医院や歯科医院のオリジナルキャラクターは商標登録できますか?

医院や歯科医院のオリジナルキャラクターは商標登録できますか?

小児歯科や予防歯科を中心に、こんなシーンが増えています。

  • ホームページや看板に、かわいい歯のキャラクターを載せている
  • 子ども向けに「歯の妖精」「動物ドクター」などのマスコットを作った
  • LINEスタンプや配布用シールにオリジナルキャラを使っている

最近では、「病院ゆるキャラ総選挙」というイベントまで開催されているくらい、病院のマーケティングでもキャラクターはよく活用されています。
https://hospital-marketing.jp/byoin-yuruchara/

そこでふと浮かぶのが、この疑問です。

「うちのオリジナルキャラクター、商標登録して守れますか?」

結論から言うと──

医院・歯科医院のオリジナルキャラクターも、原則として商標登録の対象になります
ただし、

  • 「単なるイラスト」ではなく、「自院のサービスを示すマーク」として機能しているか
  • ありがちな歯・動物イラストを少し変えただけ、になっていないか
  • 既存キャラクターに似すぎていないか

といったポイントを押さえておくことが大切です。

この記事では、

  • どんなキャラクターなら商標登録の対象になるのか
  • 登録するメリットと、注意すべき落とし穴
  • どの区分(第44類など)で出願すべきか
  • 著作権との違い・デザイナーとの契約の話

を、やさしく整理していきます。


1. 結論:キャラクターも「自院を示すマーク」として使えば商標登録可能

商標法では、商標を

自他の商品・役務を識別する標識(自他商品・役務識別標識)

として保護します。

つまり、

  • そのキャラクターを見たときに、
  • 「あ、この歯医者さん(この医院)のサービスだな」と分かる

ような使い方をしていれば、図形商標として商標登録の対象になります。

例えば、こんな使い方なら「商標」になりやすい

  • 看板やロゴの一部として、毎回同じキャラを使っている
  • ホームページのヘッダーや名刺に「キャラクター名+キャラクター」の形で統一表示
  • 院内パンフレット・診察券・スタッフユニフォームにも同じキャラを入れている
  • 小児歯科専門クリニックで、「子どもが“ここだ!”と分かる目印」として使っている

こういう場合、
キャラクターはただの装飾ではなく、「医院・歯科医院を示すマーク」として機能している
と評価しやすく、商標登録の意味も大きくなります。


2. 登録しやすいキャラクター/注意が必要なキャラクター

登録しやすい方向性

ざっくりいうと、次のような要素があるほど、図形商標として登録しやすくなります。

  • 他院ではあまり見ない独自のデザイン・ポーズ・表情
  • 歯や動物をモチーフにしていても、「パッと見て自院のキャラと分かる」くらいの個性

医院キャラクターの商標登録例:


(登録第6968597号)

(登録第5634637号)

(登録第6603069号)

(登録第6703081号)

文字(キャラクター名や医院名など)を組み合わせた「キャラクター+ロゴ」のような結合商標は、

  • 図形単体では識別力が弱いと判断されそうな場合に、
    独自の文字部分が“自院を示す手がかり”として働くことがあり、
    全体として識別力が認められる余地が生まれる一方で、
  • その文字部分が、既に登録されている他人の文字商標と同一・類似だと、
    かえって「類似商標」と判断されて登録が難しくなることもあります。

つまり、「キャラ+文字ロゴ」にすると
常に登録されやすくなるわけではなく、

  • 図形部分のオリジナリティ
  • 文字部分の独自性と、既存商標との衝突リスク

の両方を見ながら、全体としてどう評価されるかを考える必要があります。


注意が必要なケース①:ありきたりな歯や動物のイラスト・写真だけ

例えば、次のようなものは要注意です。

  • ごく普通の「白い歯」マークを少し笑顔にしただけ
  • リハビリ等に用いられそうな動物のぬいぐるみの写真(商願2018-164386号)
  • 医療系フリー素材にありそうな動物看護師キャラクター そのまま風

こうした図形は、

単なる役務の質の表示
=商標法第3条第1項第3号、4条第1項第16号

誰もが使いそうな装飾的な表示
=商標法第3条第1項第6号

等と判断されて、図形単体では識別力が弱いと評価されることがあります。

対策のイメージ

  • キャラクター名・ロゴと一体にした「結合商標」として出願する
  • キャラクターの輪郭・配色・ポーズなどにしっかりオリジナリティを持たせる
  • 複数のパーツ(歯+キャラ+特徴的な図形背景など)を一体デザインにしてしまう

注意が必要なケース②:既存キャラクターに似すぎている

  • 有名アニメ・ゲームキャラに似せた動物
  • 誰もが知っている企業マスコットにそっくりな歯のキャラ
  • 他院のマスコットを参考にしすぎたキャラクター

こうしたものは、

  • 他人の著作権侵害
  • 他人の商標権侵害・不正競争防止法違反
  • 商標法第4条第1項第10号(周知商標との類似)、15号(他人の業務との混同のおそれ)、7号(公序良俗違反)

などの問題が出てきます。

「うちのキャラ、どこかで見たことある気がする…」と自分で感じるレベルなら要注意です。


3. 区分はどれ? 基本は第44類(医業・歯科医業)

医院・歯科医院のキャラクターを 「医院のサービスの目印」として守りたいなら、
中心となる区分は 第44類 です。

まず押さえたい第44類

指定役務のイメージ:

