※2020年6月23日配信メルマガVol.77より抜粋(一部加筆修正あり)
目次
ユニクロの「エアリズムマスク」発売
6月19日に発売された、ユニクロの「エアリズムマスク」。
購入希望者殺到で店舗に行列ができた様子が、報道されていましたね。
オンラインでも完売し、今は増産中ということで、
「ユニクロ」ブランドと「AIRism」ブランドの人気を実感せずにはいられませんでした。
マスクに「AIRism」は商標権侵害のリスクがあった!?
それで、ちょっと調べてみたところ、
ユニクロを運営するファーストリテイリング社は、
「(衛生)マスク」の分野で、「エアリズム」ないし「AIRism」の商標を登録していませんでした(2020年6月23日時点)。
登録されているのは、「被服の小売分野等」の分野、
「枕やクッション等」の分野、「タオルやハンカチ等」の分野、
「スカーフ、バンダナ、その他被服等」の分野です。
(登録第5725851, 5938463, 6091268, 商願2019-092878号)
その一方で、「(衛生)マスク」の分野では、
既にアース製薬が「Airlism」の商標権を保有しています。(←いました。2020年10月30日付で、ユニクロのファーストリテイリング社に権利が移転登録されました)(登録第5666106号)
こちらは「l(エル)」が含まれていて綴りが異なりますが、
読み方は「エアリズム」で共通しています。
つまり、ユニクロの「AIRism」は、アース製薬の登録商標「Airlism」に類似している可能性が高いので、
もしユニクロが、アース製薬に無断で、今回の「エアリズムマスク」を販売しているなら、
商標権侵害になってしまうのではないか?という懸念があったのです。
商標権が移転され、「エアリズムマスク」の使用は問題なしに
その後、上記の通りアース製薬の「Airlism」の商標権が、ユニクロ側に移転されたんですね。
これにより、ユニクロの「エアリズムマスク」の使用は問題なしになりました。
もちろん、アース製薬からすると、「(衛生)マスク」の分野はメイン事業とやや離れていて、
実際に取り扱っていない可能性が高いです。
それでも商標法の上では「商標権者」でしたので、移転する前には、
ユニクロのマスクに対する「エアリズム」「AIRism」商標の使用を止めさせることができたし、
対価をもらってライセンスする(使用を認める)こともできたのです。
それが「権利の移転」という解決に落ち着きました。
商標登録してれば、どんな商品・サービスに使っても大丈夫…ではない
世の中の情勢の変化に応じて、新しい商品を扱ったり、新しいサービスを始めたりすることは、
ビジネスのチャンスを広げる上では、確かに効果的です。
しかし、いざ自社の商標を使って商品・サービス提供をする際は、
既に他の企業の登録商標が存在するかもしれないので、気をつけなければいけません。
結構勘違いしやすいのですが、
「商標登録をしていれば、どんな商品・サービスに商標を使っても大丈夫」とは限らないのです。
登録されている指定商品・役務と、同一でも類似でもない分野の商品・役務については、
商標の使用に関して何の権限もありません。
新規事業を始めたら、他社の類似商標が存在した場合の対策5つ
では、もし実際にユニクロ側の立場のようなこと、
つまり新規の分野の商品・サービスを、既存の商標をつけて提供開始したところ、
既に第三者の先行登録商標が存在した場合、
どうすれば良いのでしょうか?
5つの対策が考えられます。
①商標使用について交渉する
相手方に、商標の使用許諾を得るための交渉をします。
この「使用許諾」には、「商標権を行使しない約束」も含まれます。
(両者では契約書の文面が異なりますが)
相手方は、使用許諾を得る代わりに対価を要求してくるかもしれませんが、
その場合は有償での契約になります。
公共性の高い団体の商標の場合は、無償で使用許諾してくれる場合もあります。
稀に、金銭的対価の代わりにビジネス上の取引関係になるなどのメリット提供が要求される場合もあります。
②商標権を譲り受ける
相手方の商標権を譲り受けることができれば、もはや権利は自分のものになるので、使用の許諾を得る必要はなくなります。
権利全体ではなく、一部の指定商品・役務を分割して譲り受けることもできます。
この場合は、譲渡の対価が必要な場合もありますし、
少なくとも権利の移転や分割の費用は負担することになります。
今回アース製薬が持っていた「Airlism」の商標の件は、この形で解決したわけですね。
③放棄の交渉
相手方が権利を放棄してくれるなら、使用の許諾を得る必要はなくなります。
権利全体ではなく、一部の指定商品・役務を放棄することもできます。
相手がその指定商品・役務について、商標を使う予定がない場合に、認めてくれる場合があります。
その場合でも、放棄の手続の費用は負担することになるでしょう。
④商標登録の無効・取消を図る
商標法には、「異議申立」&「無効審判」という制度があって、
既に登録された商標に対して、本当は登録できない理由が存在する場合に、
登録の取消や無効を請求することができます。
ただし、一度審査に通っている訳ですから、成功確率は低いです。
登録できない理由が確実にあると言える場合を除き、
取りにくい措置です。
この「異議申立」&「無効審判」の請求が認められた場合は、
相手方の商標権は、初めから無かったものとされます。
また、「不使用取消審判」という制度もあります。
3年以上国内で商標を使用していない場合に、
その部分の登録の取消を請求でき、
認められると請求時に遡って権利が消滅します。
これは実務上、結構使います。
⑤名前(商標)を変える
①~④が難しそうなら、名前(商標)を変えるしかありません。
その場合でも、また別の先行商標に引っかからないように、十分に調査した方が安心です。
そして、その変更後の商標を、自社で商標出願することが重要です。
そのままにしていたら、他の人が商標登録してしまって、
また変更せざるを得なくなった、ということにもなりかねません。
以上、自社ブランドを新規の商品・サービスに展開する場合は、
他社の登録商標の存在が問題になる場合があります。
手持ちの商標権でカバーできるのか?
他社の商標権が存在するのか?
きちんと調べておく必要があります。
その上で、手持ちの商標権でカバーできず、他社の商標権が存在していた場合は、
①~⑤の対応を考えてみてくださいね。
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