岡本太郎と著作権と意匠権

岡本太郎と著作権と意匠権

南青山の岡本太郎記念館へ行ってきました。
大好きなので、何度も通ってますが…
何度行っても魂を揺さぶる感動があります。
(ちなみに館内は撮影OKです。念のため)

絵画中心に展示している、川崎の美術館もおすすめです。
実は、フィギュアとか本とかグッズをたくさん収集するほど岡本太郎好きでして。
いつかコレクションを披露したいです笑

さて問題です

写真に写っている作品の中で、かつて意匠登録(デザインの特許)されていたものがあります。
それはどれだか、わかるでしょうか?
調べてもなかなか出てこないので、
弁理士さんでもちょっと難しい問題かもしれません。

応用美術の著作権

答えに行く前に、美術の著作権の話をさせてください。
美術には、「純粋美術」と「応用美術」があります。

上に掲載した写真の中の、岡本太郎の絵画や彫刻等は「純粋美術」です。
一方、美術を実用品に応用したものは「応用美術」に分類されます。
この中では、時計や椅子、ティーポットや灰皿などが「応用美術」と考えられます。

絵画や彫刻等の「純粋美術」は、
著作権法第2条1項1号の「著作物」に該当するので、当然著作権で保護されます。
他方、時計や椅子やティーポット等の「応用美術」は、
必ずしも著作権で保護されるとは言えません
著作権法第2条2項に「「美術の著作物」には、美術工芸品を含むものとする」という規定があるのですが、
「応用美術」は必ずしも「美術工芸品」とは言えないからです。

「美術工芸品」は、実用性を備えているけど鑑賞性を重視した「美術品」を指しています。
一品制作物や、少数しか制作されないものがこれに当たります。
一方、「応用美術」は、感傷性よりも実用性を重視したものも多く、
工業品として量産されるものが「応用美術」に定義されることもあるのです。
したがって、「応用美術」が「美術工芸品」に該当することもあるけど、
該当しないこともあるということですね。

ただし、近年の判例では、
「応用美術」が「美術工芸品」に該当しなくても、
作者の何らかの個性が発揮された創作的なものなら、
著作物性が認められることになりました。

著作権を補完する意匠権

それでも著作物性が認められず、「著作権で保護されない応用美術」については、
もののデザインを保護する「意匠権」を取得して保護すればいいのです。

ただし、意匠権は著作権と違って出願手続が必要で、
しかもデザインを世の中に公開する前に、手続をしなければ登録されません
応用美術を権利で保護したいということでしたら、
認められるか分からない著作権に頼ることなく、
事前に「意匠出願」されることを検討されてみてください。
権利の種類も効果も異なるので、完全に代替するものとはなりませんが、
「意匠権」の方が侵害訴訟などでは使い勝手が良く、強力な権利だとは言えます。

問題の回答

さて、問題の回答ですが、、、
正解は「ティーポット」と「ミルク入れ」でした!
(もしかしたら他にもあるかもしれませんが、探し出せたのはこの2件)

実際の出願書類に添付された図面(写真)はこちら↓

意匠登録第0492258号
意匠登録第0492259号

公報(意匠登録第0492258号、0492259号)を見てみると、
昭和51年(1976年)10月13日に「株式会社現代芸術研究所」名義(大阪万博を機に誕生し、岡本太郎のアトリエ名にもなっている)で出願されています。
創作者名はもちろん「岡本太郎」。
登録日は昭和53年(1978年)9月27日ですが、
毎年納付しなければいけない登録年金を、途中で納付しなかったため、
わずか3年後の昭和56年(1981年)9月27日に権利が消滅しています。

これらの意匠は、どちらかといえば鑑賞性が高いですし、
量産もされていないはずなので、
美術工芸品というか、著作権でも保護されそうな感じもしますが、
念のために「意匠権」としての保護をすることにしたのでしょうね。

それで、結局量産することもないから、
意匠権維持の必要性を感じなくなって、
消滅させたのかもしれません。

純粋美術以外は、とりあえず意匠出願を検討してみて、
必要性を感じなくなったら、権利を放棄するという戦略も、
ぜひ頭に入れておいていただければと思います。

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