歯科医院の「○○矯正」など治療名は商標登録できる?

歯科医院の「○○矯正」など治療名は商標登録できる?

矯正歯科のHPやLPを作っていると、こんな名前を付けたくなることが多いと思います。

  • 「マウスピース○○矯正」
  • 「○○式裏側矯正」
  • 「前歯だけ部分矯正〇〇プラン」

このとき、ふと頭をよぎるのが、

「これ、商標登録しておけば真似されない?」
「そもそも『○○矯正』って商標になるの?」

という疑問ですよね。

結論から言うと、

  • 「マウスピース矯正」「裏側矯正」など 治療内容をそのまま説明している名前は、原則として商標登録は難しい です。
  • 一方で、 造語やクリニック独自のワードを含んだ「○○矯正」「○○式矯正」などは、商標登録できる余地があります

ポイントは、
その名前が “治療の説明”なのか、“ブランド名”として機能しているか です。

この記事では、歯科の「○○矯正」ネーミングについて、

  • なぜ説明的な治療名は登録が難しいのか
  • どんなパターンなら登録の余地が出てくるのか
  • 他社の装置名(インビザラインなど)を含めるときの注意点
  • 実務でのネーミング・出願の考え方

を、やさしく整理していきます。


商標登録の基本:治療名にも「自他役務識別機能」が必要

商標として登録されるためには、その名前が

「自院のサービス」と「他院のサービス」を見分ける“標識”になっているか
自他役務識別機能 があるかどうか

が問われます。

ここで問題になるのが、商標法第3条第1項第3号です。

「役務の質(内容)を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」は登録できない。

つまり、

  • 「どんな治療か」
  • 「どの部位に対するものか」
  • 「どんな特徴があるか」

普通に説明しているだけの言葉 は、
特定の医院だけが独占する商標にはできない というルールです。


登録が難しい「説明的な○○矯正」の例

まずは、登録が難しくなりがちなパターンから。

こういう名前は、ほぼ「治療内容の説明」

次のような名称は、ほとんどが治療方法や対象の説明にとどまるため、原則として商標登録は難しいと考えた方が無難です。

拒絶事例:

いずれも、

  • どんな装置を使うか(マウスピース/裏側/舌側…)
  • どの部位・年代向けか(前歯/小児/成人…)
  • どんな特徴か(目立たない/短期間…)

説明しているだけ で、

「どのクリニックのサービスなのか」

までは分かりません。

このような名称は、

  • 誰でも診療内容の説明として使わないと困る
  • 1院に独占させるのは不公平

と判断されやすく、識別力なしとして拒絶されがちなゾーン です。


登録の余地が出てくる「ブランド寄りの○○矯正」

一方で、「○○矯正」の全部がダメ、というわけでもありません。

造語+矯正・固有名+矯正

登録の余地が出てくるのは、たとえばこんなタイプです。

登録事例:

  • 「ルミネート矯正」(登録第6993581号)
  • 「いいとこどり矯正」(登録第6962458号)
  • 「インダイレクト・ハイブリッド矯正」(登録第6637365号)
  • 「クリア・アライン矯正」(登録第6563316号)
  • 「こどもキレイ矯正」(登録第6456565号)
  • 「kawaii矯正」(登録第6155454号)など

ポイントは、

  • 「ルミネート」「いいとこどり」「インダイレクト・ハイブリッド」「クリア・アライン」「こどもキレイ」「kawaii」といった部分が造語・クリニック独自の呼び名として機能しているか
  • 全体として見たときに、
    “治療の説明”というより“ブランド名”として認識されるか

です。

もちろん、

  • すでに他人が同じ/似た商標を登録していないか
  • 他人の医院名・氏名・著名人名にぶつからないか

といった別の条文も絡むので、最終判断は個別の審査になりますが、

「説明語+矯正」だけで終わらせず、
ブランドらしい固有の要素をきちんと入れる

ことで、登録の可能性は高まりやすくなります。


「ありふれた氏名+矯正」はどう扱われる?

歯科では、

  • 「山田矯正歯科」
  • 「佐藤矯正クリニック」

のように、氏名+矯正歯科 というネーミングも多いですよね。

ここで注意したいのは、

  • 「山田」「佐藤」などの ありふれた氏
  • +「矯正歯科」「クリニック」などの 業種表示

という構成だと、

「ありふれた氏+業種表示」にすぎない標

として、識別力が否定される(商標法3条1項6号)可能性がある点です。

一方で、

  • ありふれていない氏+矯正
  • 氏+コンセプトワード+矯正(例:「山内ハート矯正」)

のように、全体として固有のブランド名といえる構成 であれば、
登録される余地が生まれてきます。


他社の装置名(インビザライン等)を含む治療名は要注意

もう一つ、実務で非常に多いのがこれです。

  • 「インビザライン矯正」
  • 「クリアコレクト矯正」

など、他社の製品名を治療名の一部にしてしまうパターン

たとえば「インビザライン」「クリアコレクト」は、
装置そのものの商品名であり、登録商標です。

  • 「インビザラインを用いたマウスピース矯正を行っています」
     → 装置名として正しく紹介する
  • 「インビザライン矯正」という治療ブランドを自院の名称として前面に掲げる
     → 他社商標の無断使用(商標権侵害)の問題が出得る

