商標を鏡文字にしたら類似しなくなるのか?

商標を鏡文字にしたら類似しなくなるのか?

「元の文字が同じなら、やはり似ているのではないか」

商標の話では、そう感じる場面があります。今回の事例も、まさにその典型です。

引用商標は「」(登録第6648235号)。

本願商標は、「BISOU」を鏡文字にした「」(商願2024-086220号)です。

いずれも「化粧品」の分野で出願・登録されており、元になっている文字も同じ「BISOU」です。ぱっと見では、互いに類似しているようにも思えます。現に、一度は審査で拒絶査定を下されています。

しかし、拒絶査定不服審判では審査と異なる判断が出ました。

拒絶査定不服審判の判断は「非類似」

拒絶査定不服審判の判断では、本願商標は引用商標と非類似とされました(不服2025-018518)。

理由として示されたのは、本願商標が、単に「BISOU」という文字を表したものではなく、複数の鏡文字を組み合わせた特徴を有するデザイン化された商標として認識されるのが自然だという点です。

さらに、その構成全体からは、一連の成語や特定の意味合いを表すものとも認識できないとされました。

その結果、本願商標からは、特定の称呼も観念も生じないと判断されています。

なぜ同じ文字でも類似にならなかったのか

この事例で興味深いのは、元になっている文字が同じでも、それだけで当然に類似とはならなかったことです。

商標の類否判断では、単にスペルが共通しているかどうかだけではなく、実際にその商標が

  • どのように見えるか
  • どのように読まれるか
  • どのような意味合いを持つか
  • 全体としてどのような印象を与えるか

といった点が総合的に見られます。

今回の本願商標については、デザイン化の程度が強く、需要者や取引者にとって「BISOU」という文字そのものとして素直に認識されるわけではないと見られたのでしょう。

そのため、引用商標のような「BISOU/ビズゥ」という文字商標とは、称呼や観念の面で共通性がないと判断されたわけです。

ただし「鏡文字にすれば安全」という話ではない

ここで注意したいのは、今回の事例から、鏡文字にすれば類似しなくなると一般化するのは危ないということです。

商標の判断は、あくまで個別具体的です。

たとえデザイン化されていても、元の文字が容易に読み取れるような構成であれば、称呼が生じると判断されることがあります。そうなれば、元の文字商標と類似とされる可能性は十分あります。

つまり、今回の結論は「鏡文字だから非類似」なのではなく、その商標全体が文字として認識されるのか、それとも図形的・デザイン的なものとして把握されるのかという点を踏まえた結果だと見るべきです。

商標実務は見た目以上に繊細

この事例を見ると、商標実務はかなり繊細だとあらためて感じます。

見た目の元になっている文字が同じでも、商標全体の表現次第で、称呼や観念が生じるかどうかが変わる。そうすると、類否判断の結論も変わってきます。

逆に言えば、少しデザインを変えたくらいで安心するのも危険です。

「元の単語は同じだけれど、見た目を変えたから大丈夫だろう」と考えていたものが、実際には類似と判断されることもあります。商標は、表面的な印象だけで決まるものではありません。

この事例から考えたいこと

今回の件は、

  • 元のスペルが同じだから当然に類似するわけではない
  • 鏡文字にしたから当然に非類似になるわけでもない

この両方を示しているように思います。

大事なのは、商標全体としてどう認識されるかです。文字として読まれるのか。特定の呼び方が生じるのか。意味合いが伝わるのか。あるいは、単なる図形やデザインとして受け取られるのか。

その違いが、結論を左右します。

商標は、見た目が少し違うだけでも、実務上の評価は大きく変わることがあります。だからこそ、出願前には「似ているか、似ていないか」を感覚だけで決めないことが大切です。

まとめ

今回の事例では、「BISOU」を鏡文字にした本願商標について、構成全体がデザイン化された商標として認識され、特定の称呼や観念が生じないと判断された結果、引用商標「BISOU/ビズゥ」とは非類似とされました。

一見すると同じ文字に見える商標でも、実務ではその認識のされ方が重視されます。だからこそ、文字の共通性だけで判断するのも危険ですし、デザインを変えたから安心と考えるのも危険です。

商標の類否は、思っている以上に細かく、そして実務的な視点で見られています。

商標は、少しのデザイン差で結論が変わることがあります。サービス名やロゴの出願を考えているなら、自己判断で進める前に、サムライツ知財事務所に相談しておくと安心です。