「ありふれた氏」って結局どのくらいで「ありふれた」になる?―3条1項4号の“線引き”を審判例で見る

「ありふれた氏」って結局どのくらいで「ありふれた」になる?―3条1項4号の“線引き”を審判例で見る

商標法第3条第1項第4号の「ありふれた氏」は、条文だけ読むと感覚がつかみにくいところです。
結論としては、全国順位だけで機械的に決まる明確基準はありません

ただ、最近の審判例を並べると、一定の傾向は見えてきます。
この記事では、審判例のリストをそのまま生かしつつ、目安としてどう読めばよいかを整理します。


最近の審判例一覧(全国順位つき)

※順位は「名字由来net(https://myoji-yurai.net/)」によるもの(本記事執筆時点)。審決時点の順位と一致しない可能性がある点はご了承ください。

商標(表記)名字由来netの姓(全国順位)3条1項4号
「ありふれた氏」
該当性
補足審判番号
KATAKURA/片倉工業株式会社片倉(1,436位)非該当不服2025-012318
二階堂二階堂(1,393位)非該当不服2025-004126
うめはら梅原(714位)該当不服2025-003333
TANABE CONSULTING田辺(164位)該当不服2024-006916
坂口電熱坂口(233位)該当ただし「電熱」との結合で4号には非該当で登録不服2024-016435
Okura大倉(671位)該当ただし長年の使用実績があり3条2項適用で登録不服2022-009989
nishikawa西川(113位)該当ただし長年の使用実績があり3条2項適用で登録不服2020-016881
大熊/OHKUMA大熊(698位)該当不服2023-019126
OHGA大賀(1,419位)非該当不服2023-021377
AONO青野(850位)非該当不服2024-000278
間宮堂間宮(1,477位)該当不服2022-015039
小久保工業所小久保(741位)非該当不服2023-001730
高林堂高林(1,201位)非該当不服2023-002036
Ooka大岡(1,384位)非該当不服2023-004073
TSUNODA角田(240位)該当不服2022-007743
IIO飯尾(1,615位)非該当不服2022-013482
二木二木(1,840位)非該当不服2022-014113
池上製麺所池上(453位)該当不服2022-010063

この一覧から言える「目安」:800位あたりが一つの境目になりやすい

一覧を見る限り、全国順位が高い(=よくある姓)ほど「ありふれた氏」に該当しやすい傾向はあります。
そのうえで、一つの目安としては全国800位前後が、警戒ラインになりやすいと言えます。

ただし、順位だけでは割り切れません。

  • 1,477位の「間宮」が「ありふれた」に該当
  • 741位の「小久保」が「ありふれた」に非該当

このように、明確な基準があるわけではない点には注意が必要です。


順位より大事なこと:そもそも「姓」として受け取られるか

もう一つ重要なのは、需要者が一義的に姓氏を想起するかです。

見た人が自然に「名字だ」と受け取るなら、4号の土俵に乗りやすい。
逆に、名字以外の観念が先に立つ・全体として別の語に見える、といった事情があると、4号に「該当しない」方向に働くことがあります。

例えば、上記の例で言えば「二木」は、「二本の木」や「幹が二股に分かれて生えている木」「茶屋女の一種」といった意味を有することもあり、必ずしも「二木」の姓氏を想起させるとは言い難いことから、「ありふれた氏」とは言えないと判断されました。

とはいえ、ここもケースバイケースです。
「自分はこう思う」より、「審査官がどう評価しそうか」で結果が決まるのが商標の現実です。


最後に:4号だけでなく、他の拒絶理由もセットで見ておくのが安全です

「ありふれた氏」かどうかは、出願前に一度整理しておきたい論点です。
ただ、商標は4号だけ通れば安心、というわけではありません。

たとえば

  • 3条1項各号(識別力)
  • 4条(他人の先行商標・混同など)
  • 指定商品・役務の設計
    といった別の拒絶理由で止まることも普通にあります。

もし、自分の商標が4号に該当する可能性があるか、あるいは他の拒絶理由に引っかかっていないかが判断しづらい場合は、早めに専門家の目で確認するのが安全です。

「これ、いけますか?」の段階で大きな方向性を間違えないように、
サムライツ®︎知財事務所にご相談ください。