飲食店や美容サロン、スクールなどを運営していると、
「うちと同じ名前のお店が他県にもあるけれど、商標登録できるの?」
という質問をよく受けます。
結論から言えば──
同じ名前の店が他県にあっても、条件によっては商標登録できます。
ただし、業種・提供サービス・商標の使用実態などによっては、
商標登録が難しいケースもあります。
この記事では、地域が異なる場合の商標登録の考え方と、
トラブルを避けるための実務上のポイントを解説します。
目次
結論:他県に同名店があっても登録できるケースはある
商標は、「全国単位で効力が及ぶ権利」です。
つまり、特許庁に登録されると、全国どこであっても同一・類似の商標を
同一・類似の商品・サービスについて使うことを他人に禁止できます。
そのため、すでに日本で登録されている商標と同じ名前は登録できません。
しかし、以下のようなケースでは、同名の店が他県にあっても登録可能です。
登録できる可能性がある主なケース
① 他県の同名店が商標登録していない場合
商標は「使っている人」ではなく「登録した人」が権利者になります。
そのため、他県に同名店があっても、
相手が商標登録していなければ、あなたが先に出願して登録できる可能性があります。
商標は「早い者勝ち」の制度です。
たとえ相手が長く使っていても、登録していなければ基本的に法的保護は受けられません。
ただし、相手の店がすでに有名で、全国的に広く認知されている場合には、
「他人の著名商標にただ乗りしている」と判断されて審査で拒絶されることがあります。
(商標法第4条第1項第15号)
② 同じ名前でも業種やサービス内容が異なる場合
商標権の効力は、登録された「指定商品・役務の範囲」に限定されます。
したがって、同じ名前でも指定商品・役務が異なれば登録できる可能性があります。
| 店名 | 相手の業種 (商標登録されている商品・役務) | 自分の業種 | 登録できる可能性 |
|---|---|---|---|
| Soleil | カフェ(43類) | 美容サロン(44類) | ○(業種が非類似) |
| Blossom | 花屋(35類) | 英会話教室(41類) | ○(非類似サービス) |
| Terra | レストラン(43類) | レストラン(43類) | ×(同一役務) |
商標の類似性は、「名前」だけでなく「指定商品・役務」で判断されます。
同名でも、指定商品・役務の内容が異なれば併存登録できるケースがあります。
なお、実際の業種が異なっていても、商品・役務を広めに指定している場合には、類似範囲に含まれて登録できないケースもあります。
③ 同名でもデザインや表記が異なる場合
同じ読み方でも、表記やロゴ等が異なれば、
「非類似」として登録されることもあります。
例:
- 「
」(登録第5949775号)と「
」(登録第6752429号) - 「
」(登録第3058104号)と「
」(登録第4440593号) - 「ひまわり歯科クリニック」(登録第5478938号)と「
」(登録第5794083号)
商標審査では、称呼・外観・観念の三要素を総合的に比較して類似を判断します。
どれかが異なれば、別商標として登録が認められることもあります。
登録が難しくなる主なケース
① 同じ業種で全国展開・登録済みの商標がある場合
他県の店舗がすでに商標登録をしている場合、
同一・類似の名称で同業種(同一・類似の指定商品・役務)の登録はできません。
また、登録済み商標と同名でサービスを提供すると、
商標権侵害とみなされるおそれがあります。
② 有名ブランドと混同を招く場合
相手が商標登録をしていなくても、
すでに著名なブランド名と類似する場合は、
「混同のおそれあり」として拒絶されます(商標法第4条第1項第15号)。
例:
「STARBUX」「ムジカフェ」など、有名ブランドを連想させる名称。
実務での安全な判断ステップ
- 商標検索で既存登録を確認
→ 特許庁の「J-PlatPat」で同名・類似の商標を検索。 - 指定商品・役務(区分)を確認
→ 同名でも業種が違えば登録可能なことがある。 - 識別力・混同のおそれをチェック
→ 有名ブランドや他店と誤認されないか確認。 - 早めに出願して先願を確保
→ 他店が同名で出願する前に、あなたが先に出すのが安全。
よくある誤解と正しい理解
| 誤解 | 正しい理解 |
|---|---|
| 「他県なら同じ名前でも問題ない」 | 商標権は全国に効力を持つため、地域は関係ない。 |
| 「先に使っているから自分のもの」 | 商標は“早い者勝ち”。登録した人が権利者。 |
| 「業種が違えば必ず登録できる」 | 非類似なら可能だが、混同を招く場合は拒絶されることも。 |
| 「デザインを変えれば安心」 | 外観が異なっても、称呼や意味が同じだと類似と判断される場合あり。 |
専門家に相談するメリット
弁理士に相談すれば、
- 類似商標の有無・登録可否の調査
- 他県の同名店との関係整理
- 適切な指定商品・役務(区分)の選定
- 先願対策・出願スケジュール設計
- 登録後のブランド保護・警告対応
などを一括でサポートしてもらえます。
まとめ
同じ名前の店が他県にあっても、
以下の条件を満たせば商標登録できる可能性があります。
- 相手が商標登録していない
- 業種やサービス内容が異なる
- 表記・デザインに独自性がある
ただし、商標権は全国で効力を持つため、「地域が違うから大丈夫」とは限りません。
安心してブランドを育てるためにも、早めの商標調査と出願が重要です。
あなたの店名を「地域の名前」から「全国で通用するブランド」へ。
その第一歩が、商標登録です。
