日本の商標出願件数や審査状況がどう推移しているのかを把握することは、ブランド戦略を練るうえで欠かせません。
ここでは特許庁の「特許行政年次報告書2025年版」と「JPO STATUS REPORT 2025」の統計を中心に、2024年実績と最近の傾向を整理します。
※「特許行政年次報告書2025年版」
https://www.jpo.go.jp/resources/report/nenji/2025/index.html
※「JPO STATUS REPORT 2025」
https://www.jpo.go.jp/e/resources/report/statusreport/2025/index.html
目次
1. 商標出願件数の推移(2015〜2024年)

- 2024年の商標出願件数:158,792 件(前年 164,061 件から 約3%減)
- 2022年~2024年は3年連続で減少傾向。ただし減少幅は -8% → -4% → -3% と緩和傾向にある。
出願件数減少の要因は…?
コロナ禍による一時的な増加の反動、中小企業の出願減少、主要国からの直接出願の減少などが考えられます。まず、コロナ禍で一時的に出願件数が増えたのは、新たなビジネスモデルの登場に伴い、商標出願の需要が増えたことが大きいです。それが平時の水準に落ち着きつつあるということですね。
また、中小企業の出願減少は、エネルギー価格や原材料費の高騰などの影響が大きく、新規事業やそれに伴う商標出願を控える傾向にあったのではないかと考えられます。
さらに、米国や欧州からの商標出願が減少しているのも見逃せません。
2. 国内企業のトップ出願人(登録件数ベース)
順位 | 企業名 | 2024年登録件数 | 2023年比 |
---|---|---|---|
1 | 花王㈱ | 447件 | +115 |
2 | ㈱コーセー | 426件 | +35 |
3 | ㈱資生堂 | 370件 | +37 |
4 | 小林製薬㈱ | 252件 | -74 |
5 | パナソニックホールディングス㈱ | 229件 | +14 |
6 | サントリーホールディングス㈱ | 186件 | -2 |
7 | ㈱ノエビア | 146件 | +6 |
8 | 日本メナード化粧品㈱ | 145件 | +61 |
9 | ロート製薬㈱ | 140件 | +27 |
10 | コスメカンパニー㈱ | 136件 | +35 |
傾向:日用品・化粧品の出願が活発。リブランディングやサブブランド強化が要因。ブランドイメージや消費者の購買意欲に直結する分野であり、他社との差別化や模倣品対策のために商標登録が重要になるためだと考えられる。また、商品の効能や特徴を伝えるキャッチコピーなども商標登録の対象となる場合があり、競争が激しい分野であることも理由の一つ。
3. 海外企業の商標登録動向(JPOでの登録件数)
順位 | 企業名 | 国 / 地域 | 2024年登録件数(カッコ内は2023年比) |
---|---|---|---|
1 | Pfizer Inc.(ファイザー・インク) | 米国 | 119件(+33) |
2 | LG H&H Co., Ltd.(株式會社エルジ生活健康) | 韓国 | 104件(+25) |
3 | Philip Morris Products S.A.(フィリップ モリス プロダクツ エス アー) | スイス | 79件(+35) |
4 | SM Entertainment Co., Ltd.(株式会社エスエム・エンタテインメント) | 韓国 | 67件(+50) |
5 | Johnson & Johnson(ジョンソン アンド ジョンソン) | 米国 | 50件(+23) |
傾向:製薬・日用品・化粧品ブランドが引き続き上位。エンタメ企業も急増中。日本市場でのライセンス展開や模倣品対策が主目的。2022年法改正により、海外からの模倣品流入に対する規制の強化を行ったことから、特に中国・韓国からの出願が増加傾向。
4. 日米欧中韓の商標出願比較(2023年)
庁 | 出願件数 | 前年比 |
---|---|---|
CNIPA(中国) | 718.8万件(区分ベース) | -4.4% |
USPTO(米) | 54.2万件 | -0.6% |
KIPO(韓) | 25.3万件 | -1.2% |
EUIPO(EU) | 17.4万件 | +1.2% |
JPO(日本) | 16.4万件 | -3.5% |
解説:
- 中国は減少傾向も、依然として世界最大市場
- 米・韓・欧はほぼ横ばい
- 日本は減少基調
5. 審査スピードと審査方式
指標 | 2024実績(カッコ内は2023年) |
---|---|
一次審査(FA)までの平均期間 | 6.8ヶ月(6.1ヶ月) |
権利化までの平均期間 | 7.8ヶ月(7.3ヶ月) |
AI補助ツールや審査体制強化で “1件1年以内権利化” を継続達成も、ファストトラック審査休止により長期化傾向
実務で押さえるべき 3 つのトレンド(国内出願編・2024 年実績)
- 早期審査の利用増 ― 通常審査との二極化
- 2024年の早期審査請求件数は8,138件(前年比+8.0%)。
- 早期審査案件の平均FA(一次審査)期間は 約2ヶ月と、通常出願(6.8 ヶ月)より5ヶ月近く短縮。
- ※ファストトラック審査は2023年3月末で運用休止。今後も“早期審査一本化”の流れ。
- 取消審判は微増。実使用を裏付ける運用は必須
- 2024 年の取消審判(不使用を含む)請求件数は 1,088 件(前年比-5.7%)
- 依然として「指定し過ぎ」の登録は取消リスクが高いため、出願段階で実際に使用する商品・役務へ適切に限定する動きが強まっている。
- 非伝統的商標の登録が減少傾向
- 2024年の新しいタイプの商標登録件数は51件(前年比-18%)。
- JPO の審査実務が定着し「識別力要件を満たす案件のみ登録」という状況。
- 色彩のみからなる商標など審査ハードルが高いものは、先に登録事例を研究し、使用態様を整えてから出願するのが得策。
まとめ
- 2024年の日本商標出願は158,792 件、3年連続で微減傾向。
- 国内トップは花王㈱、国外トップは Pfizer Inc.が最多登録。
最新統計が示す出願・審査の動向を踏まえ、いま一度「指定範囲の適正化」と「審査スケジュールの把握」を徹底し、タイムリーかつ確実な国内商標権の取得・維持を図りましょう。