特許庁が「エシカル」を誤認定?審決が取り消された理由とは

特許庁が「エシカル」を誤認定?審決が取り消された理由とは

商標実務では、言葉の意味をどう捉えるかが結論を左右することがあります。

今回取り上げるのは、商標「エシカルグレーン」(登録第6765218号)をめぐる審決取消訴訟です。
無効審判では不成立とされていたものの、その後の審決取消訴訟では、知財高裁が審決を取り消しました。

この事案で注目されたのは、特許庁の審決における「エシカル」の意味認定です。
審決は冒頭では「エシカル」は「倫理的な」などの意味を有するとしながら、その後の検討では「論理的な」の意味合いが生ずることを前提に判断を進めていました。

裁判所は、この点を単なる誤記とは見ず、商標法3条1項3号の判断の核心部分に関わる誤りだとして、審決を取り消しています。

どんな事件だったのか

本件は、商標「エシカルグレーン」(登録第6765218号)についてされた商標登録無効審判の不成立審決に対する取消訴訟です。

  • 審決取消訴訟:令和7年(行ケ)10070
  • 無効審判:無効2024-890064

争点は、この商標が商標法3条1項3号に該当するかどうかでした。

つまり、「エシカルグレーン」という商標が、指定商品との関係で、商品の品質や特徴などを普通に表示するにすぎない商標なのか、それとも自他商品識別標識として機能し得る商標なのかが問題になったわけです。

無効審判ではどう判断されたのか

無効審判の審決では、「エシカル」の文字が食品業界において一定程度使われていること自体は認めていました。

具体的には、「エシカルフード」のように、「エシカル〇〇」という形で使われている例がうかがわれるとしています。

ただし審決は、それでもなお、「エシカルグレーン」という商標が本件の指定商品との関係で、商品の品質を直接的かつ具体的に表したものとして理解、認識されるとまではいえないと判断しました。

その結果、この商標を指定商品に使用した場合でも、自他商品の識別標識としての機能を果たし得るとして、商標法3条1項3号には該当しないと結論付けていました。

問題になったのは「エシカル」の意味の取り違え

ところが、裁判所はこの審決の「当審の判断」に大きな問題があると見ました。

審決は、判断の冒頭では「エシカル」が「倫理的な」などの意味を有すると認定しています。
ここまでは一般的な理解に沿うものです。

しかし、その後の使用例の検討や、本件商標「エシカルグレーン」自体の評価の場面では、「エシカル」の文字から「論理的な」の意味合いが生ずることを前提に話を進めていました。

そのうえで、商標全体から「論理的な穀物」ほどの漠然とした意味合いを生ずる、という趣旨の認定をしていたわけです。

ですが、これは明らかにおかしい。
「エシカル」の一般的な意味は「倫理的な」であって、「論理的な」ではありません。

この意味の取り違えが、本件では決定的に問題視されました。

裁判所は「単なる誤記」では済まされないと見た

被告側は、この点について、「本来『倫理的』と書くべきところを『論理的』と誤って記載したことが明白であり、多少そうした誤記が数か所あっても、審決の結論には影響しない」と主張しました。

たしかに、文章の一部に単純な誤記があるだけなら、それだけで審決全体が取り消されるとは限りません。

ただ、今回裁判所はそうは見ませんでした。

裁判所は、審決が単に言葉を書き間違えただけではなく、商標の構成から生じる意味を誤った前提で検討していると捉えています。

つまり、「エシカル」を「倫理的な」ではなく「論理的な」と理解してしまうと、「エシカルグレーン」という商標が需要者にどう理解されるか、その評価の出発点自体がずれてしまいます。

その結果、商標法3条1項3号に該当するかどうかという核心部分の判断も、誤った土台の上に立つことになります。

裁判所は、まさにそこを問題視し、この誤りは結論に影響を及ぼすとして、審決には取り消されるべき違法があると判断しました。

なぜ言葉の意味の認定がそこまで重要なのか

商標法3条1項3号では、その商標が商品やサービスの品質、原材料、用途、提供方法などを普通に用いられる方法で表示するにすぎないかが問題になります。

この判断では、構成する語が需要者にどう受け取られるかが非常に重要です。

今回でいえば、「エシカル」が

  • 倫理的な
  • 環境や社会に配慮した
  • 持続可能性を意識した

といった方向で理解されるのか、それとも

  • 論理的な

という別の意味で理解されるのかで、「エシカルグレーン」という語全体の受け止め方は大きく変わります。

前者であれば、食品分野では商品の特徴や価値を説明する表現として近年よく使われる文脈があります。
一方、後者の「論理的な穀物」という意味では、そもそも商品の特徴として何を表しているのか曖昧です。

つまり、語の意味を取り違えると、その商標が説明的かどうかの判断そのものが変質してしまうわけです。

この事件が示していること

この事案は、商標実務において、言葉の意味認定がいかに大事かをよく示しています。

商標の審査や審判では、見た目の文字列だけでなく、その言葉が業界でどう使われているか、需要者にどう理解されるかが細かく見られます。

そのため、一語の意味を誤れば、その後の

  • 商標全体の意味内容
  • 需要者の受け止め方
  • 品質表示性の有無
  • 識別力の有無

といった判断が連鎖的にずれていくことになります。

今回、裁判所が「誤記だから問題ない」と流さず、判断の核心にかかわる誤りと捉えたのは、かなり重要なポイントだと思います。

実務的にはどう見るべきか

この事件から実務的に言えるのは、説明的商標かどうかを争う場面では、構成語の意味認定が非常に重いということです。

特に近年よく使われるカタカナ語や外来語は、一般語として広まりつつある一方で、意味の幅があることも少なくありません。

そのため、

  • その語が一般にどのような意味で理解されているか
  • 対象業界でどのように使われているか
  • 指定商品・指定役務との関係でどう受け取られるか

を丁寧に整理しておく必要があります。

今回のように、意味の認定を一歩誤るだけで、審決自体が取り消されることもあるわけです。

まとめ

「エシカルグレーン」事件では、無効審判の審決が「エシカル」は「倫理的な」等の意味を有するとしながら、その後の検討では「論理的な」の意味を前提に商標の意味内容を捉えていたことが問題となりました。

裁判所は、この点を単なる誤記ではなく、商標法3条1項3号該当性の判断の核心部分に関わる誤りと評価し、審決を取り消しました。

この事例は、商標実務において、言葉の意味をどう認定するかが結論を大きく左右することを改めて示しています。特に説明的商標が問題になる場面では、一語の理解のずれがそのまま判断全体のずれにつながることがあります。

商標が説明的かどうかは、言葉の意味の捉え方一つで結論が変わることがあります。カタカナ語や業界用語を含む商標の登録可能性や無効リスクが気になる場合は、サムライツ知財事務所に相談してみてください。言葉の意味と実務の運用を踏まえて、整理できます。