商標出願を“分割”してリスクを切り分ける!──商標法10条で押さえる手続と実務ポイント

商標出願を“分割”してリスクを切り分ける!──商標法10条で押さえる手続と実務ポイント

商標出願後に一部商品・役務だけ先に登録させたい、あるいは拒絶理由のかかった区分を切り離したい──。
そんなとき便利なのが 商標法10条「出願の分割 です。分割を上手に使えば、登録までのスピードと拒絶対応の柔軟性を同時に手に入れられます。ここでは 要件・期限・費用・手順・活用例 をまとめました。


1. 商標出願の分割とは?

項目内容
根拠条文商標法10条
趣旨出願を商品役務単位で複数出願へ切り分け、審査・登録を個別に進められる
分割可能な時期出願が特許庁または裁判所で“係属中”の間はいつでも分割可
具体的には:
① 審査係属中(査定が確定する前)
② 拒絶査定不服審判係属中
③ 再審(審決確定後の審理)係属中
④ 拒絶審決取消訴訟係属中(※訴訟で確定前)
※要件:親出願の手数料を完納していること
提出書類「商標法第10条第1項の規定による商標登録出願」 として新たな商標登録出願をする
特許庁手数料分割後の新出願ごとに12,000円+(追加2区分目以降8,600円/区分)

2. 分割が有効に働く3つのシーン

シーン効果具体例
① 拒絶理由が部分的先に登録可能な区分だけを早期登録第25類「被服」と第35類「被服の小売」を合わせて出願→第25類に拒絶理由→第25類だけを分割し、親出願(第35類)はそのまま登録へ進める
② 早期審査・審判を使い分けたい分割した一方で早期審査/もう一方は通常審査第9類「ソフトウェア」だけ早期審査、第41類「教育」を分割して通常審査
③ 権利移転・ライセンス戦略区分ごとに権利を分けて投資家や子会社へ移転国内製造部門へ第7類機械の権利を譲渡、海外販売部門へ第35類小売を残す

3. 分割手続フロー

  1. 分割方針決定
    • 分割する商品・役務を確定
  2. 分割出願の願書作成
    • 親出願番号・分割する商品・役務を記載
    • 親出願の出願手数料が納付されていることが大前提(未納の場合は分割出願と認められない
  3. 書類提出
    • 子出願手数料納付(12,000円(+8,600円×追加区分数))
  4. 親出願の補正
    • 親出願の方は、分割した商品・役務を削除する
  5. 特許庁方式審査
    • 方式 OK → 新出願番号付与(親出願日に遡及
  6. 個別審査へ
    • 拒絶理由通知・登録査定は分割後にそれぞれ届く

注意:分割後の新出願は、出願日も優先権も親出願と同一です。


4. 分割で失敗しない5つのチェックポイント

  1. 期限厳守
    • 登録査定や拒絶査定確定後は分割不可
  2. 分割範囲は“削除・移動”のみ
    • 追加・拡大は分割出願の要件を満たさない=親出願の日に遡及しない別出願扱い
  3. 出願人情報を統一
    • 分割後は同一出願人名義でスタート。移転は分割出願後に行う
  4. 手数料は新出願分だけ加算
    • 親出願側の手数料は追加不要
  5. 類似群コードの整理
    • 商品・役務削除により拒絶理由が消えるか再チェック

5. よくある質問(FAQ)

QA
分割後にまた分割できますか?可能。要件・期限内なら再分割も認められる
分割したら審査は早くなる?拒絶理由のない部分だけが登録査定へ進むため結果的に早期登録が期待できる
手数料はいつ払う?分割出願時に一括納付

まとめ

  • 商標法10条の分割は“商品・役務の切り離し”で登録スピードとリスク管理を両立
  • 分割可能な時期に分割出願
  • 手数料は12,000円(+追加区分ごとに8,600円)、新出願は親出願日を承継

分割がベストか補正で粘るかはケースバイケース。商標専門弁理士と相談し、費用対効果を見極めて登録への最短ルートを設計しましょう。