飲食店の商標トラブルは、「悪意ある乗っ取り」だけでなく、
“知らないうちに踏んでしまう地雷”として起きることが多いです。
ここでは、飲食店で実際に起こりがちな商標トラブルを「あるある順」に整理します。
目次
1. 店名(屋号)が他人に先に商標登録されていた
いちばんダメージが大きいタイプです。
- 「昔から使っている店名」なのに、別の人が先に出願していた
- 開業前にSNSや求人で店名を公開したら、第三者に先取り出願された
- 多店舗展開・催事出店のタイミングで発覚した
起きること
- 変更要求(看板、SNS、メニュー、包材、Googleマップ等)
- フランチャイズやコラボの契約で「権利がない」と言われる
- モール・広告・プラットフォームでのトラブル(権利者側の申立て)
ポイント:商標は基本「先願主義」。
“使ってたから自分のもの”とは限りません。
2. 「同じ店名の他店」が増えて、口コミ・検索が混線する
商標侵害で争う以前に、集客がじわじわ壊れるタイプです。
- 近隣や別地域に同名・類似名が出現
- Googleマップや口コミサイトで情報が混在
- 「系列店ですか?」と聞かれる
起きること
- 口コミが混ざる/悪評が飛び火する
- 指名検索の流入が減る
- 採用や取材の問い合わせも混線する
3. ロゴや看板デザインが「似ている」と言われる(言われる側/言う側)
店名を変えていても、ロゴが似ていると揉めます。
- フォント・配置・図形アイコンが既存店に近い
- 「図形を足したから大丈夫」と思っていたが文字部分が同じ扱いになった
- 逆に、自店が育ったら似たロゴが出てきた
起きること
- 警告書、表示変更要求
- 作り直しコスト(看板・印刷物・データ差替え等)
- 似た店が出ても、権利がないと止めにくい
4. 看板メニュー名・商品名の商標が取られていた(または取られる)
飲食店は「商品名」も資産になり得ます。
- 名物メニュー名(例:○○丼、○○焼き、○○プリン)
- コース名、セット名、キャンペーン名
- 監修商品・コラボ商品名
よくある落とし穴
- 説明的すぎる名称(「濃厚チーズケーキ」等)は商標として弱い/登録しにくい
- 逆に、“素材名っぽい造語”が他社の登録商標で、無意識に踏む
5. テイクアウト/物販に広げた途端「区分の穴」で揉める
「店としてのサービス」だけでなく、事業が広がると守る範囲が変わります。
- 店内飲食(第43類)だけのつもりが、レトルトや冷凍を本格展開
- ECや店頭物販の“売り場ブランド”を作った
- 催事・百貨店・ふるさと納税などに出る
起きること
- 店名は守っているのに、商品化・小売で別の権利とぶつかる
- 逆に、他社に商品分野を押さえられてしまう
6. デリバリー/予約サイトで「なりすまし・紛らわしい表示」が出る
商標の話とプラットフォーム運用が絡むとややこしくなります。
- 似た店名で出店されて、ユーザーが誤注文
- 自店の写真や説明文が流用される
- 「公式」っぽい名称や略称で便乗される
起きること
- クレームが自店に来る
- 返金対応や評価低下の火消しが必要になる
7. SNSアカウント名・ドメイン名を他人に先に取られる
商標そのものというより、ブランド導線の取り合いです。
- 店名のアカウントが取れない(別人が取得済み)
- ドメインが高額転売される
- 似たIDが乱立して「公式が分からない」
商標があると、プラットフォーム対応で“話が通りやすくなる”場面もありますが、万能ではありません。
現実的には 早めの確保(アカウント・ドメイン) が有効です。
8. 外注デザイナーとの権利関係が曖昧で、ロゴが使いづらくなる
これは地味に多いです。
- ロゴ制作を外注したが、著作権・利用範囲が契約で未整理
- 商標登録したいのに、権利帰属が不明確
- 修正や別媒体展開で追加費用を求められる
対策の方向性
- ロゴ・イラストの権利帰属/利用許諾/改変可否を契約で明確化
予防策(最低限これだけで事故率が下がります)
- 店名(文字)+ロゴは早めに商標の当たりを付ける(第43類が中心)
- 物販・EC・商品化をするなら、小売(第35類)+商品区分も将来計画に入れる
- 看板メニュー名は「説明語」だけにしない(固有の核ワードを入れる)
- 開業前に名前を公表するなら、出願の段取りを先に
- SNS・ドメインは“席取り”で早めに確保
- デザイナーとは権利条項を契約で固定する
