著作権を“正しく使う”ために──『ヴァンガードプリンセス』騒動が示した裁定制度の誤解

著作権を“正しく使う”ために──『ヴァンガードプリンセス』騒動が示した裁定制度の誤解

著作権者の不明等を前提とした「裁定制度」。文化庁の管轄のもと、復刻や二次利用の道を開く制度として期待が寄せられる一方で、誤解や悪用が社会的な混乱を引き起こす事例も出ています。

今回取り上げるのは、こちらのニュース。

・「文化庁も困惑の「裁定制度」濫用事例、無言の撤回?権利者不在のまま行われた『ヴァンガードプリンセス』の、第三者企業による著作権主張声明が突然の削除へ」(Game*Spark)
https://www.gamespark.jp/article/2025/05/27/153062.html

2009年に個人開発されたフリーゲーム『ヴァンガードプリンセス』を巡る、第三者企業による“権利主張”と、その後の無言の削除劇です。

中小規模の事業者にとっても他人事ではない「権利の扱い」の本質について、今回の事例から紐解きます。

突然の“正当な権利者”宣言とその撤回

2025年5月、米eigoMANGA社は『ヴァンガードプリンセス』の日本および米国における“唯一の正式権利者・ライセンサー”であると公に宣言。しかし、その発表は告知もなく削除され、権利の所在を巡る混乱が一層深まりました。

その主張の根拠は、日本の「裁定制度」にあったとされます。

しかし、本来この制度は、著作権者が不明等で連絡も取れない作品に限って利用が認められる「使用許諾制度」であり、権利の移転や独占を意味するものではありません

権利者の許諾を得る代わりに文化庁長官の裁定を受けて、使用料相当額を供託することで、著作物を利用できるにすぎないのです。

文化庁も「権利移転にはならない」と明言

文化庁は本件に対し、「裁定制度は著作権を移転する仕組みではない」と公式にコメント。つまり、eigoMANGAが“正式な権利者”と称した根拠は法的に不適切だった可能性が高く、制度の誤解が露呈したかたちとなりました。

制度を盾にして著作物のコントロール権を主張することは、正当な権利者や原作者を不当に排除するリスクをはらみます。事実、本作の原作者スゲノトモアキ氏の動向については、企業側から明確な説明がないままでした。

“使える制度”を“濫用”しないために

裁定制度は、レトロゲームや映像作品など、復刻や保存に有効な道を開く可能性を持つ一方で、運用の透明性や正しい知識がなければ信頼を失う危うさもあります。

本件は、制度の「意義」と「限界」を無視した主張が、かえってブランドや企業の信用を損ねる結果となった典型例とも言えるでしょう。

中小企業こそ、知的財産の“丁寧な使い方”を

このような事例は、大企業に限られた話ではありません。むしろ、資源が限られる中小企業や個人事業主だからこそ、制度を「正しく理解し、丁寧に使う」姿勢が求められます。

著作物を使う際は、クリエイターとの対話や正確なライセンス確認を重視し、グレーな前提には立ち入らない判断を。制度を味方につけるには、誠実なスタンスと丁寧な実務が必要不可欠です。

まとめ

制度は、活用すれば価値を生みます。しかし、誤用すればその信頼が傷つきます。今回の『ヴァンガードプリンセス』騒動が示したのは、「権利の尊重」と「誤解なき運用」の重要性。知財の取り扱いにこそ、事業者としての姿勢が問われているのですね。