「やせおか」事件は法的に何が問題?

「やせおか」事件は法的に何が問題?

2017年6月13日

持続可能なブランドコミュニケーションをつくる
「サムライツ™」の弁理士、保屋野です。

「やせおか」シリーズで有名な、小学館出版の料理本「やせるおかず 作りおき」。
表紙デザインの酷似した本が出版されたとして、話題になっています。
http://www.sankei.com/affairs/news/170612/afr1706120021-n1.html

その名も「やせるおかずの作りおき」。
「の」はとても小さく表記されていて、
え、タイトルほぼまんまやん…と思った方も多いと思います。

表の表紙のデザインを見てみると、
タイトルの位置や、写真のおかずが四角や丸の器を組み合わせている点、表紙上部が赤地に白抜き文字で書かれている点も、共通します。

小学館から出版された、柳澤英子さんの「やせるおかず 作りおき」は、2015年1月16日発売。
その後、「全部レンチン! やせるおかず 作りおき」、「夫も やせるおかず 作りおき」「超入門! やせるおかず 作りおき」など、「やせおかシリーズ」として次々出版し、シリーズ累計は246万部突破(「やせおか」公式HPより)の大ヒット料理本なのです。

一方、新星出版社から出版された、松尾みゆきさんの「やせるおかずの作りおき」は、「やせおか」シリーズの大ヒットの後の2017年5月17日発売。タイトルと表紙デザインが似ていて、読者が誤って購入したり、混同したりしてしまうのでは?との懸念から、小学館側から販売停止の申し入れがあったそうです。対応は検討中とのこと。

さて、これは法律上どのような問題になるのでしょう?

商標について

まず、本のタイトル「やせるおかず 作りおき」は、「やせおか」の文字と2段書の状態で、書籍などの分野を指定して、小学館名義で商標登録されています。

登録第5855215号

しかし、本のタイトルは、普通は商標で保護されません
商標は「自他の商品・サービスを見分けるために出所を表示するもの」。
本のタイトルは「本の内容を示すもの」で、「本の出所を表示するもの」ではないと考えられているからです。

一方、雑誌などの定期刊行物やシリーズものなんかは、一定の「出所を表示するもの」として保護される余地があります。

今回は「やせおか」シリーズで著名になっているケースなので、商標で差し止められるのでは?と考えられなくもないですが、登録されているのは「やせるおかず 作りおき」と「やせおか」の2段書の商標ですし、相手は「やせおか」の文字を使用しているわけでもないから、難しいと考えられます。

著作権について

次に表紙デザインの著作権はどうでしょうか?

確かに、同ジャンルのこれだけのベストセラー本の表紙デザインを目にしなかったとはいえないし、タイトルの位置や写真のおかずの器の選択方法、表紙上部の配色は共通する部分ですが、タイトルの脚色の仕方や、並べられたおかずの数、イラストの有無など、異なる点も多いです。

過去に、医学専門書の表紙デザインの著作権(翻案権・譲渡権)侵害が認められ、印刷・販売が差し止められたケース(平成21年(ワ)第23051号)があります。
これは、□の図形を○に変えたのみの、かなり酷似したものです(右側が差し止められた方)。さすがに、「やせおか」の事案はこのケースほど似ているものとはいえず、複製権・翻案権・譲渡権侵害と言えるか微妙なところです。

(Amazonより引用)
(シエン社HPより引用)

 

不正競争防止法について

最後に、不正競争防止法です。

「やせおか」の表紙デザインが「周知な(需要者によく知られた)」「商品等表示」であり、需要者が混同してしまうものであるといえれば、販売を差し止められます。

「やせおか」は確かに売れていますし、「やせるおかずの作りおき」と書いてあれば、「やせおか」シリーズと混同してしまう可能性も考えられます。

このデザイン自体が商品等表示としてよく知られているか?がちょっと難しいところですが、仮に法的根拠を示して争うなら、不正競争防止法の周知表示混同惹起行為(2条1項1号)が一番可能性がありそうです。

つまり「やせるおかずの作りおき」は、不正競争法防止法上、問題がありそうだということです。

本件は訴訟を提起しているわけではなさそうなので、どのような決着を迎えるのか楽しみです(実務家としては客観的な判断基準が出る方が望ましいので、いつも裁判での決着を期待してしまいますが…)。

その他

ところで、この手の”よく似たデザインの出現”ニュースは、近年特に、ネット上で「パクリだ!」として大炎上して話題になることは、五輪ロゴ問題でもご存じのとおりです。

弁理士や弁護士などの法律家としては、「法律に照らして」考えるわけですが、
同じ事案でも、「法律上問題ない」と判断されるものも、「世間では大問題」で炎上することがあります。
五輪ロゴ問題は、まさにそのケースです(当事者のロゴデザイナーは、法律上問題のある他のケースがたくさん出てしまったので、擁護できませんが)。

一度大炎上したら、「パクリ」のレッテルを貼られて、再起が困難なほど叩かれてしまうので、
これからは、「法律に照らして」考える視点と、「世間(特にネット社会)に照らして」考える視点も、
可能な限り持っておくことが重要なのだと思います。

(平成29年6月16日追記)
小学館と新星出版社との間で、合意が成立したそうです。
参考: