商標法第29条は、商標権者が他人の先行する権利を侵害しないよう、特定のケースで使用制限を設ける条文です。
1. 抵触する先行権利とは?
商標登録出願日前に成立している以下の権利が、先行する権利として対象となります:
- 著作権(例:他人のイラストやキャラクターを、図形商標として使用)
- 著作隣接権(例:他人の歌手の音源(実演)を、音商標として使用)
- 特許権・実用新案権・意匠権(例:商品自体の形状についての特許・実用新案・意匠権がある場合に、立体商標として使用)
2. 使用制限の内容
登録商標を、先行する権利と「同一又は類似の使用態様で使用する」場合には、たとえ商標権が成立していても使用できません(使用すると権利侵害になります)。これは当該権利と抵触しない範囲の使用に限られるという性質を持ちます。
- 商標そのものの取消対象とはなりません:ただし使用が制限され、禁止権の行使はその限りで制限されます
- 商標法25条で認められる効力も、抵触部分には適用されません
3. 典型的な具体例
著作権との抵触
他人が著作権を有するキャラクターを、許諾なく商標として出願・登録した場合、たとえ出願後に登録されても、著作権の範囲では使用できず、販売や広告に用いることは認められません。
意匠権との調整
意匠出願された後に出願された商標が、当該意匠権の範囲と重複するデザインを含む場合、その意匠権者の実施許諾がない限り、商標の使用は制限されます。
4. 実務上の注意点
- 先行権利の調査が不可欠:出願段階で他人の著作権・意匠権などとの抵触リスクを調査し、必要があれば権利者の許諾を得ておくことが実務上重要です。
- 商標登録後でも使用できないケースがある:たとえ登録されても使用制限に違反すると、相手方の権利侵害が問われる可能性があります。
- 先使用権の主張補完策:もし、先行権利者の出願前から使用していた証拠がある場合、先使用権制度で使用継続が認められる場合もあります。
まとめ
- 商標法第29条は、商標権が正式に成立していても、先行する著作権や意匠権等との使用上の抵触を防止するための条項です。
- 登録商標でも先行権利に抵触する場合は使用できず、禁止権もその範囲で制限されます。
- 出願前の権利調査と確認、使用設計が、商標戦略において不可欠です。弁理士と連携して早期対応を検討することをおすすめします。