商標権を事業部門や子会社・ライセンシーごとに分けて持たせたい——。
そんなとき役立つのが 商標法24条「商標権の分割」 です。
出願段階の分割(10条)と異なり、すでに登録された商標権を商品・役務単位で切り離し、新たな商標権として独立させられます。ここでは要件・効果・費用・手順・活用例をまとめました。
1. 商標権分割の概要
項目 | 内容 |
---|---|
根拠条文 | 商標法24条 |
趣旨 | 権利移転やライセンス戦略の柔軟性を高めるため、登録後でも権利範囲を複数に分けられる |
分割できる範囲 | 指定商品・指定役務の一部(区分単位でなく1商品・役務単位でも可) |
効果 | 分割後、それぞれが独立した商標権となり、更新・移転・ライセンスを個別に管理可能 |
申請人 | 商標権者(共有の場合は共有者全員) |
手数料 | 1件30,000円 |
2. 分割が有効な3つのシナリオ
シーン | 分割メリット | 具体例 |
---|---|---|
① 事業譲渡・会社分割 | 譲渡対象の商品・役務だけ新商標権にして譲渡 | 第25類「被服」「帽子」を別法人へ売却 |
② ライセンス収益の最適化 | 区分ごとに専用使用権設定・ロイヤルティ設計が容易 | 第30類「チョコレート」権を海外メーカーへ独占ライセンス |
③ グループ内ガバナンス | 部門・子会社で権利を分けて管理コストを低減 | 親会社は第35類小売を保持、製造子会社へ第3類化粧品を分割移転 |
3. 分割手続フロー
- 分割計画立案
- 分割対象の商品・役務リストを確定
- 分割登録申請書作成
- 商標登録番号、分割後に残る範囲・移す範囲を明記
- 提出手続&手数料納付
- 手数料 30,000円/件
- 特許庁方式審査
- 不備なければ約2〜3週間
- 分割登録
- “原権利”と“分割した権利”の2つ以上の商標権が発生
- 権利移転(任意)/ライセンス設定
- 分割後は個別に移転・専用使用権設定・質権設定が可能
- 更新管理
- 存続期間(元の登録日基準)は両権利とも同一。更新料も権利ごとに納付。
4. 実務チェックリスト
チェック項目 | ポイント |
---|---|
分割対象の特定 | 指定商品・役務のうち、分割部分を明確化 |
商標権を共有している場合の同意 | 共有者のうちの一部が分割移転登録申請を行う場合、他の共有者の同意書が必要 |
更新費用シミュレーション | 分割後は権利数分の更新料が発生(同じ区分内の商品・役務の一部を分割した場合は、重複して更新料がかかるので注意) |
ライセンス・担保権の継承整理 | 既存ライセンス契約・質権の帰属を見直す |
関係者への告知 | 流通・広告・パッケージ表記の権利表示を更新 |
5. よくある質問(FAQ)
Q | A |
---|---|
分割後にまた再分割できますか? | 可能。回数制限なし。ただし、元に戻すことはできない |
分割すると存続期間は延びますか? | 延びません。元の登録日が基準。更新期限も同じ |
まだ登録前(審査中)ですが分割したい… | 10条「出願の分割」で対応↓ https://samuraitz.com/?p=5510 登録後は24条 |
6. 登録異議・審判対応で“争点切り離し”に使うテクニック
商標権を分割できる最大のメリットは「争いが起きた部分だけを切り離す」ことで、
残りの権利を安心して行使・取引に回せる点にあります。
シーン | 分割の狙い | 実務効果 |
---|---|---|
登録異議申立て (商標法43条の2) | 異議が係属した指定商品Aを分割し、 争点外の指定商品Bは原権利として温存 | – Bについては即座に差止・ライセンス等の行使が可能 – Aのみ異議手続に集中 |
無効審判/取消審判 | 無効理由が主張された指定役務Xを分割 | – Xをめぐる審判リスクがビジネス全体に波及しない – 残り区分での M&A・担保設定もスムーズ |
ライセンス・譲渡交渉 | 係争外の権利を“クリーン”な状態で提示 | – 交渉相手に安心感を与え、契約が加速 |
ポイント
- 分割後、争点のない商標権はそのまま行使・譲渡・質権設定が可能。
- 係争部分だけを別権利に閉じ込めることで ビジネスと係争を分離 できる。
まとめ
- 24条分割は登録後の権利移転やライセンスだけでなく、
登録異議・無効審判・取消審判が提起された際の“争点隔離” にも極めて有効。 - 係争リスクを最小化しながら、残りの商品・役務で権利行使や取引を継続できる。
- 計画的な分割で 譲渡交渉・ライセンス契約を円滑化。不確定要素を抱えたままの大型取引もスムーズに進む。
権利の有効性を確実に保ちながらビジネスを止めないため、分割のタイミング・範囲設計は弁理士と早めに練ることが成功の鍵 です。