「ロゴは使わないって合意していたはずなのに、元従業員側に出願されて登録までされてしまった」
こういう相談は、現実に起こり得ます。
しかも厄介なのは、感覚的には“ひどい話”でも、商標の世界では登録を取り消せない(又は取り消しが難しい)ことがある点です。
今回の登録異議の事例は、その構造が分かりやすく出ています。
目次
何があった?(ざっくり)
| 本件商標(登録第6935140号) | 引用商標 |
- 飲食店の店舗ロゴに関して、申立人側は「店舗ロゴを使用しない」旨の合意があると主張
- にもかかわらず、元従業員が関与する側が、ロゴを第43類「飲食物の提供」で商標登録(登録第6935140号)
- 申立人は登録異議で、主に次の理由で取消を求めた(異議2025-900129)
- 3条1項柱書(自己の役務に使用する意思がない)
- 4条1項7号(背信的・剽窃的で公序良俗違反)
- 4条1項15号(混同惹起)
しかし結論は、登録維持(取消されない)でした。
なぜ取り消せなかった?ポイントは3つ
ここから先は、感情論ではなく「なぜダメだったのか」を実務目線で整理します。
1)「使う意思がない(3条1項柱書)」は、証明が難しい
商標法3条1項柱書の「自己の業務に係る役務について使用する商標」は、
登録査定時点で現に使っていなくても、将来使う意思があれば足りると整理されています。
そのため、申立人側が「不使用合意がある」「別のロゴを使っている」などを主張しても、
登録査定時に“将来の使用意思がない”ことを客観的に否定できるだけの材料が揃わないと、柱書で落とすのは難しくなります。
2)「ひどい出願だから公序良俗(4条1項7号)」も、原則は通りにくい
一番の誤解ポイントがここです。
日本の商標制度は先願主義です。
先に出した人が原則として権利を取る制度設計になっています。
だからこそ、4条1項7号(公序良俗)を、当事者間の紛争に広げすぎると、
「結局だれが権利者になるのか」が不安定になり、予測可能性が崩れます。
そのため、出願経緯が疑わしい・背信的に見える、というだけでは、
“例外的に排除すべき特段の事情”とまでは評価されにくいのが実務です。
3)ロゴが同じでも、15号は「周知性」が立たないと厳しい
決定では、本件商標と引用商標はほぼ同一の構成で、同一又は類似と認定されています。
それでも15号(混同惹起)が否定されたのは、引用商標(申立人ロゴ)の周知性(広く認識されていること)が認められなかったためです。
15号は「同じっぽい」だけでは足りず、
需要者が引用商標を知っていて初めて「連想・想起→混同」が成立しやすくなります。
つまり、“ロゴが似ている”はスタート地点で、勝負は“周知の立証”になりがちです。
ここが結論:日本が先願主義だからこそ、早く出した方が強い
今回の構造が示しているのは、シンプルにこれです。
合意があっても、関係性があっても、
先に出願されて登録されたあとに崩すのは難しいことがある。
しかも異議は期限があり、証拠の揃え方にも制約があります。
「後から戦う」ほど、時間もコストも不確実性も増えていきます。
だからこそ、店舗名やロゴのように、
事業の“顔”になるものは、従業員を含めた他者に先に出願される前に、早めに出願しておく。
これがいちばん現実的な防衛策です。
早めの出願が効くのは「争いを起こさない」ため
早く出すメリットは、単に権利を取ることだけではありません。
- 内部での独立・離職が起きても、商標をめぐる交渉材料になりにくい
- 取引先・FC・共同事業などが絡んでも、権利関係がブレにくい
- ロゴ変更や看板変更といった、事業へのダメージを避けやすい
要するに、争いを未然に潰す投資になります。
最後に:迷う段階で相談しておくと、後からの火消しが減ります
商標は、登録されてから慌てても、打てる手が限られることがあります。
特に、相手が「従業員」「元従業員」「関係者」のケースは、感情の対立も加わって長引きがちです。
「この店名・ロゴ、今のうちに押さえるべき?」
「誰に先に出されると危ない?」
「どの区分・指定役務で押さえるのが安全?」
こうした判断は、実務経験がものを言います。
サムライツ®︎知財事務所では、単に出願するだけでなく、
事業の状況(人の出入り、展開予定、使い方)まで踏まえて、
“先に取られない設計”と、万一の際の“打ち手”まで含めて整理します。
押しつけではなく、今のフェーズに合った取り方をご提案しますので、
迷っている段階でこそご相談ください。
