意匠と特許の違い|弁理士がわかりやすく解説

意匠と特許の違い|弁理士がわかりやすく解説

「意匠と特許って、どちらも“新しいもの”を守る権利でしょ?」
——結論から言うと守る対象・要件・期間・使いどころがまったく違います。 うまく使い分けると、デザイン面も機能面も二重三重にガードできます。


意匠と特許の比較

観点意匠(Design)特許(Patent)
目的見た目(形状・模様・色彩等)の新しさを保護技術的思想(発明)を保護
主な対象物品・建築物・内装・画像(GUI/アイコン/画面)等物・方法・プログラムの技術的アイデア
典型例プロダクト外観、ボトル形状、店舗内装、アプリ画面新構造・新機構、制御アルゴリズム、製造方法
登録要件新規性・創作非容易性・工業上利用可能性等新規性・進歩性・産業上利用可能性等
出願後の流れすぐ審査(審査請求は不要審査請求が必要(出願から3年以内)
権利発生設定登録日から設定登録日から
存続期間出願日から25年更新不可出願日から20年更新不可※医薬・農薬等は延長可(最長+5年)
保護の射程登録意匠と類似デザインまで特許発明と均等範囲まで
使いどころデザイン差別化・ブランドの統一感技術優位・コスト/性能メリットの独占

どう使い分ける?——判断のコツ

1. 守りたい“価値”が見た目なら → 意匠

  • 例:折りたたみ端末の外観の折り線デザイン、家電の筐体フォルム、コスメのボトル形状、ECアプリの購入フロー画面

2. 守りたい“価値”が機能・仕組みなら → 特許

  • 例:折りたたみヒンジ機構、省電力の制御ロジック、高速化する処理方法、漏れを防ぐ注出口の構造

3. 両輪で守ると最強

  • 外観(意匠)+機構(特許)を同一プロダクトで並走させると、外観コピー・機能コピーの双方を抑止。
  • デジタルでは、UIの画面構成(意匠)と、裏側の処理アルゴリズム(特許)で分担保護。

具体例でイメージ

  • 折りたたみ端末
    • ヒンジの耐久構造 → 特許
    • 折り目の意匠的表現や外観ライン → 意匠
  • キッチン家電
    • 蒸気循環・温度制御の方式 → 特許
    • 前面パネルやダイヤルの顔つき → 意匠
  • 化粧品
    • 内容物の安定化処方/製造法 → 特許
    • ボトル/キャップの造形やディスプレイ什器の内装 → 意匠
  • モバイルアプリ
    • レコメンドのアルゴリズム → 特許
    • UIフロー/アイコン/画面レイアウト → 意匠

よくある誤解と注意点

  • 「機能で決まる形」は意匠登録されにくい
    機能確保に不可欠な形状のみだと、意匠は拒絶されがち。基本的には、機能は特許見た目は意匠で役割分担を
  • 出願前の公開は両方に致命傷
    展示会・Web掲載・販売などによる公開の前に出願。原則として、特許も意匠も公開後の出願は審査で拒絶されてしまう。いずれも出願前の社外公開を避けるのが大前提。ただし、意匠も特許も、公開から1年新規性喪失の例外(グレースピリオド)の適用が受けられる
  • 審査の“起点”が違う
    意匠は審査請求不要で出願後にそのまま審査へ移行、特許は審査請求が必須。ロードマップに組み込む
  • 出願後の公開
    意匠は原則として登録まで公開されない登録後最長3年まで非公開にできる「秘密意匠」の申出が可能)が、特許は登録可否に関わらず、出願から1年6ヶ月で自動的に公開される。内容を他社に見られる前提で戦略設計が必要(早期公開の申出も可、原則として非公開にはできない)
  • 保護期間の設計
    意匠は出願日から25年固定。長期継続する外観は、意匠の満了後に立体商標で延命できる場合も(識別力の蓄積が前提)

戦略テンプレ

  1. 企画初期
    • デザイン案と機能要件を分解。守る価値を棚卸し。
  2. 公開前
    • 意匠:基本意匠+関連意匠(色・微修正)+部分意匠でバリエーションをまとめ取り。
    • 特許:コア発明を先行出願、周辺を分割/継続で追いかける。
    • 意匠の早期審査/特許の早期審査・PPHの利用も検討
  3. 公開後〜運用
    • 侵害監視:外観はサムネ比較→詳細確認、機能は動作・分解調査
    • 交渉は匠(外観類似)を先行提示し、必要に応じて特許(機能)も重ねる。
  4. アップデート
    • マイナーチェンジは関連意匠で拾い、改良発明は追加出願(国内優先権主張の活用)で層を厚く。

まとめ

  • 意匠=見た目の新しさ特許=技術の新しさ
  • 同一プロダクトに併用すると、外観コピーにも機能コピーにも強い。
  • 公開前出願・権利範囲設計・存続期間設計まで含めて、ロードマップ化が成功の鍵。

どこまで意匠、どこから特許?どの順番で、どの国へ?
案件ごとに“最適解”は変わります。
設計段階からご相談いただければ、最短距離の出願計画と権利化・運用まで一気通貫でサポートします。