他人の写真を生成AIでモネ風にしたら著作権侵害か?

他人の写真を生成AIでモネ風にしたら著作権侵害か?

テーマの背景と読者の悩み

生成AIの進化により、写真や絵を学習させて新たな画像を生成することが容易になりました。

AIアートや画風模倣といった技術は、クリエイティブ分野において新たな表現の可能性を切り拓いています。

しかし一方で、「他人が撮った写真や描いた絵を勝手にAIに学習させても問題ないのか?」という懸念も高まっています。

本記事では、弁理士の視点から著作権と著作者人格権の観点でこの問題を解説します。

生成AIが学習する「他人の写真」とは

写真や絵の著作権の基本知識

写真や絵は、創作性が認められる限り自動的に著作権によって保護されます。著作権は、創作者に無断で利用されることを防ぐための権利であり、複製・公衆送信・翻案などの利用行為には原則として許諾が必要です。

学習素材としての使用は「複製」に該当するのか?

生成AIは、学習のために著作物を読み込んで解析を行いますが、この過程で著作物の一時的なコピー(複製)が作成されます。著作権法上、複製は原則として権利者の許諾が必要な行為ですが、AI学習に関しては例外があります。

日本の著作権法第30条の4第2号では、「情報解析の用に供する場合」における利用について、著作物の利用が原則として著作権者の許諾なく可能とされています。これは、AIによる機械学習などで統計的な処理を行う場合を想定した規定です。

ただし、この規定には「著作権者の利益を不当に害しないこと」などの条件があり、学習結果の利用方法(生成物の内容や公表形態など)によっては著作権侵害となるケースも考えられます。AI学習時の著作物利用がすべて自由というわけではない点に注意が必要です。

生成AIによる画風加工と著作権・人格権の問題

スタイル模倣は著作権侵害になるか?

画風そのものは著作権の保護対象とはされていませんが、AIが模倣した結果、元作品に似すぎている場合、「翻案」や「二次的著作物」とみなされる可能性があります。

特に、人物の構図や色使い、筆致などが特徴的な作品では注意が必要です。

弁理士の視点で見る「二次的著作物」との関係

元作品を基に改変・加工して創作された作品は「二次的著作物」とされることがあります。

その場合、元の著作物の著作権者の許諾がなければ「翻案権」侵害となり利用できません。生成AIが自動的に行ったものであっても、法的責任が生じる可能性は否定できないのです。

著作者人格権の視点|同一性保持権の侵害とは?

また、著作者人格権(著作者の人格的利益を保護する権利で、他人に譲渡できない)には「同一性保持権」があり、作者が意図しない形で作品が改変されることを防ぐ権利です。

生成AIが既存作品の画風を模倣し、結果的に原作者の意図に反した改変を行った場合、この「同一性保持権」を侵害する恐れがあります。特に原作と酷似した作品を創作物として公表する場合は注意が必要です。

具体例

例えば、無関係の第三者が撮ってSNSに投稿してバズった写真を勝手にダウンロードして、生成AIに学習させます。ここまでは、「私的複製」や「情報解析の用に供する場合」に該当し著作権侵害とはならないかもしれません。

しかし、「この写真をモネ風にして」などとプロンプトで指示をして、元の写真をモネが描いたかのようにアレンジした画像を出力すると、元の写真に対する「翻案権」や「同一性保持権」侵害になる可能性があるのです。

さらに、生成された画像をネットにアップロードすると、「公衆送信権」侵害になる可能性もあります。

このような侵害行為の可能性が高まると、著作権に詳しい人から指摘されて炎上してしまう恐れがあるので、気をつけた方が良いでしょう。

ちなみに、モネは1926年に亡くなっているので、モネの作品自体の著作権は消滅しています。すなわち、モネの作品に似ていることを理由に権利侵害となるわけではありませんが、まだ著作権が存在する絵画作品に似ていた場合は、元の写真だけでなく作風を真似された絵画作品の著作権侵害になる可能性もあるので、さらに注意が必要です、

実際の事例と法的判断の傾向

海外・国内での事例紹介と議論の動向

米国では、著作権保有者が生成AI開発企業を提訴する事例が出ており、著作物の無断学習に対する法的問題が争点となっています。日本でも同様の議論が始まっており、今後の法改正の動きにも注目が集まります。

弁理士による法的リスクの整理と対策

生成AIを活用するにあたっては、学習素材に著作権のある作品を用いない、あるいはライセンスや許諾を取得することがリスク回避につながります。プロジェクトに応じて適切な法的助言を受けることが推奨されます。

AI開発者・利用者が守るべきポイント

許諾取得の重要性と注意点

写真や絵の著作権者から明示的な許諾を得ることは、法的リスクを避ける最も確実な方法です。商用利用を前提とする場合は特に注意が必要です。

著作権フリー素材の活用と検討すべき事項

著作権フリーやクリエイティブ・コモンズライセンスの素材を使うことで、安全にAIを学習させることが可能になります。ただし、ライセンスの内容や使用条件、利用規約等を正確に理解しておく必要があります。

まとめと結論

生成AIの活用は今後ますます広がると見込まれますが、他人の著作物を無断で使用することには法的リスクが伴います。特に著作権と著作者人格権の両面からの配慮が重要です。トラブルを避けつつ、安心して技術を活用するには、法的観点からの理解と対応が欠かせません。

弁理士に相談する理由とお問い合わせ情報

生成AIに関連する著作権・著作者人格権の問題は、技術的かつ法的な複雑性を伴います。専門知識を持つ弁理士に相談することで、適切な対策や契約整備が可能となります。AI開発や利用にあたって不安がある場合は、ぜひ弁理士までご相談ください。