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「商標登録のデメリット」のなかで、
「商標の普通名称化」について、少し触れました。
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この「商標の普通名称化」って、
実は結構怖いことなので、
この点について今日は解説します。
★商標の普通名称化とは?
まず「商標の普通名称化」とは、簡単に言うと、
本来は特定の人の商品やサービスであることを示す商標が、
その商品やサービスの一般的な名称であると認められてしまった状態を言います。
一般消費者だけでなく、その業界の業者さんのような取引者からも、
一般名称と認識されている状態ですね。
なぜこんなことが起こるのかというと、
不特定多数の人が、商品・サービスについて見境なく商標を使用してしまうことで、
特定の企業や人が提供する商品・サービスと、
その他の企業や人が提供する似た商品・サービスとの
区別がつかなくなるからです。
★普通名称化の例
普通名称化の具体例をあげますと、
まず有名なのは「エスカレータ」ですね。
デパートとかでよく乗る、自動で昇り降りできる階段式の装置です。
元々は、オーチスという会社の米国の登録商標でしたが、
みんなが同種の装置のことを「エスカレータ」と呼んだために、
普通名称化してしまいました。
今では、オーチス社以外の装置も、「エスカレータ」と呼ばれています。
また、大幸薬品の胃腸薬である「正露丸」も普通名称化の一例です。
今でも大幸薬品の名義で商標登録されたままですが、
裁判で「普通名称化した」と判断されています。
(大阪地裁平成18年7月27日判決 平成17年(ワ)11663号)
試しにAmazonで「正露丸」と調べてみてください。
大幸薬品以外の「正露丸」がいくつか出てきます。
だから、ちょっと前の大幸薬品のCMでは、
「ラッパのマークの大幸薬品の正露丸」と毎回言っているんですね。
つまり、「正露丸」だけだと他と区別がつかなくなってしまうので、
差別化されたラッパのマークをつけて、
「大幸薬品のだよ」と見分けられるようにしています。
さらに、農産物の中にも普通名称化したものがあります。
みなさんご存知、ブドウの「巨峰」、これも登録商標です。
株式会社日本巨峰会というブドウの栽培に関する研究団体が、
今でも商標権を管理していますが、
同じ品種のブドウの一般的名称と認識されていると、
裁判でも判断されました。
(大阪地裁平成14年12月12日判決 平成13年(ワ)9153号)
★普通名称化で商標の価値が0に
普通名称化が怖いのは、
もう一般名称になってしまったので、
もはや商標を使用する人に対して、
「うちの商標使わないで」と言えなくなることなんですね。
すなわち、お金と時間をかけて、せっかく取った自分の商標が、
みんなのものになってしまうということです。
以前にも冗談ぽく言いましたが、
自分の彼女・彼氏が、
みんなの彼女・彼氏になるようなものです。
商標が普通名称化することで、
もはや他人に対して権利行使することができなくなります。
また、他人に商標の使用許諾をしようにも、
誰でも使える商標について、わざわざ許諾をもらおうとする人はいません。
これはどういう状態かというと、
自分の商品・サービスと、他人の商品・サービスとを見分けるという
商標としての機能を失った状態なんですね。
商標の価値がなくなり、
商標権を持っている意味がなくなってしまうということです。
ただ、「元祖はうちですよ」と証明するために、
権利を持っておく意味はあるかもしれません。
★普通名称化を防ごう
以上より、商標が普通名称化すると、
価値が0になるので、商標権者としてはこれを防がなければなりません。
じゃあどうやって防ぐのか?ですが、
ざっくり言うと、
「不特定多数の人が、商品・サービスについて見境なく商標を使用してしまう」
のを防ぐということになります。
具体的には、
以前の配信で何度も出てきた ®︎ マークをつけたり、
「登録商標です」と注意喚起をしたり、と言うことが考えられます。
商標登録はゴールじゃなくて、スタートなんですね。
この点はちょっと長くなりそうなので、
詳しくはまた別の機会にお話しします。
※配信時点の判例通説等に基づき、個人的な見解を述べています。唯一の正解ではなく、判断する人や時期により解釈や法令自体が変わる場合がありますので、ご注意ください。