はじめに
今回取り上げるのは、こちらのニュース。
・「ゾフがジンズの意匠権侵害 レンズ跳ね上げ式眼鏡で」(共同通信)
https://www.47news.jp/12952094.html
JINSとZoffという、人気メガネブランド同士による意匠権訴訟(令和4年(ワ)第70137号及び第70138号)がひと段落を迎えました。東京地裁はJINSの主張を認め、Zoffに損害賠償の支払いを命じる判決を言い渡しました。本記事では、判決内容をふまえながら、中小企業や個人事業主が知っておきたい「意匠権の守り方・攻め方」について考察します。
跳ね上げ式メガネの“形状”が争点に
今回の訴訟は、JINSが意匠登録していた「眼鏡用前枠(ワンタッチでレンズを跳ね上げられるフレーム構造)」(意匠登録第1663216号、第1663217号、第1671258号等)に対して、Zoffが類似した商品(品番ZO221G01-49A1とZO221G01-14E1)を販売していたことに端を発します。JINSは意匠権の侵害として2022年に提訴し、東京地裁は2025年7月17日にJINSの訴えを認め、Zoffに約140万円の損害賠償を命じました。
JINSの登録意匠(画像は意匠公報より引用) | Zoffの侵害物品(画像はメガネの情報サイト「GLAFAS」より引用) |
![]() (意匠登録第1663216号の参考図1) ![]() (意匠登録第1663216号の斜視図1) | ![]() ![]() |
Zoff側も一部の主張が認められたものの、意匠権の侵害については「一部敗訴」と判決が下され、控訴の意向も示していません。
Zoffの公式コメントから読み解く「企業としての構え」
Zoffを展開するインターメスティック社は、判決を受け以下のようにコメントしています:
「主張が一定程度認められたものの、一部敗訴の判決が下されました」「主張が認められなかった点については、誠に遺憾でありますが、判決を真摯に受け止め、当社の知的財産権における戦略を見直し、引き続き、知的財産権の保護に努めてまいります」
※インターメスティック社「当社に対する訴訟の判決に関するお知らせ」より引用
https://www.zoff.com/news/20250801-5993
この姿勢は、敗訴後の対応として重要なポイントです。知財の問題は製品開発・販売と密接に関わるため、単なる訴訟対応にとどまらず、組織としての戦略見直しに発展させる必要があります。
意匠権は「形の工夫」を守る武器になる
「形状」は「デザイン」の一要素であり、意匠権はその形状に含まれる機能的工夫も保護の対象になります。中小企業や個人事業主にとっても、製品の差別化ポイントを守る有効な手段です。
しかも、特許に比べてコストが抑えられ、登録までの期間も短い。中小事業者でも十分に活用できる知財ツールです。
模倣リスクは“他人事”ではない
このような訴訟を見ると、「大手企業の話」と感じるかもしれません。しかし、差別化できる形状や機能を持つ商品を作っている企業にとっては、常に模倣のリスクがあります。
また、自社が知らずに他社の意匠を侵害してしまうケースもあります。商品開発段階から意匠調査を行うなど、リスク管理が重要です。
まとめ
ZoffとJINSの訴訟は、ブランド間競争の激化とともに知的財産権の重要性が増していることを示しています。中小企業・個人事業主であっても、形状の工夫を「権利」として守る意識が、今後の事業成長に直結するかもしれません。
万が一、他社と衝突した際にも、Zoffのように企業としての立ち振る舞いや方針を明確にしておくことが、信頼を守る第一歩となるでしょう。