似顔絵を勝手に描いて公開するのはNG?

似顔絵を勝手に描いて公開するのはNG?

2021年5月6日

こちらのブログ内容は、音声で聞くこともできます。
https://stand.fm/episodes/6007a12e83a482ae28526355

最近はイラストを描いてSNS上にアップして、
共感や賞賛をたくさん集めてビジネスにつなげる方が増えました。

イラストの中でも、最も手っ取り早く人の共感や賞賛を集めやすいのは、
「似顔絵」だと思います。
「似てる!」「すごい!」「面白い!」そういう反応が得られやすいですよね。

ただ「似顔絵」は、「人の姿や顔を模して描いた絵」なので、
前回の配信で説明した「肖像」の定義に当てはまり、
肖像権」と「パブリシティ権」の2つの権利が関わってきます。

そこで、人の似顔絵を勝手に描いて公開することはいいのか?が問題になります。

★肖像権の問題

ここでポイントとなるのが「人格的な利益を侵害するかどうか」です。
似顔絵はたいていの場合、デフォルメして特徴部分を強調して描かれているので、
パッと見でその人と特定できない場合が多いです。
その人であると特定できないのであれば、
特に肖像権の問題は生じないと私は考えています。

一方、特徴を正確に捉えて写実的に描くことで、
その人と容易に特定できるような似顔絵に関しては、
人格的な利益を侵害する可能性があるので、
やはり肖像権の問題があると考えられています。

実際にあった事件では、刑事事件の被告人が、
法廷で手錠と腰縄をつけられて身体を拘束されている状態を、
無断で隠し撮りしてイラスト画にして、週刊誌に掲載した行為が、
不法行為と認められたことがありました。
(最高裁平成17年11月10日判決 平成15年(受)281号損害賠償請求事件)
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=52388
この事件では、身振り手振りを交えて話している状態のイラストに関しては、
不法行為ではないとされています。
つまり、手錠と腰縄のイラストは、被告人の侮辱や名誉毀損と判断されていて、
話してる状態のイラストは、公益目的の範囲内で問題ないとされているんですね。

肖像権は「人格を守るのが目的」と説明しましたが、
裁判でも「人格的な利益を侵害するかどうか」がポイントになっていることがわかります。

ということは、問題になるかどうかは、境界が曖昧なので、
やはり無断で似顔絵を描いたり公開することは、
トラブルの元になりやすいのでできるだけやめたほうが無難です。
自宅で写真とか見ながら描いて1人で見ている分には問題ないですが、
公の場でまじまじとその人を見ながら描くとか、
描いた似顔絵をSNSにアップするのは、
きちんと許可を得てからの方が良いでしょう。

★パブリシティ権の問題

もう1つの問題が、パブリシティ権です。
著名人の顔には、経済的な価値がありますから、
やはり勝手に似顔絵を描いて、商用利用してしまうと、
経済的価値の侵害に該当する可能性があるので、おすすめできません。

実際にあった「ピンク・レディー事件」を見てみると、
パブリシティ権の侵害になる3つのケースが挙げられています。
(最高裁平成24年2月2日判決 平成21(受)2056号損害賠償請求事件)
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=81957

①肖像等それ自体を独立して、鑑賞の対象となる商品等として使用するとき
ex.) 好きなアイドルグループの似顔絵のイラストを描いて、その絵を販売することはダメということです。
②商品等の差別化を図る目的で、肖像等を商品等に付するとき
ex.) アーティストの似顔絵を描いて、Tシャツに印刷して販売することはできないということです。
③肖像等を、商品等の広告として使用するとき
ex.) 自社のダイエット食品の宣伝に、有名モデルの似顔絵を挿入すると、権利侵害になり得ます。

以上、写真だけではなく、似顔絵にも「肖像権」や「パブリシティ権」が関わってくるので、
十分に注意してください。

今は個人でビジネスするハードルが下がっているので、
自分の強みを生かしてきたい気持ちはわかりますし、
絵が得意な人はみんなが喜ぶ絵を描きたいと思うのですが、
ちゃんと法律のことを知った上で、活躍されてくださいね。

※配信時点の判例通説等に基づき、個人的な見解を述べています。唯一の正解ではなく、判断する人や時期により解釈や法令自体が変わる場合がありますので、ご注意ください。