生成AIで願書を作って商標出願する人が増えていますが、最初の書き方次第で「補正できない」「反論できない」「権利が守れない」ことがあります。拒絶理由通知が来てからでは手遅れになり得る理由と、最初から弁理士に依頼すべきポイントを解説します。
目次
- 「生成AIで願書を作れば、商標出願って意外といけるのでは?」
- 結論:商標は「最初の設計」が9割。あとから直せないことがある
- 怖いのはここから:拒絶理由通知が来てから“手遅れ”になる理由
- 詰みパターン1:指定商品・役務がズレていて、補正で取り返せない
- 詰みパターン2:拒絶理由に反論したくても、出願の書き方が弱くて戦えない
- 詰みパターン3:出し直しの間に、他人に先を越される
- 「登録できたのに終わりじゃない」守れていない商標の怖さ
- 生成AIは使っていい。ただし「使いどころ」を間違えると高くつく
- 最初から弁理士に依頼すべき理由:やっているのは“手続”ではなく“設計”
- よくある質問(生成AI出願を検討している方から)
- 最後に:出願は「コスト削減」より「事業の保険」として考える
「生成AIで願書を作れば、商標出願って意外といけるのでは?」
最近、こう考える方が増えています。実際、手続の“形”だけ見ると、AIはそれらしい文章を出してくれます。
ただ、商標は“提出できたらOK”の世界ではありません。
むしろ怖いのは、最初の願書の内容が、その後の選択肢を狭めることです。
拒絶理由通知が来てから弁理士に相談しても、
「それ、もう直せません」
「今の出願内容だと、主張できる範囲がありません」
となるケースは現実に起きます。
この記事は、生成AIを使って商標出願を自分でやろうとしている方に向けて、
見落としがちな問題点と“損失の形”をはっきり整理します。
読んだあとに「最初から弁理士に頼むほうが安全だな」と判断できる材料になればと思います。
結論:商標は「最初の設計」が9割。あとから直せないことがある
商標出願で一番重いのは、書類作成の手間ではありません。
「指定商品・役務(どんな商品/サービスに使う商標か)」の設計です。
ここを外すと、次のような“戻れない”事態が起きます。
・拒絶理由が出ても、補正できる範囲が狭くて救えない
・意見書で反論したくても、出願時の書き方が弱くて戦えない
・登録できても、肝心の事業領域が守られていない
・守れていない領域を他人に取られ、逆に自分が侵害側になる
生成AIは文章生成は得意です。
でも「あなたの事業に必要な権利の設計」と「リスクの潰し込み」は、別の能力です。
怖いのはここから:拒絶理由通知が来てから“手遅れ”になる理由
「拒絶理由が来たら、そのとき弁理士に頼めばいい」
この考え方が成立するのは、最初の願書が一定の水準で設計されている場合に限られます。
商標には、あとから変更できる範囲にルールがあります。
ざっくり言うと、出願内容の“芯”を変えるような補正はできません。
つまり、最初の願書がズレていると、
拒絶理由通知が来た時点で詰むことがあります。
よくある「詰みパターン」を3つ挙げます。
詰みパターン1:指定商品・役務がズレていて、補正で取り返せない
指定商品・役務は、単に「それっぽい単語を並べる欄」ではありません。
権利の守備範囲そのものです。
生成AIで作ると、次のどれかに寄りがちです。
A)広げすぎて、審査でぶつかる
B)狭すぎて、登録できても事業を守れない
C)内容及び範囲が不明確で補正も説明のしようもない
そして厳しいのは、後から都合よく“広げる”補正ができないことがある点です。
「必要な領域を追加すればいい」と思っていても、ルール上、追加できない場合があります。
結果として、
・拒絶理由への対応で行き詰まる
・出し直しになり、出願日がリセットされる
という流れになりやすいです。
詰みパターン2:拒絶理由に反論したくても、出願の書き方が弱くて戦えない
意見書での反論は、魔法のカードではありません。
主張できる材料が、出願時点の設計に依存する場面があります。
“取り返しようがない出願内容”になっていると、
審査で不利になりやすい論点があります。
・そもそも識別力が弱い(説明的・一般的に見える)
・他人の先行商標と近い(類似の評価で不利)
・指定商品・役務の切り方が粗く、逃げ道がない
ここで弁理士が入っても、
