越境ECや海外市場への進出の増加により、国内ブランドを早期に多国で保護するニーズが高まっています。そこで注目されるのが商標のマドリッド協定議定書(マドプロ)国際出願。日本の出願・登録を“基礎”にして複数国を一括指定して出願できる便利な制度です。ここでは初心者でも流れをイメージできるよう、商標専門弁理士がステップごとに解説します。
目次
1. マドプロとは? ― 仕組みと対象国
項目 | 内容 |
---|---|
制度名 | マドリッド協定議定書(Madrid Protocol) |
管轄 | WIPO(世界知的所有権機関) |
締約国数 | 115ヶ国(2025年5月現在) |
最大の利点 | 1回の出願で複数国を一括指定、更新も一括で管理 |
注意点 | 基礎出願/登録に依存(セントラルアタック) |
2. 基礎出願・基礎登録の準備
- 日本で出願(出願番号取得)または登録済み(登録番号取得)
- 商標見本と指定商品・役務が国際出願と同一範囲であること
- 区分・指定商品役務をWIPO国際分類(ニース分類)に合わせて整理
Tips:基礎出願に拒絶理由がありそうなときは、先に補正等でリスクを下げておくと安全。
3. 国際出願書類の作り方と費用
手続 | 費用(目安) |
---|---|
JPO手数料 | 9,000円(Madrid e-Filingの場合:54CHF) |
(a) WIPO基本手数料 | 653CHF(白黒) / 903CHF(カラー) |
(b) 付加手数料(一指定国ごと) | 100CHF/国 |
(c) 追加手数料(分類数3を超えた場合) | 100CHF/区分数3を超えた1区分ごと |
(d) 個別手数料(b,cの代わりに受領を宣言する国) | 100〜1,000 CHF/国・区分数により変動 |
弁理士報酬 | 20〜40万円(書類作成・電子出願) |
書類主要項目
- 出願人情報(英文表記)
- 商標(標章)
- 国際分類、指定商品役務(英文表記)
- 指定国リスト
- 優先権主張(必要に応じて)
4. WIPO(国際事務局)の形式審査
- 到達から約1ヶ月で書誌事項チェック
- 不備がなければ国際登録日が確定→「国際標章に関するWIPO公報」に掲載
- ここで付与された国際登録番号(IR No.)が全指定国共通の基礎番号に
5. 各国(指定官庁)の実体審査フロー
期間 | 12ヶ月制度国 | 18ヶ月制度国 |
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0ヶ月 | 国際登録日 → 審査開始 | 同左 |
〜12ヶ月 | 暫定的拒絶通報 or 保護認容声明(登録へ) | ― |
〜18ヶ月 | ― | 暫定的拒絶通報 or 保護認容声明(登録へ) |
18ヶ月以降 | 多くの国で登録完了通知 | 異議申立の場合あり |
注意:暫定的拒絶通報受領後の応答は現地代理人必須。期限は国によって1〜4ヶ月。
6. セントラルアタックによる不利益を避けるポイント
- 日本にした基礎出願/登録が国際登録日から5年以内に拒絶・取消・無効等になると 国際登録も連鎖取消→このままだと、指定国での権利保護ができなくなる
- 対策
- 日本側で拒絶理由を早期解消
- できれば日本の出願が登録されてから、基礎登録として国際出願(出願が拒絶される確率より、登録が取消・無効になる確率の方が低いから)
- セントラルアタックで国際登録が取り消されてしまったら、基礎の影響を受けない個別出願へ切替(再出願)
7. 各国(指定官庁)で暫定的拒絶通報が通知された場合の対処法
まずは、対象の国で現地代理人(弁理士や弁護士)を選任する必要があります。
その上で、選任した代理人を通じて暫定的拒絶通報に対処してもらいます。
対処法例 | 概要 |
---|---|
商品・役務の減縮 | 指定商品・役務を削除・限定して拒絶理由を解消 |
意見書 | 審査官の判断に反論 |
審判・異議申立等 | 審判手続を行い、拒絶の原因となる他者の商標登録を取消・無効等する |
8. 登録後の維持管理と更新
- 更新:10年ごと。オンラインはeMadrid、オフラインはMM11フォームで、WIPO国際事務局へ一括納付
- 名義変更・住所変更:オンラインはeMadrid、オフラインはMM5フォームで一括
- 使用宣誓:米国など一部国はローカル要件(5〜6年目の使用証拠提出)に注意(米国ならMM18フォーム)
9. よくある質問(FAQ)
Q | A |
---|---|
基礎出願と同日に国際出願できる? | 可能。翌日出願でも優先権主張(6ヶ月)で同効果。 |
カラーにするメリットは? | 色彩が識別力要素なら必須。ただしWIPO手数料が高くなる。 |
指定国を後から追加できる? | 事後指定で可能。手数料は国ごとに追加。 |
まとめ
- マドプロは最大115ヶ国を一括管理できるコスパ抜群の制度。
- デメリットは セントラルアタックと拒絶国ごと個別対応。
- 出願前に基礎出願のリスクを下げ、拒絶時は減縮等で柔軟に対処しよう。
不明点やコストシミュレーションは、国際出願経験豊富な商標専門弁理士へぜひご相談ください!