スマホのカメラ性能が向上し、「気になるページだけパッと撮って後で読もう」という行為が身近になりました。
ところが、書店で本を撮影して持ち帰る行為は “デジタル万引き” と呼ばれ、著作権侵害や店舗の営業妨害になる可能性があるとたびたび話題に上がります。
ただし、窃盗罪(刑法235条)の成立は通常考えられません。 本という“物(有体物)”そのものを店から持ち去るわけではなく、店の占有を侵害していないためです。
本当に違法なのか?法律ではどう規定され、書店や出版社はどのように対策しているのか?――本記事では、知財領域に携わる弁理士の視点から「スマホ撮影」のグレーゾーンをわかりやすく解説します。
1. “デジタル万引き”とは?
- 書店で本の中身をスマホで撮影して持ち帰る行為を指す俗称。
- 書店にとっては「立ち読み+無断複製」で売上が失われるため問題視されています。
法律上のポイントは4つ
観点 | 適用条文 | 実際のところ |
---|---|---|
① 著作権法 | 30条1項(私的複製) | 紙の本を個人的に複写するだけなら、原則として侵害にならない。ただし「販売用」や「職場で配布」など私的利用を超えると複製権侵害となる可能性 |
② 店舗ルール違反 | 民法709条(不法行為) | 書店が「店内撮影禁止」と掲示していれば不法行為の可能性→損害賠償請求 |
③ 威力業務妨害罪 | 刑法234条 | 店員の制止を振り切ってまで撮影を続け、店舗の営業を妨害すれば威力業務妨害罪に問われる恐れ |
④ 窃盗罪 | 刑法235条 | 成立しない。物理的に“本そのもの”を持ち出しておらず、財物の占有を奪っていないため |
結論
- 「自分の勉強用に1〜2ページだけサッと撮る」…法律上は私的複製の範囲に収まるが、店の禁止表示があればアウト。
- 「漫画全巻を1冊ずつ撮影」…著作権の私的複製を逸脱し、業務妨害リスクも高い。
3. 実務上「違法」になりやすいケース
- ページの大部分を撮影
私的複製の“必要最小限”を超え、著作権(複製権)侵害 - 友人へ送信・SNSにアップ
“私的”の範囲を超える二次配布で著作権(複製権、公衆送信権)侵害 - 店員の制止を無視して撮影継続
威力業務妨害罪や不退去罪のリスク - 店頭POPで撮影禁止を掲示したにも関わらず撮影
不法行為として損害賠償請求の可能性
4. 書店側がとる対策
- POPやポスターで「店内撮影禁止」「デジタル万引きはお断り」表示。
- 写真禁止エリアの設置、撮影者への声掛け。
- 悪質な場合は警察に通報(業務妨害で被害届)。
5. トラブルを避ける5つの心得
- 撮影可否は店員に確認(黙認はNG)。
- 本の内容を引用・レビューする際は、必要最小限のみ
- 本の内容を撮影してSNS投稿は、通常は公衆送信権侵害。出版社公式ガイドラインをチェックする
- 参考にしたい場合はメモを取る/購入する
- 疑わしいときは立ち読みで済ませない(図書館利用も選択肢)
6. まとめ
- 法的には「私的複製」なら著作権侵害にはならないが、書店が明示的に禁止したり、店員の制止を無視したりすると、不法行為や威力業務妨害罪となる可能性
- 大量撮影やネット公開は著作権侵害+業務妨害のリスク大
- 窃盗罪は「財物の占有を奪う」行為が要件なのでスマホ撮影は該当しない
- 安全策は店で買う・図書館で借りる・出版社の試し読みサービスを利用
迷ったときは著作権・商標にも詳しい弁理士や弁護士にご相談ください。