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指定商品・役務を誤解すると、地域ブランドを傷つけかねない
今回取り上げるのは、こちらのニュース。
・「「なみえ焼そば」名称使用料の徴収撤回…弁護士「飲食店内での提供物には商標権が及ばない」」(読売新聞オンライン)
https://www.yomiuri.co.jp/economy/20251114-OYT1T50037/
福島県浪江町のご当地グルメ「なみえ焼そば」をめぐり、浪江町商工会が飲食店に対して名称使用の許諾とロイヤリティ徴収を求めていた件は、最終的に方針撤回となりました。
背景には、専門家からの指摘があります。
現在の商標登録(商標登録第5934383号)の指定商品・役務は「焼そば」「焼そばのめん」(30類)。
一方で、飲食店が店内で「焼そばを提供する」行為は43類「飲食物の提供」に該当します。
つまり、今回の登録内容では、商標権は“飲食店での提供行為”には及ばない。
これが実務での一般的な理解です。
商工会はこの指摘を受け、飲食店へのロイヤリティ徴収を取り下げ、登録料も返還。
物販用の焼そば(麺)については引き続き権利が及ぶとしています。
「区分」ではなく「指定商品・役務」で決まるのが商標の権利範囲
商標の権利範囲については、しばしば
- 「30類だから食品全般」
- 「43類だから飲食店全般」
という誤解が生じます。
しかし実際には、区分は単なる分類であり、権利範囲は“個別の指定商品・役務”で決まるという点が最重要です。
今回のように、
- 「焼そばのめん」には権利が及ぶ
- 「焼そばを提供する行為」には及ばない
という構造は、商標実務では珍しくありません。
この理解を欠くと「過剰な権利行使」と受け取られ、かえってブランドの信頼を損ねる結果につながります。
だからこそ、出願時にどの商品・役務を指定するのかをよく考えた上で、適切な商品・役務を指定することが、商標権の取得の上で最も重要です。この点を軽視して、「自分でも出願できる」「どこに頼んでも同じだから安いところに依頼しよう」と考えていると、痛い目を見るかもしれません。
中小組織ほど誤解とトラブルのリスクが大きい
地域ブランドは地域の努力の結晶であり、守るべき大切な資産です。
しかし、商標制度への理解が不十分なまま運用すると、今回のような摩擦が生じやすくなります。
特に中小組織では、
- 役員・担当者レベルの判断に依存しがち
- 商標を「何でも独占できる権利」と誤解しやすい
- 権利行使のつもりが、逆にファン・協力者を遠ざける
といった問題が起きやすい傾向があります。
今回の件は、その典型的な例と言えます。
商標を地域ブランドの味方にするための3つのポイント
地域ブランドや中小企業が商標を活かすためには、次の3点が不可欠です。
① 指定商品・役務の範囲を正しく把握する
区分ではなく“文言”が権利範囲を決めます。
② 利用者・関係者への説明を丁寧に行う
誤解を避け、協力関係を築くために透明性が不可欠です。
③ 不安があれば専門家に事前相談する
内部だけで判断すると誤りが生じやすい領域です。
これらを押さえることで、商標は「地域の味方」として機能します。
地域ブランドを守る鍵は「誤解のない運用」
「なみえ焼そば」は、浪江町の復興の象徴ともいえる地域ブランドです。
その価値を守り育てるためには、“正しく使う”ことが何より重要です。
今回の一件は、地域ブランドに関わる多くの団体にとって、
商標の運用体制を見直す好機と言えるかもしれません。
