「防護標章登録」とは、既に登録された著名商標について、非類似の商品・役務でも出所混同の恐れがある場合に、登録商標と同一の標章を追加で保護する制度です。
目次
防護標章登録とは?
第三者を商標権侵害で訴える場合、登録商標において指定した商品・役務と同一又は類似の範囲までしか排除することができません。
しかし、著名な商標においては、商品・役務と同一又は類似の範囲を超えた非類似の部分の使用を認めてしまうと、需要者が出所を混同してしまう恐れがあります。これでは、著名商標に蓄積された業務上の信用を保護することが不十分になってしまいます。
そこで、一定の場合に防護標章登録を認め、非類似の商品・役務の部分についての使用を排除できるようにしました。
- 絶対的な独占権を付与するものではなく、自社が指定商品・役務を使用できる権利ではありません。
- 防護標章登録があっても、実際の使用は不要であり、不使用取消の対象にもなりません。
登録要件(商標法第64条)
以下のすべてを満たす必要があります:
- 登録商標と同一の標章であること(縮尺違いは可)
※「標章」とは、マーク(文字・図形・記号等)のこと。自己の使用を前提としていないので、「商標」とはしていない(商品・役務への業務上の使用を前提とするマークは「商標(トレードマーク)」という) - 当該登録商標が自己の出所表示として全国的に著名であること
- 対象となる商品・役務が、元の指定商品・役務とは非類似であること
- 他者が同一標章を非類似商品・役務で使用すると出所混同のおそれがあること
権利と商標権との関係(商標法66条)
- 防護標章に基づく権利は、元の商標権と伴って移転されます。たとえば、商標権を譲渡すると、防護標章も譲渡先に付随して移転します。
- 商標権を分割した場合、防護標章に付随すべき商標権がどれになるのか不明となるため、防護標章の権利は消滅します。
- 商標権自体が消滅(満了・取消・無効など)すると、防護標章登録に基づく権利も消滅します
防護標章制度のメリット・制限
メリット
- 登録された防護標章と同一の標章を、対象の商品・役務について、第三者が商標出願すると登録が拒絶され、使用すれば侵害とみなされます(第37条のような禁止権(混同防止効果)を享受可能)。
- 通常の商標権では非類似分野まで権利範囲が及びませんが、防護標章登録によって、非類似分野での出所混同リスクも抑制でき、一定の模倣防止効果を確保できる場合があります。
制限
- 指定商品・役務に限られており、類似範囲には及びません。
- 防護標章登録は使用権を付与するものではありません。実際に使用できるわけではなく、排他的使用権やライセンスも認められません。
- 更新時にも著名性の維持が必要です。10年ごとの更新出願時に再審査があります。
実務的な活用メリットと注意点
メリット
- 非類似分野の模倣・便乗商標に対する先制防衛策として有効
- 不使用取消リスクがないため、実際に使っていない分野でも登録可能
- 著名性の証明となり、裁判や警告時に有利
注意点
- 出願・更新時に著名性を示す資料(売上・広告実績・調査資料等)が必要
- 指定商品・役務は非類似範囲に限られる
- 標章は完全同一である必要がある(類似や変形は対象外)
実際に登録されている防護標章登録例
※防護標章登録例
「G-SHOCK」 (登録第2424099/01他41件) | 「TOYOTA」 (登録第1112194/20他3件) | 「WALMART」 (登録第5272205/01他1件) |
![]() (登録第6472729/01) | ![]() (登録第4445299-1/01他1件) | ![]() (登録第4094274/01) |
![]() ※カップヌードルの包装に付された図形の位置商標 (登録第6034112/01) | ![]() ※三菱鉛筆の色彩の組合せ のみからなる商標 (登録第6078471/01) | ![]() ※佐川急便のユニフォームの立体商標 (登録第5759332/01) |
まとめ
- 防護標章登録は、著名な登録商標を非類似商品・役務にも保護を拡張する制度です(商標法64条)。
- 通常の商標権と異なり、使用権がなく、譲渡も不可ですが、不使用取消の対象外である点がメリットです。
- ブランド保護戦略の一環として、模倣リスクのある非類似分野への防御を目的に活用することが可能です。
- 出願対象・証拠設計・標章管理を的確に進めるため、弁理士との事前相談が不可欠です。