飲食店の名前を考えていると、よくあるのがこの悩みです。
- 「検索したら、同じ名前の店が他県にもあった……もう商標登録は無理?」
- 「うちは昔からこの店名だけど、最近同じ名前の店が増えてきて不安」
- 「商標登録しておいた方がいい気はするけど、同名店があるとダメなのかな?」
結論からいうと──
同じ店名の飲食店が他にもあっても、商標登録できる場合はあります。
ポイントは、
- その店名が すでに商標登録されているかどうか
- どんな商品・サービス(区分・指定役務)で登録されているか
です。
「同じ名前の店がどこかにある=アウト」ではありません。
もう少し具体的に整理してみましょう。
目次
1. 商標登録の基本ルールだけ、サクッと整理
まず前提として、商標にはこんな特徴があります。
- 先願主義:
先に出願した人(会社)に権利が認められるのが基本 - 全国一律:
商標権は「日本全国」で効力が及ぶ
→ 東京の店が出願しても、北海道・沖縄にも効く - 区分(指定商品・指定役務)ごとに権利が分かれている:
飲食店ならメインは第43類「飲食物の提供」が基本のフィールド
つまり、
- 「同じ名前のラーメン屋が他県にあるかどうか」
よりも - その名前が第43類の「飲食物の提供」の分野で商標登録されているかどうか
が、商標的には大きなポイントになります。
2. ケース別:「同じ店名の飲食店」があるとき、商標は取れる?
ケースA:同じ店名の飲食店があるが、誰も商標登録していない
この場合が、いちばん迷いやすいパターンです。
- A店(あなたの店):10年前から「〇〇食堂」を使用中
- B店(他県):5年前から同じ「〇〇食堂」を使用中
- どちらも商標登録はしていない
このとき、
どちらが先に商標出願してもよい(制度上は)
というのが原則です。
商標は「使い始めた順」ではなく「出願した順」で決まるからですね。
ただし、ここで注意したいのが 「先使用権」という考え方です。
ざっくりいうと:
- 他人よりも前から
- 日本国内で、善意で
- その商標を使っていて
- 需要者の間で広く認識されている
ような場合には、先に使っていた側(先使用者)には「その範囲では使い続けていい」という権利が認められる可能性があります。
なので、
- あなたが商標登録をしても、
- 先に同じ名前で営業している店に対して
- すぐに「名前を変えろ」とまでは言えないケースもある
というのが、現実的な運用になります。
ポイント
- 誰も登録していないなら、自分が出願する余地はある
- だからといって、既存の同名店を一気に“排除できる”わけではない
- また、「地鶏食堂」「中国東北飯店」「直島コーヒー」「推し活居酒屋」など、説明的な店名は識別力がないため、そもそも商標登録できない
ケースB:同じ店名の飲食店がすでに商標登録している
例えば、
- 他県の「〇〇カフェ」が
- 第43類「飲食物の提供」で
- すでに商標登録済み
この場合、
基本的に、あなたが同じ/紛らわしい名前を第43類で登録するのは難しい
+ その名前を使い続けること自体が「商標権侵害」になるおそれもあります。
よくある誤解がこちら:
「うちは北海道、相手は九州だから、住み分けできてるでしょ?」
→ 商標の世界では “地域が違うからOK” は通用しません。
商標権は日本全国に効くので、
- エリアが違う
- 実際にまだぶつかっていない
としても、「登録済み商標と同じ/類似の名前を、同じ種類のサービスに使っている」と判断されれば、原則アウトの世界になります。
ケースC:同じ店名はあるが、ロゴ・指定役務などが少し違う
たとえば、
- 相手:文字だけの「〇〇カフェ」(第43類)
- あなた:イラスト+デザイン入りの「〇〇 CAFE」ロゴ
このような場合、
- ロゴ全体として見たときに「非類似」と判断される場合もあれば
- 「文字部分が共通している」と見られて「類似」と判断される場合もあり
線引きはかなり専門的・ケースバイケースになります。
- フォントを変えたくらいでは、たいてい「同じ名前」と見られる
- 図形を足しても、文字部分が同じだと類似と判断されることが多い
とイメージしておくと、あまり危ない橋を渡らずに済みます。
3. 「同じ店名がある=必ず商標登録できない」ではない理由
ここまで読むと、