「反論の方向性はあるが、決め手に欠ける」
「補正できない(補正しても却下される)ので、打てる手が限られる」
という状況になり得ます。
詰みパターン3:出し直しの間に、他人に先を越される
商標は、基本的に「早い者勝ち」の側面があります。
一度つまずいて出し直しになると、出願日が変わります。
この“空白期間”が一番危ない。
・あなたがブランドを育てている最中に
・あなたがSNSや広告で露出を増やしている最中に
・あなたが「この名前でいく」と発信している最中に
別の誰かが先に出願してしまうことがあり得ます。
そして一度他人に取られると、話は急に重くなります。
名称変更、ロゴ変更、ドメイン・アカウントの整理、顧客への説明。
最初に浮かせた費用どころではなくなります。
「登録できたのに終わりじゃない」守れていない商標の怖さ
もう一つ、静かに効いてくるリスクがあります。
それは、登録できたことで安心してしまうことです。
商標権は「指定商品・役務の範囲で」効きます。
つまり、登録はゴールではなく、スタートです。
もし指定商品・役務が事業の実態をカバーしていなければ、
権利があっても守れない部分が残ります。
ここで起きうる最悪のシナリオがこれです。
・あなたがカバーできていない領域を
・第三者が別の商標として登録してしまい
・あなたの“普段の使い方”が相手の権利範囲に入る
その結果、「自分の商標なのに、使うと侵害」といった逆転現象が起きます。
これは冗談ではなく、指定商品・役務の設計ミスが作る典型的な地雷です。
生成AIは使っていい。ただし「使いどころ」を間違えると高くつく
ここまで読むと「生成AIは危険だから使うな」という話に見えるかもしれませんが、
私はそうは思いません。
生成AIは、使い方次第で強い道具です。
例えば、
・社内で商標候補を整理する
・事業内容の説明文を整える
・出願戦略の論点を洗い出す
・過去の検討履歴をまとめる
こういう用途では非常に役立ちます。
問題は、「出願の初期設計」をAI任せにすることです。
商標は後戻りが効かない場面があり、そこがコスト削減と相性が悪いのです。
最初から弁理士に依頼すべき理由:やっているのは“手続”ではなく“設計”
弁理士に頼む価値は、書類を作る作業代行ではありません。
本質は、次の3点です。
1)事業の現在地と将来像を踏まえた、指定商品・役務の設計
2)拒絶理由を受けにくい表現・区分の選び方(攻めと守りの線引き)
3)もし拒絶理由が来ても、打てる手を残す出願の組み立て
要するに、「あとで詰まないように最初から逃げ道を作る」ことです。
ここができていると、仮に拒絶理由が来ても、対応の余地が残ります。
逆に、ここを外すと、
拒絶理由通知の時点で“詰む確率”が上がります。
よくある質問(生成AI出願を検討している方から)
Q. とりあえず出願だけして、ダメなら出し直すのはアリ?
A. 出し直しは、出願日が変わります。先を越されるリスクが増えます。
また、ブランド運用が進んでいるほど、名称変更のコストが跳ね上がります。
Q. 指定商品・役務は広く書いたほうが安全では?
A. 広げすぎると拒絶理由にぶつかりやすくなります。逆に狭すぎると守れません。
最適解は「事業の核」と「現実的な拡張」を見ながら、必要十分に設計することです。
Q. 拒絶理由通知が来たら、弁理士に頼めば何とかなる?
A. 何とかなる場合もありますが、最初の願書次第で“何ともならない”こともあります。
だからこそ、最初の設計が重要です。
最後に:出願は「コスト削減」より「事業の保険」として考える
商標出願は、費用を安くするゲームに見えがちです。
でも本当は、「将来の揉め事を避けるための保険」に近いと思っています。
・補正できない
・反論できない
・出し直しで先を越される
・登録しても守れていない
・逆に侵害リスクが出る
こうした損失は、出願費用の差よりずっと高くつくことがあります。
もし今、
「生成AIで願書を作って出願しよう」と考えているなら、
出す前に一度、設計を専門家の目で点検することをおすすめします。
当事務所では、経歴20年以上の商標実務に慣れた弁理士が、
事業内容・将来展開・商標の使い方を踏まえて、
指定商品・役務の設計と出願方針をご提案します。
※本記事は一般的な情報提供であり、個別案件への法的助言ではありません。具体的な判断は状況により変わります。
