知財の「代行」はなぜ危ないのか――非弁行為の話

知財の「代行」はなぜ危ないのか――非弁行為の話

新商品や新サービスを出すとき、特許や商標の話は避けて通れません。
ところが現場では、「出願書類も作っておきますよ」「手続もまとめてやります」といった提案を受けることがあります。スピード重視の局面ほど、ありがたく聞こえるかもしれません。

ただしここには、見落とすと大きなリスクになるポイントがあります。
弁理士・弁理士法人、弁護士・弁護士法人以外の人が、他人の依頼に応じて報酬を得ながら、弁理士の独占業務に当たる行為を行うことは、いわゆる「非弁行為」として弁理士法違反となるおそれがあります(※個別事情で評価は変わります)。


非弁行為が問題になる「境界線」

知財の周辺には、経営・開発・マーケの延長としてできる作業が多くあります。例えば、

  • 発明の背景や課題の整理(メモ化)
  • 商品名候補のブレスト、使用予定の商品・サービスの棚卸し
  • 競合や市場の事実関係の調査(一次情報の収集)

ここまでは、多くの会社で自然に行われています。

一方で、次のような行為は「代行」「書類作成」「判断」の色が強くなり、非弁行為に該当する可能性が高まるとされています。

  • 特許庁手続の代理をする(出願手続を代理して進める)
  • 出願書類を作成する(願書、明細書、意見書・補正書など)
  • 特許性・登録性の判断や鑑定を請け負う
    (例:「この商標は通る」「この発明は特許になる」と断言する)
  • 特許事務所と紛らわしい名称・肩書きを用いる
    (例:「特許○○士」「商標○○士」など、法律上の資格でない称号)

ポイントは、「善意」でも線を越えうることです。
依頼者にとっては「助かった」と感じても、法律上の評価は別物になり得ます。


依頼者(出願人)が被る“実害”

非弁行為の問題は「違法かどうか」だけではありません。
ビジネス面の実害が、後から出てきます。

1) 手続が止まる・やり直しが発生する

代理や書類の取り扱いに問題があると、代理人の変更や手続の整理が必要になる場合があります。展示会やリリースに間に合わせたい局面で、これは致命的です。

2) 書類の品質問題が、後で効いてくる

出願書類は「それっぽく整っている」ほど、誤りに気づきにくくなります。
重要な条件の抜け、余計な限定、表現のあいまいさは、権利化の成否や権利範囲に影響します。

3) 説明責任の問題になる

社内監査や取引先説明で「なぜその人に依頼したのか」を問われたとき、合理的に説明できない状態はコンプライアンス上の弱点になります。


最近よくある落とし穴:AIや“作成代行”サービス

最近は「AIで書類を作れる」「テンプレで安く作れる」というサービスも増えました。
AIの利用そのものが直ちに問題というより、誰が、誰の依頼で、どこまでを“業として”請け負うのかが重要です。

  • AIで作った文面を、そのまま出願書類として納品する
  • 登録可能性の判断までセットで売る
  • 依頼者の代わりに手続を回す

こうした形になると、非弁行為のリスクだけでなく、前述の「品質」「スケジュール」「説明責任」のリスクも同時に高まります。
結局、最初の近道が、後の遠回りになりやすいのです。


依頼前にできる、シンプルな確認

大げさなチェックは不要です。まずは次の3つで十分効果があります。

  1. 相手が弁理士(または弁護士)か確認する
  2. 「通る/通らない」を断言する相手には慎重になる
  3. “出願書類の完成品”や“代理”まで含まれていないか確認する

知財は、事業の土台です。
「安い・早い」だけで依頼先を決めると、後で高くつくことがあります。


迷ったら、まずは状況整理からご相談ください

「まだ出願するか決めきれていない」
「商標候補が複数ある」
「どこまでを準備すればよいか分からない」

この段階で相談いただくと、手戻りが減り、結果的に早く進みやすくなります。
弁理士として、適法性だけでなく、事業のスケジュールや優先順位も踏まえて一緒に整理します。


参考情報(公的・準公的)

※本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別案件の適法性判断は具体的事情により異なります。