商標を登録したあと、商品やサービスにその商標を表示して使う場面では、登録商標であることを示すために「®」を付けることがあります。
ただ、この「®」の付け方によっては、思わぬ形で争点を生むことがあります。
今回取り上げるのは、登録商標「
」(登録第1742772号)を持つ権利者が、「くらわんかもなか®」という態様で使用していた事例です。これに対して、不使用取消審判が請求されました(取消2024-300744)。
結論から言うと、この件では商標登録は取り消されませんでした。
ただし、請求人に反論の隙を与えてしまった点は見逃せません。実務上も参考になる事例だと思います。
事案の概要
今回の登録商標は、縦書きの「くらわんか」です。
これに対して、実際の使用態様は「くらわんかもなか®」でした。
請求人は、この表示のされ方について、全体があたかも一体の登録商標であるかのように「®」が付されていると主張しました。つまり、登録されているのはあくまで「くらわんか」なのに、「くらわんかもなか」全体が登録商標であるように見えてしまう、というわけです。
そのうえで、使用商標は登録商標と社会通念上同一の商標とはいえないので、不使用取消を免れる使用とは認められない、との主張をされました。
審決はどう判断したのか
この主張に対して、審決は請求人の見方を採りませんでした。
ポイントになったのは、「くらわんかもなか」という表示のうち、「もなか」の文字は、使用商品である「もなか」をそのまま表すものとして、需要者に直ちに認識されるという点です。
そのため、取引者や需要者は、この表示に接したとき、商品の出所識別標識として機能しているのは「くらわんか」の部分だと理解、把握すると判断されました。
そして審決は、表示全体がまとまりよく一体となっていることや、一般に登録商標を示す記号として「®」が付されていることがあったとしても、その認識は否定されないとしました。
つまり、「くらわんかもなか®」という使用であっても、実質的には「くらわんか」が商標として使われていると理解できるとされたわけです。
その結果、商標登録は取り消されませんでした。
結果オーライでも、実務上は注意が必要
この件は結果として権利者側に有利な結論になりました。
ただ、だからといって「どこに®を付けても大丈夫」とは言えません。
むしろ今回の事例は、®マークの位置が不適切だと、余計な争点を生みかねないことを示しています。
本来、登録商標が「くらわんか」なのだと明確に示したいのであれば、そのことが一目で分かる付し方をしておくべきです。
ところが「くらわんかもなか®」という表示だと、見方によっては「くらわんかもなか」全体に対して®が付いているようにも見えます。そうすると、請求人としては「登録商標そのものではない表示を使っている」と反論しやすくなります。
今回は「もなか」が商品の普通名称であることから、「くらわんか」が識別標識として理解されると判断されましたが、常に同じように見てもらえるとは限りません。
®マークは“何が登録商標か”を明確に伝えることが大切
この事例から実務上の教訓を挙げるとすれば、®マークは登録商標に係る文字のすぐ近くに付し、どの部分が登録商標なのかが明確に分かるようにしておくべきということです。
今回のケースでいえば、
「くらわんか®もなか」
のように表示したほうが、登録商標が「くらわんか」であることを自然に伝えやすいと考えられます。
登録商標を他の文字と一緒に使うこと自体は珍しくありません。商品名の後ろに普通名称を付けたり、説明的な語句を加えたりすることは日常的にあります。
ただ、そのときに見せ方を誤ると、登録商標部分と付加部分が一体のものとして受け取られてしまうおそれがあります。特に、登録商標であることを示す®マークが全体にかかって見えるような表示は、不要な争いを招く可能性があります。
不使用取消の場面では、細かな表示の違いも争点になる
不使用取消審判では、「実際に使っている商標が、登録商標と社会通念上同一といえるか」が重要なポイントになります。
このため、日頃はあまり気にしないような細かな表示の違いでも、いざ争いになると鋭く突かれることがあります。
今回も、権利者側としては最終的に守られましたが、請求人に反論の糸口を与えてしまったことは確かです。
商標は登録して終わりではなく、どう使うかまで含めて管理が必要です。登録内容と実際の使用態様にズレがあると、あとで思わぬ形で問題になることがあります。
まとめ
今回の事例では、登録商標「くらわんか」を「くらわんかもなか®」の態様で使用していたとしても、「もなか」は商品の普通名称として理解され、「くらわんか」が出所識別標識として把握されると判断されました。そのため、社会通念上同一の商標の使用と認められ、商標登録は取り消されませんでした。
ただし、実務上はこの結論だけを見て安心するのは危険です。
®マークの位置が曖昧だと、何が登録商標なのかが分かりにくくなり、不要な争点を生むことがあります。登録商標を他の語と組み合わせて使う場合には、登録商標に対応する部分が明確に伝わるよう、®マークの付け方にも気を配る必要があります。
地味な論点に見えますが、商標実務ではこうした細部が後から効いてきます。
商標は、登録そのものだけでなく「どう表示して使うか」でも結果が変わることがあります。商品名やロゴの使い方、®マークの付し方に少しでも不安があれば、早めにサムライツ知財事務所に相談しておくと安心です。
