書体の印象の違いは商標の類否判断に影響する?(「iroha」vs「伊呂波」事件)

書体の印象の違いは商標の類否判断に影響する?(「iroha」vs「伊呂波」事件)

商標の類否判断では、一般に外観・称呼・観念の3つの要素が重視されます。

そのため、読み方が同じであれば類似、見た目が違えば非類似、といった形で単純に整理したくなることがあります。ですが、実際の審決を見ると、そこまで機械的ではありません。

今回取り上げるのは、本願商標「iroha /Healthcare」と引用商標「伊呂波」の類否が争われた拒絶査定不服審判(不服2025-9845)です。

本願商標と引用商標は、少なくとも「イロハ」という称呼を共通にし得る関係にあります。にもかかわらず、審判では最終的に非類似と判断されました。

その理由の中で特徴的なのが、通常の「外観・称呼・観念」に加えて、「印象付けられる観念」の違いまで言及されている点です。

争点になった商標

本願商標は、「」(商願2024-045111)、
一方、引用商標は、「」(登録第5176684号)です。

審決では、本願商標について「Healthcare」部分とは別に、「iroha」の文字部分が分離して把握されることを前提に、引用商標との比較が行われています。

つまり、実質的には「iroha」と「伊呂波」の比較が中心になった事案といえます。

称呼は共通していても、それだけでは決まらない

「iroha」と「伊呂波」であれば、通常はどちらも「イロハ」と読まれる可能性があります。

この点だけを見れば、称呼は共通していると考えやすいでしょう。商標実務でも、称呼の一致は類似判断においてかなり重い要素です。

ただ、今回の審決は、称呼の共通だけで結論を出していません。

審決は、観念については両者とも一義的には特定の観念を生じないため、比較することができないとしました。つまり、「iroha」も「伊呂波」も、この事案では特定の意味内容を直ちに想起させる商標としては扱われていません。

そのうえで、なお非類似と判断する理由として重視されたのが、外観の差と、そこから受ける印象の違いです。

審決が重視した「印象付けられる観念」とは何か

今回の審決で興味深いのは、単に「外観が違う」と述べるだけでなく、両商標がそれぞれ需要者に与える印象付けられる観念にまで踏み込んでいることです。

審決では、本願商標の「iroha」の文字部分からは、欧文字からなるとの観念を印象付けるとされています。

これに対して引用商標「伊呂波」からは、勘亭流風の書体の袋文字で表した漢字からなるとの観念を印象付けるとされています。

そして、この違いがある以上、両者はその点において相紛れるおそれがないと判断されました。

ここで言われている「印象付けられる観念」は、通常の意味での観念、つまり言葉の意味内容とは少し違います。むしろ、その文字がどのような種類の文字として、どのような書体・デザインとして受け取られるかという、見た目から受ける印象に近いものです。

実質的には“外観の差”をより丁寧に説明したものともいえる

この「印象付けられる観念」という言い方には、少し独特なところがあります。

というのも、本願商標についての「欧文字からなるとの観念」も、引用商標についての「勘亭流風の書体の袋文字で表した漢字からなるとの観念」も、結局はどちらも外観から受ける印象を言い換えたもののようにも見えるからです。

そのため、実務的には、「外観の要素の中でそこまで指摘すれば足りるのではないか」と感じる人もいると思います。

実際、この事例も、整理の仕方としては

  • 欧文字と漢字で見た目が大きく違う
  • 引用商標は勘亭流風の袋文字という特徴的な書体である
  • したがって外観上、判然と区別できる

とまとめても、ほぼ同じ結論に至れるはずです。

ただ、審決としては、単に文字種が違うというだけでなく、どのような印象を需要者に残すかまで丁寧に言語化したかったのかもしれません。

書体の印象も、類否判断に影響し得る

この事例から分かるのは、商標の類否判断において、書体の印象が無視できないことがあるという点です。

引用商標は、単に「伊呂波」という漢字表記であるだけでなく、勘亭流風の書体の袋文字で表されている点に特徴があります。これは、普通の明朝体やゴシック体で漢字を書いた場合とは違う、かなり独特な視覚的印象を与えます。

そうすると、称呼が共通していても、需要者の記憶や連想に残る像はかなり異なってきます。

本願商標の「iroha」は、ローマ字表記で比較的すっきりした印象を与えるのに対し、引用商標「伊呂波」は、和風で装飾的な印象を伴います。この差は、単なる字体の違い以上のものとして受け止められたのでしょう。

つまり、書体は単なる飾りではなく、場合によっては商標全体の印象を左右し、類否判断にも影響することがあるということです。

この事例から学べること

今回の事例は、称呼が共通する場合であっても、外観や見た目の印象が強く異なれば、なお非類似と判断されることがあると示しています。

特に、

  • 欧文字か漢字か
  • 書体にどのような特徴があるか
  • どのような雰囲気や印象を与えるか

といった点は、単なる見た目の違いとして片付けられないことがあります。

もちろん、称呼の共通は依然として重要です。ですから、いつでも外観差だけで押し切れるわけではありません。

ただ、商標は最終的に取引者・需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察するものです。今回のように、書体や文字種の違いが印象面で大きく作用する場合には、称呼の共通があっても非類似となる余地があるわけです。

まとめ

「iroha /Healthcare」と「伊呂波」の事例では、本願商標の「iroha」部分と引用商標「伊呂波」は「イロハ」の称呼を共通にし得る一方で、観念面では一義的に比較できず、外観上は欧文字と勘亭流風の袋文字による漢字という大きな差がありました。

さらに審決は、両者がそれぞれ「欧文字からなるとの観念」「勘亭流風の書体の袋文字で表した漢字からなるとの観念」を印象付ける点にも着目し、相紛れるおそれはないとして、最終的に非類似と判断しました。

この事例は、商標の類否判断が単なる読み方の一致だけでは決まらず、書体や文字種が与える印象まで含めて見られることがあると示しています。

称呼が共通する先行商標があっても、外観や書体の印象まで含めて検討すると、違う結論が見えてくることがあります。ロゴや文字商標の出願で迷ったときは、サムライツ知財事務所に相談してみてください。見た目の差がどこまで評価されるかも含めて、実務に沿って整理できます。