「なんだか怖いな……同じ名前の店がある時点でダメなのでは?」
と感じるかもしれませんが、実はそうとも限りません。
ポイントは、
- 同じ店名があっても
- 相手が商標登録していなければ、あなたが先に出願する余地はある(※他の法律との関係は別途検討)
- 同じ名前でも
- 全く別の業種・区分であれば登録できることもある
ということです。
ただし、飲食店同士(第43類同士)で同名となると、
- 将来のトラブルをどう考えるか
- お互いの規模・知名度・エリア
- 先使用権の可能性
なども絡んでくるので、「出願すれば全部解決」とは考えない方が安全です。
できるだけ、誰も使用していない店名にするのがおすすめですね。
4. 商標登録する側として、気をつけたい3つのポイント
① 先に商標を取ったからといって、何でもかんでも「やめさせられる」わけではない
- 自分より前から、真面目に同じ名前で営業している店がある場合
- その店が「先使用権」を主張できる可能性もある
そうした相手に対して、いきなり法的手続きに出ると、
- 法律的に(権利行使が)うまくいかないリスク
- SNS等で「名前を奪いに来た店」と叩かれるリスク
もあります。
「名前を守る」ことと、「相手を叩く」ことは別問題なので、力の使い方には要注意です。
② 逆に、他人に先に登録されるリスクもある
あなたが10年使っている店名であっても、他社が2年前にその名前を商標登録していたら
「商標権者」は後から出願した側です。
この場合、
- 先に使っていたあなたは、条件を満たせば「先使用権」を主張できる可能性はある
- とはいえ、堂々と名前を育てていく上では大きな不安要素になる
という意味で、
「長く使うつもりの店名なら、早めに商標登録を検討する価値は高い」
と言えます。
③ 店名だけでなく「ロゴ」「略称」「シリーズ名」も資産になる
- 店名(文字)
- ロゴマーク(図形・結合商標)
- 略称(アルファベット3文字など)
- 看板メニュー名(コース名・シリーズ名)
も、それぞれ商標登録の対象になり得ます。
ブランドづくりの観点では、
- 店名(ハウスマーク)
- ロゴ
- 看板メニュー名
あたりから、少しずつ “席取り” を進めていくイメージがおすすめです。
5. 実務的に何をすればいい? ざっくりステップ
ステップ1:検索してみる(J-PlatPatなど)
- 店名(漢字・ひらがな・カタカナ・英語表記)
- ロゴを構成するメインの文字部分
で、
- 第43類(飲食物の提供)を中心に
- 同じ/似た商標が登録されていないか
をざっとチェックします。
ステップ2:同じ名前の店が「商標を持っているか」を見る
- Googleマップ等で同じ店名が出てきたら
→ その店の運営会社・法人名を確認 - それを元に、商標登録があるかどうかも調べてみる
「同名の飲食店があるか?」だけでなく 「同名の登録商標があるか?」を見るのがポイントです。
ステップ3:長く使うつもりの店名なら、早めに方針を決める
- この店名で、今後もずっとやっていきたいのか
- 将来的に
- 多店舗展開
- FC・プロデュース
- ECや物販
などを視野に入れているのか
を考えたうえで、
- 「商標登録までして守りに行く」のか
- 「将来変える前提の仮の名前」と割り切るのか
を決めていくと、動き方がだいぶクリアになります。
まとめ:「同じ店名がある=即アウト」ではないが、放置は危険
Q. 同じ店名の飲食店が他にもあっても、商標登録できますか?
- 相手がその店名を商標登録していないなら、あなたが先に登録を狙う余地はあります。
- すでに他社が同じ/紛らわしい名前を
第43類「飲食物の提供」などで登録している場合、
同じ名前での登録は基本的に難しく、使用自体も侵害リスクがあります。
そして何より大事なのは、
「同じ名前の店があるか」だけでなく、 「その名前が商標としてどう扱われているか」を見ること。
もし今の店名について、
- すでに他にも同名店がある
- でも、この名前には愛着があるし、これからも使いたい
と感じているなら、一度、
- 登録状況(先行商標)の有無
- 将来どこまでこの名前で攻めたいか
を整理してみてください。
そのうえで、
「この店名は、うちの大事な“看板資産”だ」
と感じるなら、
商標登録を含めて、名前の守り方を検討しておく価値は十分にあります。
