劇場版『鬼滅の刃 無限城編 第一章 猗窩座再来』が公開から4日間で興行収入73億円を突破し、再び「鬼滅の刃」ブームが巻き起こっています。アニメ・漫画の枠を超えた巨大コンテンツとなった「鬼滅の刃」は、商標登録という観点でも非常に注目すべき事例です。
この記事では、同作品が展開している商標戦略について、登録された商標の一覧、拒絶事例、成功と失敗の分かれ目を徹底解説します。
目次
「鬼滅の刃」における商標戦略の全体像
人気コンテンツである「鬼滅の刃」では、ブランドの模倣や悪用を防ぐため、登場キャラクター名やロゴ、さらには羽織の柄に至るまで商標登録が行われています。これは、ファングッズ・コラボ商品・ゲームなど、多岐にわたるライセンスビジネスを守るための重要な手段です。
商標登録一覧(キャラ名・ロゴ・モチーフまで)
商標 | 備考 | 登録番号 |
---|---|---|
「鬼滅の刃」 | タイトル | 登録第6260437、6428603号 |
![]() | 「鬼滅の刃」ロゴ | 登録第6264744、6318371、6428602号 |
「柱」 | 鬼殺隊の最高位 | 登録第6267705、6323312号 |
「滅」 | 鬼殺隊の隊服に書いてある文字 | 登録第6267706、6323313号 |
「鬼殺隊」「悪鬼滅殺」「無限列車」「キメツ学園」「全集中」 | 鬼滅の刃関連ワード | 登録第6397475~6397479号 |
「炭治郎」「禰豆子」「善逸」「伊之助」「義勇」 | 鬼殺隊員(+炭治郎の妹)の名前 | 登録第6397480~6397484号 |
![]() | 冨岡義勇、胡蝶しのぶ、煉獄杏寿郎の羽織柄 | 登録第6397486~6397488号 |
「DEMON SLAYER」 | 「鬼滅の刃」の英語タイトル | 登録第6399498号 |
「鬼滅」 | 「鬼滅の刃」の略称 | 登録第6408890号 |
![]() | 鬼滅関連ゲームロゴ | 登録第6428249、6428250、6507247、6824227、6825826号 |
![]() | コラボ商品の商標 | 登録第6533061号 |
商標登録の拒絶事例とその理由
一方で、以下の商標は登録が認められていません。
![]() | 竈門炭治郎、竈門禰豆子、我妻善逸の羽織柄(着物)模様 | 商願2020-078058~078060号 |
これらは、連続反復的に図形が配置された装飾的な地模様として認識されるにとどまると判断され、識別力に欠けるとして拒絶されました。識別力は商標登録の核心であり、単なる装飾的デザインは保護対象とならない点に注意が必要です。
登録された冨岡義勇、胡蝶しのぶ、煉獄杏寿郎の羽織柄との違いは、こちらは”非連続の模様“であることから、図形としての識別力が認定されたものと考えられます。
人気アニメ・漫画における商標戦略の教訓
【成功パターン】
- 独自の造語やキャラクター名、物語中での固有名詞は商標登録が認められやすい
- ブランドの認知度が高い場合は、識別力が強化され、登録のハードルが下がる
【失敗パターン】
- 一般的な言葉や模様は、識別力の欠如を理由に拒絶されやすい
- 二次創作との衝突や権利関係の不明瞭さもリスクとなる
人気アニメ作品における商標戦略のポイント
① 商標取得の狙いと対象の設計
- ブランド網羅型登録:「鬼滅の刃」シリーズでは、題号(文字・ロゴ)からキャラクター名、英語名称まで幅広く取得。これにより、「便乗商標」や模倣品展開への予防線を敷いています
- 英語版タイトル登録:「DEMON SLAYER」の国内登録も取得済。「海外展開を視野に入れた商標保護」が特色です
② 連続する地模様パターン(着物柄)の登録は困難
- 模様が連続反復的に配置されたパターンは基本NG:炭治郎の市松柄は、連続反復的に配置した構成からなり、装飾的な地模様として認識されることから、識別力を欠くと判断され、拒絶されました
- 審査対応の難しさ:出願人(代理人)は意見書で「単なる装飾的な地模様ではなく、正方形の枠線で囲まれた図形商標である」と丁寧に主張するも、拒絶査定となりました
③ 周知・著名商標としての保護強化
「鬼滅の刃」は商標登録前から周知・著名商標だった:実は、集英社が最初に「鬼滅の刃」を商標出願する前から、無関係の第三者が「鬼滅の剣」という文字を商標出願していました(商願2020-156895)。しかし、すでに週刊少年ジャンプでの連載で有名だったため、著名な「鬼滅の刃」を連想させるとして審査で拒絶になった過去があります。
したがって、商標登録による保護の前から、その高い知名度ゆえに一定の保護がされていましたが、改めて商標登録を行うことで、周知・著名商標としての保護を強化していったわけですね。
こういった姿勢は、「ブランド守る」姿勢を対外的に示すことにもなり、顧客や取引先への信頼につながります。
まとめと今後の展望
「鬼滅の刃」は、文字・ロゴ・キャラ名・ビジュアルに至るまで、知財戦略を徹底してきました。これは、人気作品が持つブランド価値を守り、収益化を進めるうえで極めて有効です。
今後も、アニメや漫画コンテンツが国際展開する際、商標戦略は重要な武器になります。ブランド保護の設計段階から、商標専門の弁理士と連携し、登録可能性・識別力・権利活用方法を計画的に練ることが、成功の鍵となるでしょう。
※サムネ画像は登録6264744号公報より引用