法律的には、この2つはまったく別扱いになります。

メーカーの登録商標は、メーカー側のガイドラインに沿って、装置名として使用する
自院の治療メニュー名・ブランド名は、できるだけ自院オリジナルのネーミングにする

この線引きは、かなり重要です。


どの区分で出す?基本は「第44類(歯科医業)」

歯科医院の治療名を商標登録する場合、
中心になるのは 第44類 です。

基本:第44類「歯科医業」「矯正歯科医業」

指定役務の例:

  • 歯科医業
  • 矯正歯科医業
  • 歯科に関する医療情報の提供 など

「○○矯正」という名前を、
矯正治療サービス(役務)のブランド名として守りたい

のであれば、

  • 区分:第44類
  • 指定役務:歯科医業/矯正歯科医業 等

を含めるのが基本ラインになります。

こんな場合は他区分も検討

  • 「○○矯正セミナー」「○○矯正講座」など、同じ名前で 勉強会やセミナー を開催
    → 第41類「セミナーの企画・運営」など
  • 同じ名称で オンライン相談サービス・情報サイト を展開
    → 内容に応じて第41類・第44類 など
  • 「○○矯正装置」「○○矯正キット」として、 オリジナル装置・教材 にも使う
    → 第10類(医療機械器具)、第16類(印刷物) など

…というように、

その名前を どのサービス・商品に付けているか

から逆算して、指定する区分・役務・商品を設計していきます。


「登録できない=使ってはいけない」ではない

ここ、先生方がよく誤解されるポイントです。

  • 「マウスピース矯正」
  • 「部分矯正」
  • 「こども矯正」

といった名称は、
商標として独占することは難しい一方で、

  • サイトやパンフレット上の“説明”として使う
  • メニュー名として表示する

こと自体が、すぐに違法という話ではありません。

意味としては、

登録しづらい名前 = 「独占権としては守りにくい」
= 他院も同じ表現を自由に使える

ということです。

大事なのは、

  • どの部分を「一般的な説明ワード」として割り切るか
  • どの部分を「自院だけのブランド名」として育てたいか

を意識して、ネーミングを組み立てることです。


実務でのネーミング・商標戦略のコツ

最後に、先生が今すぐできるチェックの観点を、ざっくりまとめておきます。

① まず「ブランドの核」になる言葉を決める

  • 医院名(ハウスマーク)
  • 矯正メニュー群(ライン)の名前
  • 各メニューの固有名(ペットネーム)

この中で、

説明語ではなく、「固有の名前」として通用しそうな部分はどこか?

を意識して見てみてください。

② 「説明」部分と「ブランド」部分を頭の中で切り分ける

例:

  • 「クリア・アライン矯正」
    • 「クリア」:ブランドの核(守りたい部分)
    • 「アライン矯正」:治療内容の説明
  • 「こどもキレイ矯正」
    • 「こどもキレイ」:ブランドの核
    • 「矯正」:説明

見た目では一体の名前でも、
法律上どう評価されるかを意識して設計しておくと、後で楽になります。

③ 商標出願は「核になる部分」から検討

  • 長く使い続けたい造語部分
  • ロゴマーク(文字+図形)

を中心に、

  • 文字商標
  • 図形商標・結合商標

として第44類で出願しておくと、

  • 「○○矯正」の○○部分をきちんと守れる
  • 「矯正」「マウスピース」などの説明語は、他院も自由に使える

というバランスが作りやすくなります。


まとめ:「治療の説明」と「ブランド名」を分けて考える

Q. 歯科医院の「○○矯正」など治療名は商標登録できますか?

  • 治療内容を普通に表現しただけの「マウスピース矯正」「部分矯正」などは、原則として商標登録は難しい
    (治療の質・内容の説明にすぎず、識別力がないと判断されやすい)
  • 一方で、
    造語・クリニック独自のワード+矯正 のように、全体として「ブランド名」として機能していれば、登録される余地があります。
  • 医院・治療名として登録する場合、区分は基本 第44類(歯科医業/矯正歯科医業) が中心です。
  • 「登録できない名前=使ってはいけない名前」ではなく、
    「独占はできないので、他院も同じ表現を自由に使える」という意味合いです。

もし今、院内の資料やHPを眺めてみて、

うちの「○○矯正」って、どこまでが説明で、どこからがブランドなんだろう?

と感じたら、
一度 「説明」と「ブランド」の境界線 を意識して見直してみてください。

  • 「説明語」は、患者さんに分かりやすく
  • 「ブランド名」は、法的にもきちんと守れる形で

この2つをうまく分けて設計することで、
矯正メニューそのものの魅力も、名前の安心感も、どちらも大切にしていけるはずです。