシャツにプリントして販売する行為については、「毎日が地獄です」の「商標権の効力の範囲に属しない」と判断されています。Tシャツにはウサギの図形も表示されていたのに加えて、「毎日が地獄」と「毎日が地獄です」は「です」の有無で異なるから、類似しないと判定されたのです(判定2023-600027)。
判定の法的意味と裁判との関係
ここで注意すべきは、特許庁の「判定」には法的拘束力がないという点です。つまり、裁判所が必ずしもこの判定に従う義務はなく、あくまで参考資料のひとつにすぎません。
したがって今回の裁判では、「両商標が類似するか」に加えて、「Tシャツ上の表示が商標として(自他商品を識別するものとして)使用されているかどうか」などが争点となる可能性があります。
中小企業・個人事業主としての視点
この事例から見えてくるのは、商標を「持つこと」と「活かすこと」は別問題であるということです。特に以下のような点が重要です:
- 類似の判断
商標が類似するかどうかは、「外観(見た目)」「称呼(読み方)」「観念(意味)」の3つの要素を総合的に考慮し、取引実情も踏まえて、需要者が商品・役務の出所を混同するおそれがあるかどうかで判断されます。自分では「似ている」と思っても、特許庁や裁判所は「類似しない」と判断する可能性があります。 - 「使用」要件の理解
商標権が効力を及ぼすのは「商標的使用」の場面に限られます。単なるスローガン的な使用や、説明的使用、装飾(デザイン)的な表示は、自他商品識別表示・出所識別表示として見なされないことがあります。 - 判定制度の活用と限界
特許庁の判定制度は、比較的早期・簡易に侵害性を判断してもらえる仕組みですが、あくまで行政判断であり、裁判とは別です。 - 訴訟リスクと発信力のバランス
商標の“泣き寝入り”を防ぐには発信と行動が必要ですが、訴訟には費用と労力が伴います。広報的な戦略も含めて、慎重な判断が求められます。
まとめ
「毎日が地獄です」Tシャツ訴訟は、ユニークな商標活用と、その限界の象徴的なケースとも言えます。中小企業や個人事業主が商標をブランド戦略として活かす際には、「登録したから大丈夫」ではなく、「どのように使用し、どう守るか」まで見据えた知財リテラシーが求められます。
事件の今後の展開にも注目しつつ、自社の知的財産運用にも活かしていきたいところです。