使われていない商標を取り消す!不使用取消審判の手順を弁理士が解説

使われていない商標を取り消す!不使用取消審判の手順を弁理士が解説

1. 不使用取消審判とは?

  • 目的:登録から3年以上まったく使われていない商標を取り消し、市場を健全化する(商標法50条)。
  • ポイント
  1. 誰でも」請求できる(利害関係の有無は問われません)。
  2. 審判で商標権者が“使用事実”を証明できなければ登録は取り消し。
  3. 取り消しが確定すると、商標権は審判請求登録日に遡って消滅します。

2. 請求できる条件と時期

条件内容
請求人資格個人・法人を問わず誰でも請求可
対象商標登録後、3年以上継続して日本国内で商標的使用がないもの
請求時期登録から3年経過後ならいつでも請求可能(除斥期間なし。ただし無効審決確定後は不可)

商標的使用とは?
商品・パッケージ・HP・広告などで 「自他商品・役務の識別標識」として表示していること。
商品等への説明的目的・装飾的目的としか見えない表示や、ノベルティ商品への使用では商標への使用と認められません。


3. 手続の流れ(平均7〜8か月)

STEP請求人の作業期間(目安)
① 調査J-PlatPatで商標情報確認。市場やECサイト等で使用実態がないか調査1〜4週間
② 請求書提出「不使用取消審判請求書」を電子又は紙で提出。
印紙代 15,000 円 + 40,000 円×区分数(紙の場合は特許印紙を貼付(収入印紙ではない))
③ 権利者の使用立証特許庁が副本送付 → 権利者は40 日以内に「答弁書+使用証拠」を提出。2か月
④ 反論(必要に応じ)使われていない疑義が残る場合、請求人が弁駁書で反論・証拠。1〜2か月
⑤ 審決法律上は口頭審理が原則だが、実際には書面審理で行われることが多い → 取消 or 維持 を決定。
不服は知財高裁へ訴訟可(審決取消訴訟)。
6〜7か月

4. 実務で準備しておきたい“調査メモ”

  • 権利者から “使用証拠” が提出された場合に備え、請求人側も市場調査結果や類似事例を簡潔にまとめておくと反論がスムーズに行えます。
  • 証拠提出義務はありませんが、
    ・使用商標と登録商標の“同一性に疑義がある”場合に主張できる
     ・取消審判中に権利者が提出した証拠が“商標的使用か疑わしい”場合に指摘できる
     ・無効審判や侵害訴訟に発展した際の基礎資料になる
    というメリットがあります。

5. 登録商標と「社会通念上同一」とみなされる使用とは?

不使用取消審判では、権利者が出してくる“使用証拠”が
《登録商標と社会通念上同一か》が最大の争点になります。
請求人側は以下の観点で「同一とは言えない」と反論できるかをチェックしましょう。

判断ポイント概要同一と認められやすい例同一と認められにくい例
① 文字種の変更つづり・読み・意味が実質同じか“インプレス” ↔ “Impress”
(カタカナと英文字)
<取消2022-300655
“ECOPAC” ↔ “エコパック”
(前者は特定の観念が生じないのに対し、後者は経済的・環境にやさしい包装容器の観念が生じる)
<取消2009-300454
② デザイン・書体装飾やフォントを変えても実質的に同じか“UZU” ↔
(色彩や書体のみ変更)
<取消2024-300360
※画像は同号審決公報より引用
“スポ魂” ↔

(デザイン化されて外観上明らかに異なる態様)
<取消2023-300275
※画像は同号審決公報より引用
③ 図形マーク形状変更が軽微か、図形の主眼が同じか
(色彩を変更しただけ)
<取消2024-300151
※画像は同号審決公報より引用

(特定の文字の有無などにより、主たる印象が異なる)
<取消2023-300458
※画像は同号審決公報より引用
④ 一部削除・追加商標の要部(識別力のある部分)が維持されているか“BABCOCK & BROWN” ↔ “BABCOCK & BROWN SECURITIES”
(付加語が識別力弱、識別力ある部分が共通)
<取消2022-300858
“知日” ↔ “知日智慧”
(付加語と一連一体化して、完全に別の造語)
<取消2024-300174
⑤ 指定商品・役務との関係指定商品・役務に実際に使われているか指定商品「被服」に登録 → 被服に使用
<取消2023-300086
指定商品「デジタルカメラ、インクジェットプリンター」に登録
→「デジタルカメラやインクジェットプリンターの機能の名称」として使用
(自他商品を識別するものではない)
<取消2023-300550

請求人のチェックリスト

  • 登録商標の主要部分が省略・変更されていないか?
  • 付加要素が識別力の弱い語か?
  • 図形の変更が消費者の印象を変えるほど大きいか?
  • 実使用の商品・サービスが登録の指定と一致しているか?
  • 日本で使用されているか?

もし権利者が提出した証拠が上記基準を満たさない場合、
社会通念上同一ではなく、使用立証として不十分等と弁駁書で指摘すると取消の可能性が高まります。

6. 費用感と弁理士に依頼するメリット

費用項目目安(税抜)
特許庁費用15,000 円 + 40,000 円 × 区分数
弁理士報酬10〜50 万円(調査・書面作成・期限管理込み)

弁理士を活用すると…

  1. 書類の記載ミス防止:ミスや失敗の防止
  2. 期限管理:不使用期間の確認、弁駁書提出期日の厳守
  3. 弁駁書による効果的な反論:特に、登録商標との社会通念上同一性や、指定商品・役務の同一性の適切な判断

7. まとめとチェックリスト

  • 不使用取消審判は“3年不使用”が鍵。監視体制を整え、放置商標を見逃さない。
  • 請求は誰でも可能だが、相手方が使用を証明すると取り消せない
  • 専門家と組んで 調査 → 請求書 → 審理対応 まで抜かりなく。

✔ 請求前チェック

  • 対象商標は3年以上使われていないか?
  • 使用商標と登録商標の社会通念上の同一性はあるか?
  • 使用商品・役務は指定商品・役務か?
  • 弁理士に手続・費用を相談済みか?

眠った商標を整理し、ビジネスの幅を広げるために不使用取消審判を賢く活用しましょう!