多店舗展開を考え始めた飲食店オーナーさんから、よく出てくる不安があります。
- 「今は1店舗だけど、2号店・3号店を出したい。商標って必要?」
- 「店名はもう定着してるし、今さら取らなくても大丈夫?」
- 「商標って大手の話でしょ?個人店にはまだ早い?」
結論から言うと──
商標登録しないまま多店舗展開するのは、リスクが上がります。
理由はシンプルで、店舗数が増えるほど「名前(屋号・ロゴ)=ブランド」が事業の中心資産になり、同時に“他人に狙われやすく”“リスクが実現した時の損失が大きく”なるからです。
この記事では、
- 商標登録を後回しにしたときに起こり得ること
- なぜ多店舗展開ほど危ないのか
- じゃあ何を優先して押さえるべきか
を、実務目線で整理します。
目次
1. 多店舗展開で商標を放置すると、何が怖いのか?
リスク①:他人に先に商標を取られる(=名前が使えなくなる可能性)
商標は基本的に先願主義(早い者勝ち)です。
つまり、
- あなたが先に営業していた
- あなたの方が有名になっていた
…としても、他人が先に出願・登録してしまうと、
理屈の上では「商標権者=他人」になり得ます。
その結果、状況次第では
- 店名変更の要求(看板・メニュー・SNS・HP)
- ロゴ差し替え
- 出店先やECモールでのトラブル
といった話が現実に起こり得ます。
※「先使用権」で守れる可能性があるケースもありますが、
“万能の安全装置”ではありません。証拠の準備も必要ですし、争いになればコストもかかります。
リスク②:店舗が増えるほど「改名コスト」が爆発する
1店舗なら、まだ最悪リカバリーできます。
でも、2店舗、5店舗、10店舗…と増えるほど、
- 外看板・内装サイン
- 包材(紙袋・カップ・箸袋・シール)
- メニュー・POP
- ユニフォーム
- SNSアカウント・ドメイン
- Googleマップ、予約サイト、口コミ導線
など、変更しなければならないものが連鎖的に増えます。
つまり、商標を後回しにすると
「事業が伸びた分だけ、痛みが大きくなる」構造になってしまいます。
リスク③:「似た店」が出ても止めづらく、混同が起きやすい
商標がないと、似た店名・似たロゴに対して
- 注意・交渉の法的な根拠が弱い
- プラットフォーム(広告・SNS・地図サービス)への申立てもしづらい
という状態になります。
その結果起こりやすいのが、
- 「系列店だと思って行ったら別の店だった」
- 「口コミが混ざって評価が荒れる」
- 「なりすましっぽい店が出た」
といった 混同による信用の目減りです。
飲食は特に、ブランドの信用が「選ばれる理由」になるので、名前の混乱は地味に効きます。
リスク④:物販・EC・コラボに進んだ瞬間、守りが足りなくなる
多店舗展開しているお店ほど、途中でこうなりがちです。
- 冷凍・レトルト・瓶詰などの商品化
- EC販売
- コラボメニュー/監修商品
- 催事・ポップアップ
ここで問題になるのが、「店名=店舗サービス」だけでは守り切れないこと。
商標は「区分(指定商品・役務)」で効力が決まるので、
店内飲食の名前を守るだけの設計だと、商品展開で穴が空くことがあります。
2. 多店舗展開ほど商標が重要になる理由
商標登録は、誤解を恐れずに言うと、
“名前の席取り”です。
多店舗展開すると、
- 広告露出が増える
- 検索される回数が増える
- 認知が広がる
- 真似したくなる人も増える
つまり、席(商標)の価値が上がり、同時に席(商標)を奪われるリスクも上がるんです。
伸びてきたタイミングで問題が発覚すると、
「今さら変えられない」状態になりやすいのが一番怖いところです。
3. じゃあ何を、どの順番で押さえるべき?
全部一気に完璧にやる必要はありません。
多店舗展開の「現実的な優先順位」はだいたいこうです。
優先①:店名(文字)
まずは屋台骨です。
「この名前が使えない」は、店舗数が増えるほど致命傷になります。
優先②:ロゴ(図形・結合)
看板やSNSでロゴ露出が多いなら、文字だけでなくロゴも押さえると強いです。
優先③:略称・短縮形
お客さんが略称で呼び始めたら、略称がブランドになります。
多店舗展開するなら、略称の席取りも検討価値が高いです。
優先④:看板メニュー名/シリーズ名
商品化やコラボが視野に入るなら、
「メニュー名」も“資産化”しやすい領域になります。
4. 「商標登録しなくてもいい」ケースはある?
正直、ゼロではありません。たとえば、
- テスト店舗で、店名も将来変える前提
- 極小エリアでの短期運用
- 説明的すぎて強い独占が難しい店名(地名+業態など)
ただし、多店舗展開を前提にするなら、
多くのケースで「後回しにしたデメリットの方が大きい」ことが多いです。
また、説明的な店名であっても、ロゴに識別力があるなら、ロゴの商標登録はした方がいいでしょう。
5. 判断基準はこれだけでOK
迷ったら、次の1問で判断できます。
「この店名を変えろと言われたら、どれくらい困るか?」
- そこまで困らない → 今すぐ必須ではない場合も
- かなり困る/致命的 → 早めに商標を検討する価値が高い
多店舗展開は、ブランドの成長と引き換えに「名前の価値」が跳ね上がります。
その価値が上がる前に、席取りしておく。
これが商標の基本戦略です。
まとめ:商標は「伸びた後」より「伸びる前」に効く
商標登録しないまま多店舗展開すると危険か?
はい、危険度は上がります。
特に、
- 2号店を出す
- FC・プロデュースに進む
- 物販・ECに広げる
このあたりのタイミングは、
「名前が資産になる」フェーズに入っていきます。
まずは、
店名(文字)とロゴから、無理のない範囲で“席取り=商標出願(登録)”を検討してみてください。
「後から守る」より、「先に守ってから伸ばす」。
多店舗展開ほど、この順番が効いてきます。
