講座やスクールの運営を続けていると、
「より今の内容に合う講座名にしたい」「リブランディングのために名前を変えたい」
と考えることがあります。
しかし、すでにその講座名を商標登録している場合、
安易に名称を変更すると「せっかくの商標権が無駄になる」可能性があります。
この記事では、商標登録後に講座名を変更する際の影響や注意点、
そして変更を検討する際に取るべき実務対応を詳しく解説します。
結論:登録済み商標は自動で変更されない。新しい名前で再出願が必要
商標登録した後に講座名を変えても、既存の登録内容は自動で書き換わることはありません。
商標は「登録時の名称」に対して権利が与えられているため、
講座名を変更した場合は、新しい名前で商標を再出願する必要があります。
たとえば、
- 登録商標:「〇〇メソッド」
- 新しい講座名:「△△メソッド」
とした場合、旧商標「〇〇メソッド」には引き続き権利が残りますが、
新名称「△△メソッド」は別の商標として扱われるため、新たに出願しなければ保護されません。
登録済み商標と異なる名称を使うとどうなるか
1. 登録商標を使用しないと「不使用取消審判」で権利を失うことがある
商標登録をしても、継続的に使用しないと権利が取り消される可能性があります。
商標法では「登録から3年以上使われていない商標」は、第三者から「不使用取消審判」を請求されると取り消される可能性があります。
つまり、講座名を変えてしまい旧商標を一切使わなくなると、
その商標は3年後には権利が消滅するリスクがあります。
※参考記事「商標を使っていないと危ない?不使用取消審判の仕組みと防衛策」
2. 新名称を使っても旧商標の権利は及ばない
商標の効力は「登録した文字列・図形など」に限定されるため、
名称を変えると旧商標の効力は新しい名前には及びません。
たとえば、
- 登録:「ハッピーライフクラブ」
- 実際の使用:「ハッピーライフセミナー」
の場合、両者の印象は似ていますが、商標審査上は別の商標と扱われる可能性があります。
(現に、商標「ハッピーライフクラブ/HAPPY LIFE CLUB」(登録第5288767号)と商標「ハッピーライフセミナー」(登録第5618062号)は、それぞれ別の権利者によって併存登録されています)
この状態で第三者が「ハッピーライフセミナー」を商標登録すると、
自分の新講座名が他人の権利と競合するというトラブルも起こり得ます。
3. ブランド認知が分散してしまう
講座名を頻繁に変更すると、受講生や検索ユーザーの混乱を招き、
ブランド認知がリセットされてしまうこともあります。
特に商標登録済みの講座名は、積み上げてきたブランドの信用そのものです。
変更する場合は、過去の名称を一定期間「サブネーム」や「旧称」として併記し、
ブランドの連続性を保つことが望まれます。
講座名を変更したいときの実務的な対応ステップ
講座名を変更する際は、以下の手順を意識することで、
既存の権利を維持しつつ、新ブランドへの移行をスムーズに行えます。
ステップ1:新しい講座名の商標調査を行う
変更前に、新名称が他人の商標権を侵害しないかを必ず確認します。
J-PlatPat(特許庁データベース)で検索したり、弁理士に類似調査を依頼するのが安全です。
ステップ2:新しい名称で商標出願する
旧商標とは別に、新講座名で出願します。
出願から登録までには通常6〜9か月ほどかかるため、
リブランディングのスケジュールに余裕をもって計画することが大切です。
ステップ3:旧商標も一定期間併用する
新講座名への完全移行まで、旧名称を「(旧〇〇メソッド)」などとして一定期間併用することで、
受講生や既存顧客への混乱を防ぎ、ブランド継続性を示すことができます。
ステップ4:旧商標の権利維持を検討する
旧講座名の認知度が高く、今後も検索や紹介で使われる見込みがある場合は、
旧商標も継続的に使用(そして商標登録の更新)しておくと安心です。
一方、完全に使用をやめる場合は、更新費用を節約するためにあえて放棄(登録更新しない)という判断も可能です。
よくある誤解
「登録済み商標の名前を途中で変更できる」→誤り
商標は登録時の名称に対してのみ効力を持ちます。途中変更はできません。
「少し名前を変えた程度なら同じ扱いになる」→誤り
たとえ一部の単語を変えただけでも、商標上は別物として扱われることが多いです。
「〇〇講座」と「〇〇養成講座」なども別商標と見なされた事例があります。
(例:「魔法使い講座」(登録第6476693号)、「魔法使い養成講座」(登録第6703536号))
「古い商標は自動的に更新される」→誤り
商標登録は10年ごとの更新制です。自動では延長されません。更新時に使っていないと放棄する選択も必要です。
専門家ができるサポート
弁理士に相談すれば、
- 新講座名の商標調査(類否・登録可能性の確認)
- 旧商標との併用・移行プランの設計
- 出願・登録手続きの代行
- 旧商標の権利整理・放棄手続き
など、ブランド変更に伴う知的財産の整理をトータルでサポートしてもらえます。
まとめ
商標登録後に講座名を変更しても、登録済みの商標が自動的に変わることはありません。
新しい講座名は別の商標として再出願が必要です。
講座名変更のポイントは次のとおりです。
- 商標は登録時の名称にのみ効力がある
- 名称を変更したら、新商標の出願が必要
- 旧商標を使わないと、3年で取消リスクがある
- ブランドの連続性を保つため、旧称を併用するのが理想
- 専門家に相談して、リブランディングと権利保全を両立させる
講座名は、講師ビジネスの「顔」であり「資産」です。
変更を検討する際は、法的リスクとブランド価値の両面から慎重に判断しましょう。

