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区分が違えば自由に使っていい?その考え、危険かもしれません
「この商標、他の会社も使ってるけど、業種が違うから問題ないでしょ?」
商標制度には「区分」という分類があり、たしかに同じ名称でも異なる分野で登録されているケースはあります。
しかし、「区分が違えば侵害にならない」というのは、必ずしも正しくありません。
この記事では、商標の「区分」と「侵害」の関係について、登録と使用を分けて、商標専門弁理士がわかりやすく解説します。
商標の「区分」とは?基本を押さえよう
商標出願では、対象となる商品やサービスを「指定商品・指定役務」として、国際分類(ニース分類)に基づく全45区分に分類します。
- 例:第25類=衣類等、第9類=ソフトウェア等、第35類=広告・小売業務等
同じ名称でも、異なる区分で商標登録されている事例は多数存在します。
区分が違えば、必ず登録や使用が許されるのか?
✅ 登録の可否(出願段階)
他人の登録商標と同一又は類似の商標について、異なる区分であっても、指定商品・役務に付される類似群コードが同じ場合は、「商品・役務が同一又は類似」するため、登録が認められません(商標法第4条第1項第11号)。
例えば、第29類「乳飲料」と第32類「乳清飲料」は、区分は異なるものの、いずれも類似群コードが同じ「31D01」であるため、類似すると推定されます。また、第25類「履物」と第35類「履物の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」は、商品とその商品を扱う小売等役務の関係にあるため、類似すると推定されます。
また、商品・役務が類似しなくても、「需要者に混同を生じさせるおそれがある」と判断される場合には、登録が認められません(商標法第4条第1項第15号)。
つまり、区分が違っていても、実際の取引状況や事業の関連性などを踏まえて、「商品・役務の出所についての誤認混同」が生じる場合は拒絶される可能性があります。
✅ 使用の可否(商標権侵害の判断)
一方で、商標権侵害かどうかは、商標法第25条、第37条などに基づいて判断されます。
ここでも重要なのは、区分ではなく「取引の実情や具体的な取引状況を考慮した上での類似性や混同の可能性」です。
たとえ登録区分が異なっていても、取引実情から同じ営業主の製造・販売等にかかる商品や役務と誤認されるおそれがあれば、商標権侵害にあたる可能性があります。
指定商品・役務の類似については、過去の記事も参考にしてください↓
区分が違っても類似と判断され侵害となる可能性のあるケースの具体例
✅ ① 生産・販売部門が一致
- 例:「手術着」(第10類)と「白衣」(第25類)など
✅ ② 原材料及び品質が一致
- 例:「野菜」(第31類)と「カット野菜」(第29類)など
✅ ③ 用途が一致
- 例:「ココア入り乳飲料」(第29類)と「ココア飲料」(第30類)など
✅ ④ 需要者の範囲が一致
- 例:「ペット用ベッド」(第20類)と「ペット用トイレ」(第21類)など
✅ ⑤ 完成品と部品の関係
- 例:「プリンター」(第9類)と「プリンター用インクカートリッジ(中味が詰められたもの)」(第2類)など
✅ ⑥ 役務の提供の手段、目的又は場所が一致
- 例:「写真のプリント」(第40類)と「印刷された写真の修復」(第37類)など
✅ ⑦ 役務の提供に関連する物品が一致
- 例:「自動車及び二輪自動車の車両点検(車両が道路で運転するのに適しているかどうかの検査)」(第42類)と「自動車の整備」(第37類)など
✅ ⑧ 業種が同じ
- 例:「電子計算機用プログラム」(第9類)と「電子計算機用プログラムの提供」(第42類)など
✅ ⑨ 当該役務に関する業務や事業者を規制する法律が同じ
- 例:「税務相談」(第36類)と「課税の分野における法律に関する助言」(第45類)など
✅ ⑩ 同一の事業者が役務を提供
- 例:「美容」(第44類)と「着物の着付け」(第45類)など
※上記に当てはまっても、必ずしも「類似する」と判断されるとは限りませんのでご注意ください。
実際には、具体的な取引の実情を考慮した上で判断されます。
弁理士に相談するメリット
✅ 類似性や混同のおそれを専門的に判断できる
- 商標の「類似」「混同」の判断は、商標審査基準、過去の審決・判例、実務感覚が必要です
- 弁理士なら、区分だけでなく、実際の事業展開やターゲット層を見た上で、侵害の可能性を適切に判断できます
✅ ネーミングやブランド設計の段階からリスク回避が可能
- 区分をまたいだトラブルを防ぐために、出願戦略やネーミングを最適化
- 他社の商標調査・侵害リスク分析も含めて、ブランド戦略全体をサポート
まとめ|「区分が違えばOK」は危険な思い込み
- 商標の区分が違えば侵害にならない――そう思って安易に使い始めると、実は侵害だったというケースは少なくありません
- 特に、著名商標や関連性の高い業種では、区分の壁を越えて問題になることも
- 商標に関する判断に迷ったら、商標専門の弁理士にご相談ください。登録も使用も、確実に進めるお手伝いをいたします。