文字商標とロゴ化商標、どっちを出願すべき?

2017年6月27日

持続可能なブランドコミュニケーションをつくる
「サムライツ™」の弁理士、保屋野です。

よくあるご相談の1つで、「文字の商標と、その文字をロゴ化した商標、どちらを出願すればよいでしょうか?」というものがあります。

結論から申し上げますと、「両方出願した方がいい」です!

こういうと、「おたくが弁理士で、出願の依頼件数を増やしたいからそう言っているんでしょう?」と思われてしまうかもしれませんが(笑)

そうではなく、文字(「標準文字」と呼ばれる、商標法第5条3項に規定する特許庁長官指定のフォント)だけを登録していて、実際にはロゴ化した商標を使用していたために、痛い目を見てしまった事例があるのです。

2003年10月24日に、「NHS」という商標が「標準文字」で登録を受けました(登録第4720986号)。しかし、実際に使用していたのが下記のロゴ化した「NHS」であったため、一部の指定役務について”登録商標を使用していない”として、2016年10月28日付(同年12月8日確定)で登録が取り消されてしまったのです(取消2016-300084)。

取消2016-300084審決公報より引用

商標には、「不使用取消審判」という制度があります。商標を登録しても、3年以上国内で指定商品・役務について使用していない場合は、誰でも登録を取り消すことができるのです。
なぜかというと、商標法の目的の1つが、「商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図」ることにあるからです(商標法第1条)。
つまり厳しい言い方をすれば、”商標の使用をしない者”の保護は、予定されていないのです。

もちろん、必ずしも、例えば「標準文字」の登録商標だったら「標準文字」の書体そのものを使用しなければならないわけではありません。
書体のみに変更を加えたものや、ひらがなをカタカナに変換したようなもの、外観上同一視できる図形などは、「社会通念上同一」と扱われて、「商標を使用」していたことにしてもらえて、「不使用取消」を免れることができます。

上記の事例では、使用していた商標が、一見して単なる文字と捉えることができない特殊な態様といえるからとして、標準文字の登録商標とは「社会通念上同一」と認められず、「商標を使用していない」と判断されて登録が取り消されてしまったのですね。
確かに、「NHS」と読めなくもないのですが、よく見ると「N」と「H」の文字がくっついて一体化しており、単なる文字商標とは言い難い商標ですね。

このように、「文字商標を登録した!」と喜んでいても、使用している商標が単なる文字ではない場合、登録の取り消しというリスクがあることを覚えておくといいですね。

そして、登録が取り消されたら、その取り消された指定商品・役務の部分に関しては、誰でも使用または商標登録できる状態に置かれるということを、リスクとして考えておきましょう。