意匠は「新規性」があるだけでは登録できず、「創作非容易性」も求められます。
その分野における通常の知識を有する者(当業者)が、ちょっと工夫すれば思いつける程度のデザインは、創作非容易性を欠いて(つまり創作が容易だから)登録NGになります(意匠法3条2項)。
ここでは、むずかしい言い回しをできるだけ避けて、審査で見られるポイントをやさしくまとめます。
目次
1. だれの目線・いつの時点で判断するの?
- だれの目線?
その意匠の分野で通常の知識・経験を持つ人(当業者)の目線です。
例:マグカップなら食器の分野、アプリ画面ならGUIの分野。 - いつの時点?
出願時の時点の公知情報(雑誌・カタログ・ネット・店頭など)を材料に判断します。 - どうやって判断する?
当業者から見て、公知のデザインから“ふつうにやれば創作できるか”を考えます。
例えば、公知のデザインがほとんどそのまま表されている場合や、軽く改変が加えられた程度の場合は、創作容易と判断されます。
一方、当業者から見た着想の新しさや独創性がある場合は、この点が考慮されて創作非容易性があると判断される可能性が高まります。
2. 「公知」の「デザイン」とは?
「公知」は「公然知られた」の意味で、日本国内や外国において一般に知られ、広く配布・販売等された印刷物に記載され、又はネットを通じて不特定の人が見ることが可能になった状態をいいます。
意匠の新規性の「公然知られた」と同義ですが、新規性では「公然知られた意匠」が対象であるのに対し、創作非容易性では「公然知られた形状等又は画像」が対象で、物品等との関係を離れた抽象的なモチーフから創作が容易なものも含まれます。
3. 「容易に創作できる」とされやすい典型パターン
次のような変更は、当業者なら普通に思いつくありふれた手法や軽微な改変であるとしてNGになりやすいところです。
- 単純な形の軽いアレンジ
角を少し丸める・厚みを少し変える・模様を削除する・色を変える・素材を変える…など、よくある微調整だけ。 - 公知デザインの一部置き換え
テーブルの脚だけ別のよくある脚に差し替える、模様だけ他の定番模様に置き換える等。 - ありふれた要素の寄せ集め
その分野で普通に使う装飾や部品を、普通の組合せで並べただけ。 - 一部の要素の削除
デザインの一部を単純に削除しただけ。 - 配置替え
ボタンの上下入れ替え、表示欄の位置を少し詰める等、よくある配置調整にとどまる。 - 比率の変更
大きさを拡大・縮小する、縦横比を変える等。 - 連続する単位の数の増減
パターンの繰り返し回数を増減させるだけ。 - 異なる物品等への転用
既存のものをモチーフとして、ほぼそのままの形状等で異なる物品に転用するだけ。
4. 「容易ではない」と評価されやすいのはどんなデザイン?
- 意匠全体の美感や各部の状態等、意匠の見た目の特徴として現れるものであって、独自の創意工夫に基づく当業者の立場からみた意匠の着想の新しさや独創性が認められる場合。
例えば- 引用された公知のデザインにはない、まとまり感のある一体の美感を形成する構成に、意匠の着想の新しさや独創性が認められる場合
- ありふれた手法に基づく複数の構成要素を組み合わせることで新たな美感が生じ、その組合せにこそ創意が発揮されている場合
- 構成要素の大きさや間隔の幅などについて、意匠から受ける印象などを考慮して決定した過程において、相当程度の創作性を要する場合
5. 出願前にやっておくと安心なこと
- 先行デザインの下調べ
同分野の意匠登録例をざっと集め、創作非容易性をクリアしているレベル感を把握。 - 特徴記載書で外観効果を言語化
例:「縁部の連続曲面のつながり」「各要素の幅と高さの比率関係」「リブのリズム」など、
見た目の印象、着想の新しさ、独創性などを短く具体的に書く。
6. 拒絶理由(創作容易性)が来たら、こう反論
- 引用されたデザインや同分野の意匠にはない、当業者の立場から見た着想の新しさや独創性を意見書で主張
- 引用されたデザインとの違いや非類似性をいくら説明しても、創作非容易性が認められないことが多いので注意が必要です
7. まとめ
- その分野の“ふつうのデザイナー”が簡単に思いつく範囲に落ちていないか?
- その意匠に、当業者から見た着想の新しさや独創性があるか?
- 「部品の入れ替え」「配置だけ変更」「比率だけ変更」など、軽微な変更やありふれた手法による改変にとどまっていないか?
- 図面と特徴記載で着想の新しさや独創性を明確に伝えられているか?
ポイントは、「見慣れた延長」から一歩抜ける“着想の新しさ”や”独創性”をどう作れているか。
出願前の設計と見せ方で、創作非容易性の説得力は大きく変わります。設計段階からご相談いただければ、先行例の洗い出しから図面・特徴記載の作り込み、拒絶理由対応まで、一貫してサポートします。