小売店の出店戦略の違いが、事業の行方に大きく影響する

※2022年7月26日配信メルマガVol.186より抜粋（一部加筆修正あり）

「レールサイド戦略」と「ロードサイド戦略」とは？

小売店の出店戦略で、
「レールサイド戦略」と「ロードサイド戦略」
があります。

「レールサイド戦略」は、
鉄道の駅前や駅ビル、駅ナカに店を構え、
駅の乗降客をターゲットにする戦略です。

一方、「ロードサイド戦略」は、
郊外の通行量の多い道路際に店を構え、
自動車やバイクなどでアクセスできる客をターゲットにする戦略です。

特に家電量販店でよく用いられており、
例えば、売上高（2020-2021年）上位5社で見ると
ビックカメラ(2位)やヨドバシカメラ(5位)等が「レールサイド戦略」、
ヤマダ電機(1位)やケーズデンキ(3位)、エディオン(4位)等が「ロードサイド戦略」
をとっていると言われています。
https://gyokai-search.com/4-kaden-ryohan-uriage.htm

出店戦略の違いでコロナ禍の明暗が分かれた

興味深いのが、売上の推移。
前年比で見ると、
上昇したのが、ヤマダ電機(ロードサイド)とケーズデンキ(ロードサイド)、
横ばいが、エディオン(ロードサイド)とヨドバシカメラ(レールサイド)、
下落したのが、ビックカメラ(レールサイド)なんですね。

つまり、コロナ禍において、両戦略の明暗が分かれたのです。
おそらく、レールサイドは、
コロナ禍で外出自粛、在宅勤務が増えたために、
オフィスワーカーの需要や
インバウンドの需要が伸び悩んだと考えられます。
コロナ初期には臨時休業も行われましたよね。

他方、ロードサイドは、
ソーシャルディスタンスを確保したまま自家用車でアクセスできて、
インバウンド依存度も高くなかったために
コロナの影響は軽微でした。

家電量販店の歴史の変遷

元々家電業界は、
バブル経済と共に冷蔵庫や洗濯機などの大型家電が売れるようになり、
1980年代に拡大期を迎えました。
秋葉原が家電情報発信の街となり、
家電量販店の出店はレールサイドが中心でした。

その後、1990年代に入ってバブルが崩壊し、
平成不況に入ると、駅前から店舗が続々と撤退。
その一方で、法改正で店舗面積の規制が緩和され、
販管費率を圧縮させたヤマダ電機が郊外に大型店舗を出店させて、
大きく売上を伸ばしたのです。
この頃はロードサイド型店舗が中心だったんですね。

しかし、2000年代に入り、ロードサイドの量販店が過剰になると、
今度は差別化されたレールサイド店が支持され始めました。
駅前という立地のため、ロードサイドより出店コストはかかるものの、
集客のための宣伝広告費を抑えることができるメリットもあります。
ヨドバシAkibaが誕生したのもその頃で、
当時秋葉原近くに住んでいた私もよく遊びに行っていました。

一方のロードサイドは、郊外の人口減や、
若年層の車所有率の低下の影響もあり、
客足が伸び悩んだ結果の撤退も目立ち始めました。
駅ビルや駅ナカが充実して
繁栄するレールサイドとは真逆です。

そんな最中でコロナ禍が到来し、
人々の行動範囲が狭まったため、
ロードサイドが再び逆転しているという状況です。

家電量販店の競争の場はECへ

ただし、現在の家電量販店の戦いは、
EC（電子商取引）の場に変わってきています。

製品はどこで買っても同じもので、
価格.comのようなサイトにより価格の比較も容易、
決済サービスも充実しているため、
ネットで家電を買うことも当たり前になってきましたよね。

家電量販店には、製品の実物を手に取って確かめに行き、
実際の買い物は安いネットでする…
というショールーム的な使い方をする猛者もいます。

そのため、総合ECサイトに負けじと、
「ヤマダウェブコム」「楽天ビック」「ヨドバシ.com」など
EC事業に力を入れるようになりました。

このように、政治、経済、社会、技術といった外部要因の変化により、
有利な戦略は変化していくということですね。

レールサイド戦略店とロードサイド戦略店の商標出願数の違い

ちなみに、商標出願・登録の件数で見ると、
「レールサイド戦略」をとる
ビックカメラが280件、ヨドバシカメラが299件。
「ロードサイド戦略」をとる
ヤマダ電機が30件、ケーズデンキが12件、
エディオンが160件と、
両者に大きな開きがあります。

ビジネスモデルの違いもあるし、
その理由ははっきりとわかりませんが、
郊外に位置し、施設にさえ訪れてもらえば、
顧客を囲い込めるロードサイドに比べて、
駅前に位置し、周辺の施設に目移りしないよう、
あれこれサービス面も含めたブランディングが必要で、
商標のコストが高いレールサイドといった違いがあるのかな？
と思いました。