整体・鍼灸の先生から、よくこんな相談があります。
- 「腕には自信があるけど、名前やロゴはなんとなくで決めてしまった」
- 「院名はあるけれど、“ブランド”として育てている感覚があまりない」
- 「商標登録も気になっているけど、どこから手を付ければいいのか分からない」
結論からいうと──
整体院・鍼灸院が商標でブランドを作るうえで大事なのは、
①名前の設計(構造)
②区分の選び方
③一貫した使い方(運用)
④“守る”だけでなく“信頼を見せる”使い方
の4つです。
「技術」そのものは商標では守れませんが、
技術につけた“名前”と“見せ方”をきちんと設計することで、ブランドは確実に強くなります。
以下、順番に整理していきます。
目次
1. まずは「ブランドの骨格(名前の構造)」を決める
いきなり商標の話に行く前に、
整体院・鍼灸院では、名前のレイヤー構造を整理しておくことがとても大事です。
よくある3階層
- 院名・サロン名(ハウスマーク)
- 例:〇〇整体院、△△鍼灸院、□□サロン
- 「どこのお店か?」を示す“屋台骨”の名前
- コース・メニュー名(サービス名)
- 例:〇〇骨盤調整コース、△△鍼灸メソッド など
- 「何をしてくれるのか?」を示す名前
- スクール名・講座名
- 例:××式整体スクール、□□メソッド®講座 など
ここで重要なのは、
- どの名前を“ブランドの核”として長く育てたいのか
- どの名前は、説明用として割り切れるか(「肩こり改善コース」など)
をはっきりさせることです。
商標で守るべきは、「誰でも使う一般的な言葉」ではなく、
自院だけの“固有の名前”です。
2. 区分の選び方:整体・鍼灸は「第44類」が中心
「ブランドの核にしたい名前」が決まったら、
次は どの区分で商標出願するか を考えます。
整体・鍼灸・マッサージの“本体”は第44類
- 第44類
- 整体
- 接骨・整骨
- カイロプラクティック
- あん摩・マッサージ・指圧
- はり・きゅう
- リフレクソロジー
- ボディケア美容 など
院名・サロン名・施術メニュー名を守るうえで、
第44類はほぼ必須の区分です。
事業内容によって足したい区分
- スクール・講座・オンラインセミナー
→ 第41類(教育・セミナーの企画・運営 など) - サロン名で物販をしている(コスメ・サプリ・健康グッズ等)
- 売るサービス(小売) → 第35類
- 商品そのもの → 第3類(化粧品)、第5類(サプリ等)、第10類(治療機器)など
- オリジナル器具・ベッドなどのブランド
→ 第10類(医療機械器具)、+販売サービスなら第35類
「今やっていること」だけでなく、
これからやりたい展開も見据えて区分を選ぶのがポイントです。
3. 院名・メニュー名の“つけ方”がブランドの強さを決める
どんなに区分を丁寧に選んでも、
名前そのものに“ブランドらしさ”がないと、商標登録ですぐにつまずきます。
登録が難しくなりやすい名前
- 完全に説明だけの名称
- 例:「骨盤矯正コース」「肩こり整体」「小顔調整」
→ 何をするかの説明にすぎず、誰でも使うべき言葉
- 例:「骨盤矯正コース」「肩こり整体」「小顔調整」
- 「地名+整体院」「駅名+鍼灸院」だけ
- 例:「渋谷整体院」「梅田鍼灸院」
→ どこに何の院があるか、という説明になりやすい
- 例:「渋谷整体院」「梅田鍼灸院」
こうした名前は、
「役務の質(内容)を普通に表示するにすぎない標章」
「ありふれた地名・業種表示」
として、識別力がない=商標として登録しづらいゾーンです。
ブランド化しやすい名前の方向性
- 造語やコンセプトワード+整体・鍼灸等
- 院長や医院(会社)の名前+一工夫+整体・鍼灸等
- ターゲット・価値観を表す言葉+整体・鍼灸等
ポイントは、
「説明」だけで終わらせず、一歩“固有名詞”側に踏み出すことです。
4. 「出願して終わり」ではなく、「統一運用」がブランドを育てる
商標登録はスタートラインであって、ゴールではありません。
① 表記をできるだけ統一する
- 院名・ロゴ・キャッチコピーの書き方を決める
- HP、看板、名刺、チラシ、予約サイト、SNS で表記を揃える
- メニュー名もブレないようにスタッフと共有する
同じ名前・同じロゴを徹底的に使うことで、
「この名前=この整体院(鍼灸院)」
という認識が、だんだんと地域やネット上に浸透していきます。
