「有名人なら、自分の名前の商標登録なんて簡単に通るのでは?」
そう思われがちですが、実はまったく逆です。
今回は、松田聖子さんの芸名商標をめぐる実例をもとに、
商標審査における“本人性の立証”という意外なハードルについて解説します。
中小企業や個人事業主にとっても、決して他人事ではない話です。
芸名「松田聖子」の商標出願が一度、拒絶された
今回取り上げるのは、こちらのニュース。
・「「松田聖子本人と断定できず」特許庁が“芸名”の登録を拒絶 国民的スターでも「宣誓書」求められる、商標審査の意外な“壁”」(弁護士JPニュース)
https://www.ben54.jp/news/3096
昨年末の紅白歌合戦のパフォーマンスで注目を集めた松田聖子さんですが、
実は昨年2月に、自身の芸名「松田聖子」を本人名義で標準文字の商標として出願していました(商願2025-20614)。
指定商品・役務は、衣料品、印刷物、ゲーム、ファンクラブ運営など、
いわゆる「松田聖子ブランド」を包括する内容です。
ところが、特許庁はこの出願に対し拒絶理由通知を出しました。
その理由の一つが、次のものです。
①商標「松田 聖子」は、他人の著名な芸名を含む商標であると判断するのが相当であり、かつ、その者の承諾を得ているものとは認められない
②「松田 聖子」の氏名と出願人との間に相当の関連性がある事実を見いだすことができない
この出願は、本人の戸籍名である「河奈 法子」さん名義で出願されたのですが、「松田聖子」本人であると断定できなかったのですね。
国民的スターであっても、
「この出願人が本当に“あの松田聖子さん本人なのか」
それを書面だけでは判断できない、というわけです。
商標審査は「書面主義」――知名度は考慮されない
商標審査は、原則として書面主義です。
審査官は、出願書類と提出された証拠だけを見て判断します。
そのため、
- 世間的にどれほど有名か
- テレビや新聞でどれだけ知られているか
といった事情は、自動的には考慮されません。
著名人の氏名や芸名を含む商標の場合、
- 出願人がその本人であること
- その名前との間に「正当な関係」があること
を、宣誓書などの書面で立証する必要があります。
改正商標法でも「本人確認」は別問題
2024年4月施行の改正商標法により、
「他人の氏名」を含む商標の登録要件は大きく緩和されました。
かつては、同姓同名者「全員」の承諾が必要でしたが、現在は
- 著名な他人に限って承諾が必要
- 出願人と氏名との相当な関連性があれば可
- ただし、不正の目的でないこと
とされています。
しかし、この法改正があっても、
そもそも出願人が“本人かどうか分からない”
という状態では、登録は認められません。
今回の拒絶理由は、まさにこの点にありました。
宣誓書の提出で、登録査定へ
松田聖子さん側は、拒絶理由に対し、
- 自分が芸名「松田聖子」で活動している本人である
- その旨を明確にする宣誓書
を提出しました。
その結果、2026年1月6日付で「登録査定」。
本人性の立証に問題はないと判断され、無事に前に進んだ形です。
中小企業・個人事業主にとっての教訓
この事例から学べるポイントは、非常にシンプルです。
- 有名な名前だと審査は登録に慎重になる
- 商標審査は感覚ではなく、書類で判断される
- 「本人と正当な関係があること」は、必ず立証が必要
たとえば、少し有名になってきたデザイナー名を冠したブランド名や、SNS等でアカウントが伸びているCEOの名前を商標登録するといったケースでも、同じ問題が起こり得ます。
まとめ
国民的スターであっても、商標は「自動的」には通りません。
商標登録で重要なのは、
- 何を出願するか
- どんな証拠を、どう揃えるか
という、極めて実務的な視点です。
「名前の商標だから簡単」
「本人なんだから大丈夫」
そう思ったときこそ、
一度立ち止まって、専門家に相談する価値があります。
