エルメス「バーキン」の知財活用

エルメス「バーキン」の知財活用

2017年8月25日

「サムライツ™」の弁理士、保屋野です。

エルメスの “バーキン” といえば、高級バッグの代名詞的な存在で、
デザインもさることながら、収納力や使い勝手も備えた機能面でも評価の高い、
世の女性を魅了するブランドの一つですよね。
男としても、いつかは愛するパートナーにプレゼントしたいバッグの一つだと思います(え、そんな太っ腹なことできない!?)。

そんなバーキンの知財に関するお話です。
バーキンのバッグのデザインは、「意匠登録」で保護されています(登録第1415239号)が、
実は「商標登録」でも保護されているのです。
「Birkin」「BIRKIN」の文字商標で登録している(登録第4384061号等)のは、一般によくあることですが、
バーキンの場合は、“バッグの外観の立体形状”を「商標登録」しているのです(登録第5438059号)。これを「立体商標」といいます。

普通は、商品の形状そのものを「商標登録」することはできません。
単に商品の形状を普通に表しただけのものは、
自社の商品と他社の商品を見分けられない、とされているからです。
商標は、商品のデザインそのものを保護するわけではなく、自社と他社の商品を見分けるマークを保護するためにあるのですね。
今回も、多少装飾が施されているとはいえ、その立体形状はハンドバッグの領域を出ないものなので、一度は拒絶されました。

しかし、バーキンの場合は、長年使用され続けた結果、
単なるハンドバッグの一つというより、
このデザインといえばバーキンだよね」
と、多くの需要者が認識できる状態になっていました。
加えて、「バーキン風」「バーキンタイプ」といった類似デザインの模倣品も登場していたのです。

こういった背景から、バーキンのハンドバッグのデザインは、
「立体商標」として登録されるに至ったのです。

そして、この「立体商標」の商標権により、ある類似品の使用排除にも成功しました。

バーキン類似品

 

裁判所は両者を類似と判断し、類似品の輸入販売行為の差し止めと、損害賠償請求を認めました。

通常のケースでは、モノのデザインは「意匠登録」で保護しますが、
「立体商標」をわざわざ登録するには、それなりの利点があります。
それは、権利の存続期間の点です。

意匠権は、最長で登録から20年で消滅します。
それ以降は、原則として、万人が自由に使用できるデザインとなるのです。

一方、商標権は10年ごとに更新し続ければ、20年、30年、40年…と権利が存続します。
つまり、半永久的な権利なのです。これは最強ですね!
バーキンのような著名なデザインなら、商標権がなくても不正競争防止法を根拠にした類似品排除も可能と思いますが、裁判での立証の容易性からすれば、商標権を使うのが圧倒的に容易なのです。

そういう点も考慮して、模倣品排除に効果的な「立体商標」の商標権を取得したのだろうと思います。

ただし一般的に、商品の形状そのものは、「立体商標」で登録されづらいです。
バーキンのように”長年使用した結果、多くの人が自社の商標と認識している”
との立証ができなければ、基本的には「立体商標」での登録は難しいとお考えください。

したがって、基本的にはデザインの権利「意匠登録」を活用しつつ、
長年同じデザインを使用した結果、「立体商標登録」できそうな条件が整ってきたら、
立体商標登録にチャレンジしてみる。
というのが、ブランド保護のためのおすすめの戦略になります。

 

参考:
不服2010-011402号事件
平成25年(ワ)第31446号事件