② 「略称」や「ロゴ」も意識的に育てる
- 院名が長いなら、略称(アルファベット3文字など)を決める
- 例:〇〇鍼灸整体 → 「OSC」など
- ロゴマーク・シンボルを作り、看板・サイト・ユニフォームに使い回す
略称やロゴも、育てば立派なブランド資産です。
必要に応じて、略称やロゴも商標出願の候補になり得ます。
5. 「守る」だけでなく「信頼を見せる」ツールとしての商標
商標登録=訴えるための武器、というイメージを持たれがちですが、
整体・鍼灸院にとっては、信頼を見せるためのサインにもなります。
こんな“見せ方”が効果的
- HPのフッターや「当院について」に
- 「『○○整体』は当院の登録商標です。」とさりげなく記載
- セミナー・講座資料に
- 「△△メソッド®」と表記
- プロフィール文に
- 「○○整体(登録商標)を軸とした施術を提供しています。」と一行添える
派手に自慢する必要はありません。
「名前に責任を持ち、長く続ける意思があります」というメッセージが、
じわっと伝われば十分です。
6. 模倣や“似た名前の院”への向き合い方もブランドの一部
ブランドが育ってくると、
- 似た院名
- 似た施術メニュー名
- 世界観だけ借りたようなサロン名
が出てくるのは、ある意味“人気の証拠”でもあります。
ここで大事なのは、
「守るべきライン」と「許容してよいグレー」を自分の中に持っておくこと
です。
守るべきラインの例
- 登録商標とほぼ同じ院名・メニュー名を、同じ地域・同じ業種で使われている
- 患者さんが「先生の分院ですか?」と本気で混同している
こうした場合には、
- 事実確認
- 証拠の確保
- 穏やかなコンタクト
- 必要なら専門家からの正式な警告
という流れで、落ち着いて権利行使を検討します。
逆に、
- 地域も分野もかなり違う
- 読みやコンセプトだけほんのり似ている程度
なら、
「気持ちはザワッとするけれど、法律的に攻めるほどでもない」
というケースも多いです。
「全部に噛みつくブランド」になると、
逆に信頼感を落とすこともあるので、
強く出るケースと静観するケースのバランスも、ブランドマネジメントの一部です。
7. 整体院・鍼灸院が「商標でブランド構築」するときのチェックリスト
最後に、実務レベルで今すぐできることをまとめておきます。
Step1:名前の棚卸し
- 院名・サロン名
- 主力メニュー名(本当に推したいもの)
- スクール・講座・オンラインコンテンツの名前
- よく使う略称・ロゴ・キャラクターがあるか
→ **「これは10年後も残したい名前」**に丸を付ける
Step2:名前の質のチェック
- 説明だけの名前になっていないか?
- 例:「骨盤矯正コース」「マタニティ整体」だけ になっていないか
- 造語・固有の要素は入っているか?
- 例:〇〇式、△△メソッド、◇◇整体 など
→ “ブランド名らしさ”があるか、ひと呼吸おいて眺めてみる
Step3:区分の整理
- 施術:第44類 → 必須候補
- スクール:第41類(やっている/やる予定があれば)
- 物販サービス:第35類
- 商品そのもの:第3類/第5類/第10類 など
→ 今の事業+3年後くらいまでをイメージして必要な区分を書き出す
Step4:どの名前から出願するか優先順位をつける
- 院名・サロン名(ハウスマーク)
- 看板メニュー・オリジナルメソッド名
- スクール・講座名(軸になるもの)
→ いきなり全部ではなく、“核”から順番に取っていく
まとめ:技術 × 名前 × 一貫性 = 整体・鍼灸の「ブランド」
- 商標は「技術そのもの」を守る制度ではなく、
**その技術につけた名前(ブランド)**を守る制度 - 整体院・鍼灸院が商標でブランド構築するには、
- 名前の構造を決める(院名・メニュー名・スクール名など)
- 適切な区分(第44類+必要に応じて第41類・第35類など)を選ぶ
- “ブランドらしい”固有の名前を設計する
- 登録した名前・ロゴをブレなく使い続ける
- 信頼を見せるツールとして商標を活用する
この5つを意識していくことで、
「ただの整体院・鍼灸院」から、
**“名前を聞いただけで思い出してもらえるブランド”**へと、一歩ずつ近づいていきます。
まずは、
「この名前だけは、絶対に手放したくない」
と思える院名・メニュー名を一つ選ぶところから。
そこが、商標でのブランド構築のスタート地点になります。
