こちらのブログ内容は、音声で聞くこともできます。
https://stand.fm/episodes/605411a71f2dc0769bc9324f
以前の記事で、
商標権は「登録日から10年」の有効期間だけれど、
10年ごとの更新により20年、30年…と
半永久的に権利を持つことができるというお話をしました。
※参考:「商標権の有効期間」
https://samuraitz.com/?p=2004
中には100年を超える商標権もあるのですが、
今現在存在している商標で、最も古い商標は、
一体どんな商標で、いつから権利が存続しているのでしょうか?
★現存最古の登録商標
早速調べてみると、「清酒」の分野で登録されている
「寿海」という商標が、
現在のところ最も古い商標となっております(登録第1655号)。
「J-PlatPat」の出願・登録情報によれば、
出願されたのは、
明治35年(1902年)5月8日で、
登録されたのが、
明治35年(1902年)7月16日と記録されています。
今から、119年前、明治35年ですね。
しかし、この「寿海」の公報の方を見てみると、
出願日が
明治20年(1887年)4月2日
出願日が
明治20年(1887年)7月5日
と記録されています。
すなわち、こちらが旧制度下での出願日・登録日なのでは?と思われます。
「J-PlatPat」の出願・登録情報に”出願日””登録日”として記録されているのは、
明治32年(1899年)に制定された最初の「商標法」の下で、
更新の手続を行なった日、更新が登録された日という意味なのかもしれません。
ちなみに「寿海」は、江戸時代に活躍した
歌舞伎役者の7代目市川團十郎の俳名(はいみょう、役者名)にちなんで
つけられたそうです。
現在は、百萬石酒造株式会社が商標権者ですが、
沢の鶴株式会社が、商標権のライセンスを受ける形で、
醸造し、販売しています。
https://www.sawanotsuru.co.jp/site/nihonshu/jukai/
★現存最古の出願商標
この「寿海」が、現行法につながる商標法制度下では
現存最古の登録商標であることは間違いないのですが、
実は「寿海」よりもっと古くに出願された商標登録もあります。
それが「みりん」の分野で登録されている「九重」という商標です(登録第521号)。
こちらは九重味淋株式会社が登録していますが、
「J-PlatPat」の出願・登録情報によれば、
なんと、131年前の
明治23年(1890年)7月31日
に出願されたと記録されています。
明治23年なので、「寿海」よりも12年も前ですね。
登録されたのは
明治43年(1910年)8月24日
で、「寿海」より8年も後です。
一方、公報の記録によれば、
出願日が
明治18年(1885年)3月10日
登録日が
明治18年(1885年)7月28日
と記録されているので、
こちらが旧制度下の出願日・登録日だとしても「寿海」より2年前です。
★「寿海」の方が最古の登録商標と言われるのはなぜ?
おそらくですが、
これは当時の法制度が関係していると考えられます。
日本で最初の商標に関する法令は、
1884年(明治17年)の6月7日に公布された商標条例です。
この商標条例が、明治天皇の勅令により、
1888年(明治21年)に全面改正されました。
この商標条例は、まだ法律とは言えないくらい、
整備されていないものだったんですね(おそらくですが)。
それで、この整備されていない商標条例の下で出願・登録された年月日は、
きちんと出願のていを成していなかったか、審査がされなかったのだと推測されます。
その後、前述の通り、1899年(明治32年)に最初の商標法が制定されて、
やっと内容が整備されてきました。
だから、旧制度(商標条例)下での登録日は、
「J-PlatPat」の出願・登録情報における”登録日”として記録されていないのでしょう。
あくまで推測にすぎませんが。
そして、商標法成立後の更新登録日が、
“登録日”として記録されているのだと思われます。
それと、なぜか「九重」の方は、
公報に記録された商標と、「J-PlatPat」の出願・登録情報に記録された商標が異なっています。
今の法律では、途中で商標を変更することはできないので、
なかなか理解し難いのですが、
こういう曖昧な点もあって、
「九重」より後に出願された「寿海」の方が
現存最古の登録商標ということになったのだと考えられます。
こうやって考えてみると、先人たちの努力によって、
幾度となく制度の改正が行われた結果、
今日の商標制度が成り立っているんだなということがわかります。
そんな歴史に思いを馳せつつ、
今日もお仕事をがんばっていこうと思いました。
※配信時点の判例通説等に基づき、個人的な見解を述べています。唯一の正解ではなく、判断する人や時期により解釈や法令自体が変わる場合がありますので、ご注意ください。