目次
1. 生成AIフェアユース判決の概要とインパクト
今回取り上げるのは、こちらのニュース。
・「生成AIの学習に書籍を無断使用、米連邦地裁が合法判決…「公正利用に該当」」(讀賣新聞オンライン)
https://www.yomiuri.co.jp/world/20250625-OYT1T50043/
2025年6月23日、米カリフォルニア北部連邦地裁(Alsup判事)は、AI企業Anthropic(Claudeの開発企業)が著作権保護された書籍を用いて自社LLMを学習させた行為を「フェアユース(公正な利用)」と認定しました。
著作権訴訟で生成AI学習の是非に踏み込んだ初の詳細判決であり、世界のAIビジネスに与える影響は計り知れません。米国の事例ではありますが、日本でも同じような判断になる可能性は十分あります。
2. 判決が示した「書籍データ学習=合法」の根拠と注意点
裁判所は「人工知能モデル「Claude」の訓練に書籍を使用したことは「フェアユース(公正使用)」かつ「改変可能」である」と判断。
一方、海賊版サイトからの違法ダウンロードはフェアユース外と明言し、損害賠償審理へ進む点も見逃せません。
合法性は“取得ルート”で大きく分かれる――ここが核心です。
3. フェアユースとは?中小企業でも押さえたい著作権基礎知識
フェアユースは、著作権侵害の主張に対抗する主張(抗弁)の1つで、次の4要素で判断されます。
- 利用の目的・性質…利用が営利目的ならフェアユースに否定的、非営利目的なら肯定的に見積もる
- 著作物の性質…芸術的な性質ならフェアユースに否定的、事実の伝達や機能の発揮といった性質なら肯定的に見積もる
- 使用量と質…目的達成に必要な量を超えていればフェアユースに否定的、使用量が少なく使用部分が核心部に触れていないなら肯定的に見積もる
- 市場への影響…使用が市場に悪影響ならフェアユースに否定的
米国判例中心の概念ですが、海外サービスを導入する日本企業も契約で米法準拠となるケースがあるため無関係ではありません。
4. 海賊版書籍はアウト!違法データ利用リスクと罰則
そして、「700万冊の海賊版書籍を中央ライブラリに保存」する行為については侵害認定されました。
米国の場合、州によって違法コピーが懲罰的損害賠償(1作品最大15万ドル)の対象になる可能性があります。
自社でスクレイピングする場合は出所チェックを怠ると一気に高額訴訟リスクが顕在化するので気をつけましょう。
5. 自社AI開発・運用で必要なライセンス管理のベストプラクティス
- 学習データの購入・契約書保管
- 第三者データセットは利用規約を人の目で確認
- 著作権者が不明な場合は、権利者情報を詳細に調査して、それでも不明なら利用を控えるか裁定制度を利用
この三段階で証跡を残すことが、訴訟時の重要な防御資料となります。
6. 外部AIサービス導入時の契約チェックポイントと交渉術
もし可能なら、外部生成AIサービスを導入する際は「学習データの適法性保証」条項を必ず追加交渉しましょう。相手が拒む場合は――
- インデムニティ(補償条項)における上限額
- 第三者の権利侵害時の防御協力義務
- 監査ログの提供
を明文化することで実務リスクを抑えられます。
7. 書籍データに関する生成AIビジネス活用事例
- A社:書籍データの学習と、質問回答や表情分析に基づき、選書から本をリコメンドするシステム
- B社:出版社と提携して特定の書籍の内容を学習させることで、読者からの質問に対して、高度な専門知識に基づいた信頼性の高い回答を返すチャットアプリ
なお、2025年6月10日には、ハーバード大学ロースクール図書館が約98万冊の書籍から抽出された大規模テキストデータセット「Institutional Books 1.0」を公開しました。生成AIの訓練・検索技術評価に活用可能で、非営利・営利利用も条件次第でOKとのこと。公共データ活用の新時代が始まった感がありますね。
※参考:ハーバード、AI訓練向けに98万冊・2420億語の書籍データセット「Institutional Books」を公開
https://ledge.ai/articles/harvard_institutional_books_dataset_release
8. トラブル回避!著作権侵害を防ぐ社内ガイドライン策定ステップ
- 利用目的の具体化
- 許諾要否判断フロー図作成
- ログ・メタデータ保管
- 定期監査
この 4 ステップを社内規程に落とし込み、運用記録をクラウドで共有すると“転ばぬ先の杖”になります。
9. 今後の法改正・判例動向をどうウォッチするか?情報収集のコツ
米国では他の生成AI企業を巡る集団訴訟も進行中。EUではAI Act、日本でも権利制限規定の議論が加速しています。
- 官公庁・業界団体のHPチェック、メルマガ登録
- 弁理士・弁護士のセミナー参加
等で最新情報を継続的にキャッチアップしましょう。
10. まとめと弁理士からのアクション提案:リスクをチャンスに変える方法
米国におけるフェアユース判決は「適法データなら学習OK」という追い風をもたらしました。しかし盗用データの混入は一瞬でビジネスを停止させます。
▼まずは既存AIツールの契約書を棚卸し
▼次に社内データ利用ガイドラインを即日ドラフト
▼不明点は専門家へ相談し、安心してAIを“攻め”に活用してください
知的財産のプロとして、皆さんの挑戦を全力でサポートします。