意匠の補正が却下されたらどうする?―3つの選択肢と判断基準(弁理士解説)

意匠の補正が却下されたらどうする?―3つの選択肢と判断基準(弁理士解説)

補正却下は出願そのものの終了ではありません却下された補正“だけ”が無効となり、出願は補正前の内容で審査が続行します。ここでは、実務で選ばれる3つの対応肢――

  1. 補正却下不服審判
  2. 補正却下後の新出願
  3. 何もしない(現状維持)

を整理します。


まず押さえる:補正却下の効果と直後にできること

  • 効果:当該補正は効力を持たず、出願は補正前の願書・図面等に戻って審査継続。
  • 直後にできること:拒絶応答期間内であれば意見書の提出は可。補正は原則として再度行えても、要旨変更に当たる内容は再び却下されます。
  • 期限管理:以後の審査処理(拒絶理由通知→拒絶査定等)や不服申立てには法定期間があるため、カレンダー管理が重要です。

対応①:補正却下不服審判で争う

狙い:審査段階の補正却下の判断(要旨変更の認定など)が誤りであることを主張し、当該補正を有効と認めさせる。

向いているケース

  • 補正内容が当初の願書・図面から直接導ける(支持がある)ことを、資料で明確に示せる。
  • 審査基準の適用や事実認定(図面の読み取り)に判断ミスがあると考えられる。

ポイント

  • 立証の核は、「当初明細(願書・図面等)の記載」×「当業者の通常の知識」で「同一の範囲」内の訂正に過ぎないことを丁寧に論証すること。
  • 審判で補正が生きても、他の拒絶理由が残ることはあります(並行して意見書戦略を設計)。
  • 請求は補正却下決定の謄本の送達があった日から3か月以内に。コスト・期間も要するため、勝ち筋の検討が必須です。

対応②:補正却下後の新出願で取り直す

狙い:却下された補正の内容(図面の描写方法や部分意匠の切り出し等)を最初から正しい形で出願し直す。

留意点(重要)

  • 新出願は補正却下決定の謄本の送達があった日から3か月以内に。
  • 新出願は手続補正書を提出した時にしたものとみなされます。日本の意匠には国内優先権がありません
  • 既に世に出している場合は、新規性を失うおそれ。新規性喪失の例外(グレースピリオド)の適用は受けられません
  • 自社の既出願との関係で、3条の2(先願意匠の一部と同一・類似の後願の保護除外)や9条(先願主義)の整理が必要。
  • 関連意匠(10条)が使える設計かも検討(本意匠に“類似”で、10年内の追加)。
  • 公報公開を遅らせたい場合は秘密意匠(14条)も選択肢。

向いているケース

  • 補正を維持して争うより、クリアな図面・構成で取り直した方が早い/確実
  • ローンチ時期が先で、公開前出願のやり直しが間に合う。

対応③:何もしない(現状維持)で進める

狙い:補正に頼らず、補正前の出願内容意見書だけで審査を乗り切る。

向いているケース

  • 補正は“保険”で、本命は意見論点(新規性・創作非容易性・5条等)にある。
  • 補正が要旨変更に近く、審判での逆転が見込み薄
  • コスト・スケジュール上、不服審判は拒絶査定に一本化したい。

注意

  • その後に拒絶査定が出た場合は、必要に応じ拒絶査定不服審判で争う設計に。
  • 図面や記載の不備が本質的な弱点なら、新出願に切り替えた方が総コストを抑えられることも。

迷ったら:選び方の早見表

目的/状況おすすめの対応補足
補正は当初記載に十分支持、却下理由に誤認あり補正却下不服審判支持箇所の特定・図版対比で“同一範囲”を丁寧に主張
図面設計を抜本的に見直したい/公開前に間に合う新出願国内優先なし・新規性喪失の例外不可/関連意匠の可否
コスト・時間を抑え、まず審査で粘る何もしない(+意見書)後段は拒絶査定不服審判で一本化

実務チェックリスト

  • 当初図面の支持:補正点が当初図面から一義的に読み取れるか。
  • 要旨維持:補正後も意匠の要旨が不変か。線の追加入替・要部の切り方に注意。
  • 期限:補正却下の送達日起算で、審判・追加応答・新出願のスケジュールを即時計画。
  • 公開リスク:新出願なら公開有無・日付・態様を特定し、例外の申出・証明書準備。
  • 自己衝突:自社の本意匠/関連意匠/他出願との関係を3条の2・9条で点検。
  • 将来設計:関連意匠(10条)、秘密意匠(14条)の活用余地を同時に検討。

まとめ

  • 補正却下は補正だけが無効。出願自体は続く。
  • 取れる手は①補正却下不服審判/②新出願/③何もしないの3択。
  • 当初図面の支持が厚いなら①、抜本見直しなら②、コスト・時間優先なら③が目安。
  • いずれも期限管理と図面設計が勝敗を分けます。

補正却下通知の内容、当初図面の支持状況、公開リスク(例外の可否)を即時に精査し、勝ち筋に合わせて一気通貫で手当てするのがコツです。
具体的な通知文と出願書類があれば、最短ルートの方針案をその場でお出しします。