  • 医業
  • 歯科医業
  • 矯正歯科医業
  • 医療に関する助言
  • 医療用化粧品を用いた美容(美容系クリニックの場合) など

このキャラクターを使っている「診療サービス」の名前を守りたい
→ 第44類で図形商標/結合商標として出願

というのが基本の考え方です。

他にもこんな区分を検討

キャラクターの使い方次第で、追加区分も選択肢になります。

こんな使い方をする予定検討する区分の例
院内パンフ・配布用ノート・塗り絵などにキャラを使用第16類(印刷物・文房具など)
キャラクター入りTシャツ・エプロン・子ども用グッズ第25類(被服)、第21類(マグカップなど)
キャラ名を冠した子ども向けイベント・歯みがき教室第41類(教育・セミナー)
ECサイト名としてキャラブランドで歯ブラシ等を販売第35類(小売サービス)、第21類(歯ブラシ)

「そのキャラクターの名前や絵を、何に付けていきたいか?」 から逆算して、区分と指定商品・役務を設計していくイメージです。


4. 著作権との違い:キャラを「描く権利」と「ブランドとして使う権利」

ここもよく混ざるポイントなので、簡単に整理しておきます。

著作権(自動で発生する)

  • オリジナルのキャラクターデザインを描いた瞬間に、自動的に発生
  • 登録しなくても保護される
  • キャラクター原画を「そのままコピー」したり、「本質的特徴を模倣」すれば著作権侵害になり得る
  • 権利者は原則として「描いた人(デザイナー)」

商標権(出願・登録が必要)

  • 特許庁に出願して、登録された範囲で発生
  • 同一・類似のキャラクター(商標)を、同一・類似のサービスに使うことを禁止できる
  • 権利者は「出願・登録した人(医院(院長)や医療法人名義)」

実務的な注意点:デザイナーとの契約

外部デザイナーにキャラクター制作を依頼した場合、

  • 著作権(財産権)を医院側に譲渡してもらうのか
  • 少なくとも商標登録のための利用許諾をもらうのか

を、契約書で明確にしておくことがとても重要です。

「商標権は取れたけれど、著作権はデザイナーのまま」
という状態だと、キャラクター利用の自由度が制約されることもあります。


5. 「登録したキャラを少し変えて使う」のはアリ?

よくあるのが、

  • 季節ごとにキャラにマフラー・帽子などの小物を足す
  • 色だけ少し変える
  • 図形の線を太くする・細くする

といった、微調整したバージョンを日常使いするケースです。

商標法上は、

登録商標と社会通念上同一と認められる範囲の変更であれば、「登録商標の使用」として扱われる

とされているので、

  • キャラクターの基本的な輪郭・表情・構図が同じ
  • 色違い・小物追加程度 にとどまる

といった範囲なら、通常は登録商標の使用と評価される余地があります。

一方で、

  • 全く別人レベルに描き直した
  • デフォルメの方向性・テイストが大きく変わった
  • ロゴ全体の構成を大きく変えた

といった場合は、新たな商標として出願を検討した方が安全です。


6. 実務でのおすすめステップ

医院・歯科医院のオリジナルキャラを「ちゃんと守りたい」と思ったら、
次の順番で整理してみてください。

① 守りたいものを書き出す

  • キャラクターのイラスト(基本ポーズ)
  • そのキャラクターの名前
  • キャラクター名+キャラを組み合わせたロゴ
  • キャラを使った印刷物やグッズ

② キャラの「役割」を決める

  • 医院ブランドの顔として長く使う → 商標登録を検討
  • 院内の一時的なキャンペーンキャラ → 著作権の整理だけで足りる場合も

③ 区分・指定役務・商品を選ぶ

  • 診療サービスを守る → 第44類(医業・歯科医業)
  • パンフやノベルティも想定 → 第16類・第25類 なども検討
  • こどもイベントブランドとしても使う → 第41類 も視野に

④ デザインのオリジナリティと他人の権利をチェック

  • あまりにも既存キャラに似ていないか?
  • 病院・医療機関向けフリー素材の“ほぼそのまま”ではないか?
  • 他の医院・企業が似たキャラやロゴをすでに商標登録していないか?

7. まとめ:「ただのイラスト」から「医院の顔」へ

Q. 医院や歯科医院のオリジナルキャラクターは商標登録できますか?

  • A. はい。
    そのキャラクターが 自院の診療サービスを示す“マーク”として機能しているなら、図形商標・結合商標として登録の対象になります。
  • 登録しやすいのは、
    • オリジナリティのあるデザイン
    • 独自のキャラクター名・ロゴと一体化した構成(「○○+キャラ」)
      など、“ブランドらしさ”があるものです。
  • 区分は、まず 第44類(医業/歯科医業) を中心に、
    使用予定に応じて第16類・第25類・第41類・第35類などを組み合わせるイメージです。
  • 著作権は「描いた瞬間に自動で発生」、商標権は「出願・登録が必要」。
    デザイナーとの権利関係も忘れず整理しておくと安心です。

「うちのキャラ、子どもたちがすごく気に入ってくれている」

そう感じるなら、そのキャラクターはすでに医院の大事なブランド資産です。
“ただのイラスト”ではなく、“医院の顔”としてきちんと守るかどうか。
一度、商標の観点から見直してみてください。